『segakiyui短編集』

segakiyui

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SSS96『ライス』

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 大学1年の夏、アメリカに1ヶ月の短期留学、大学寮に滞在した。
 残っている大学生たちと英語の只中で日々を暮らす。特に食事は大問題だ。昼と夕はどこかでパンを買ってもいいが、朝は授業の関係があって、寮で取らざるを得ない。
 食堂でトレイを持ち、緊張しながら列に並ぶ。色とりどりの料理の向こうから、でんとしたおばちゃんがにっこり笑う。にっこり笑われても料理の内容すらわからない。必死に考えた挙句に、「プリーズ、ディス(下さい、これ)」と指をさす。主菜副菜万事が全部この調子で毎回何とか切り抜けるのだが、時には見当違いのものを山盛り盛られて黙々と食べ続けたこともある。だから、望み通りのものを望み通りの量もらえ、尚且つ、それが美味しかった時などは、これでその日1日が全てうまく行くような気になった。
 半月ほど経ったある日。
 朝食の注文にかなり慣れたから、おばちゃんにもにっこり笑い返して、ピーマンの肉詰めを指さしていった。
「ディス、プリーズ」
「オーケー!」
 おばちゃんはにこにこしながらソースがいるかどうかも尋ねてくれ、こちらもより以上ににこにこしながらプリーズを連発した。
 ソースがたっぷりかかって湯気を立てている肉詰めにはご飯が欲しい。これならわかると、指さしながら伝えた。
「ライス、プリーズ」
「ホワット?」
 どうしたのだろう。おばちゃんはとんでもなく驚いたと言う顔になっている。
 そう言えば、英語の発音でRとLの区別が下手だと「ご飯」が「南京虫」になってしまうと聞いた。これはとてもまずい。慌てて丁寧に言い直す。
「ライス、プリーズ」
 だがおばちゃんは訝しみつつ確認するように、
「ディス? ライス?」 
 ご飯を指差し尋ねてくれる。それだ、それです、その通り。大きく頷く。
「オーーーケーーー」
 おばちゃんは首を振りながら、ご飯を肉詰めの横にてんこ盛りしてくれた。ようやく通じた嬉しさでにこにこしてトレイを席に運んでいこうとすると、なおも訝しげに見つめている。いくら呑気でもさすがにちょっと不安になった。あの人の良いおばちゃんを、そこまで不審がらせる何が、この皿に載っているのだろう。
 用心しつつ食事を始めた途端、思わず周囲の人目を構わず大笑いしてしまった。
 ピーマンには『ライス』がぎゅうぎゅうに詰まっていたのだ。

                   終わり
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