『DRAGON NET』

segakiyui

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1.『利き腕を傷つけるなかれ』(2)

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「っ、ん、んっ、んっ………んあっっ!」
 包帯を巻いたカザルの右腕に、突然爪を立てた。
 オウライカを受け入れながら、必死に声を堪えていたカザルがびくりと仰け反る。
「痛いか?」
 自分の掠れた声が相手を征服したいと望んでいる。
「ひ、でえ…っ……傷……ひっかき………やがっ……あああっ!」
 抵抗しかけたカザルが悲鳴を上げた。
「君が素直じゃないからだろう。声を聞かせろって言ったんだぞ?」
「い、や、だ……っ……って……言った………もん」
「強情だな」
「ふ……くっぅうっ……っ!」
 背後から抱えられて苦しそうに呻いたカザルは、またすぐにきつく歯を食いしばった。ベッドに押し付け深く奥まで貫くと、眉を寄せて目を閉じ、涙を溜めてシーツにしがみつく。
 腕と下半身の痛みが辛いのだろう、顔を歪めてびくびく痙攣しながら、それでも漏らす吐息はどんどん甘くなっていく。
「んっ…んんっ………ん、はっ……はんっ」
「少しは気持ちよくなってきたか?」
「な…らね……えし……っ」
 苦しそうな意地を張った声に快楽を読み取る。
「それは申し訳ないな」
「っ……も……っ、さ…さと………い……け…よっ……う、んんんっ!」
 オウライカはカザルを抱えていた腕をずらせて、半勃ちになっているものを掴んだ。ぎょっとしたように震えたカザルが、容赦なく扱かれ出してさすがに小さく声を上げる。
「あ……ああっ」
「気持ちいいか?」
「よ…く……ねえ……っ……て……、は、あああっっ」
「にしては、いい声だが」
「…さい………っ……てー…っ、んうっ、や……あっ」
 指先が触れた一点に、体が波打った。
「ここが弱いとか」
「……ち……が……っ」
「じゃあ、もっとここを責めてもいいよな?」
「ひ……っっあっ」
 ぐい、と抉り込みながら先を指先で摘むと、ぞくん、とカザルが震えた。そのまま立続けに同じ場所に擦りつけて、逃げかけた腰を抱え込み、みるみる膨らんだものを扱き上げる。
「あっ、あっ、あっあ、ああっ、ああっ」
 がくがく震えながら見開いた目で虚空を見つめて、カザルが悲鳴を上げた。オウライカが前後させるまでもなく、自分で腰を振り、仰け反りながら弾け飛ぶ。自分がそうしているのに気づかないのだろう、ベッドに崩れ込んでなおも腰を揺すり、動きの緩んだオウライカの指をねだるように自分のものに押しつけて、快楽の名残りを貪った。
「気持ちいいか?」
「う…ん……気持ち……い……」
 覗き込むオウライカに蕩けた黄金の瞳が涙ぐみながら頷く。幼い表情は甘やかだ。
「も……壊れ……そ……」
 柔らかな声音が次を誘う。
「壊れてもいいぞ? 一生ここで飼ってやる」
「へ…へへ……嘘……ばっか…………ん……っ……」
 ゆっくりオウライカが引き抜くと、小さく笑ってカザルは崩れ落ちた。涙で濡れた頬に微かな笑みを浮かべたまま眠りに落ちる。
「カザル?」
「………」
 静かな寝息だけが戻ってくるのに、オウライカは溜め息をついてベッドを降りた。バスルームへ向かい、シャワーを浴びて部屋に戻り、床に脱ぎ散らかされていたカザルの服を拾い上げて改める。
 下着と薄汚れたパンツのポケットの奥から小さなプレートを見つけだし、それにさっき髪を梳くふりをして引き剥がした極細のコードをまとめて部屋の隅のケースに入れる。後で調べさせるつもりだが、どうせ『塔京』側の盗聴器と発信機だろう。
「今回はちょっと毛色が違うな」
 オウライカの君臨する『斎京』は見えない世界を制し、人の心の闇に関わる場所だ。『塔京』は時にその『斎京』の力を利用し、時にこうしてその力を牽制してくる。
「カークらしくもない」
 窓から外を見下ろしながら、ガラス越しに映ったベッドの上のしなやかな身体を眺めた。くったりと寝そべる体は伸びやかで滑らかだ。見知らぬ男に唐突に抱かれたわりには、見事に寛いでいる。
「詰めが甘い」
 愛撫に応えるより、犯される快楽にだけ反応するような抱かれ方だ。それはカザルが道具として扱われてきたことを教えている。
 右ききのくせに右腕を執拗に傷つける芝居は、オウライカの手元に入り込む手立てだろう。オウライカが傷つき弱った者に無条件の庇護を与えるのを知っている連中の遣り口、それをためらいなく完全にやり抜いて、まんまとオウライカの下に入り込んだ、このカザルという男はおそらく一流の刺客だろう。
「何か……動きがあった、か」
 ここで突き放しても、カザルはまた何かと理由をつけて入り込んでくるだろう。今回はオウライカが直接関わったが、次に入り込む状況によっては、さっきのようにまた体を傷つける手口でくるか、それとも快楽を餌にしてくるか。
 オウライカの手に戻ってくるまで、さて幾人の相手を通ってくるか。
 いずれにしても面白くない。
「ふむ」
 テーブルに戻ってさっきのケースを開ける。中身をまとめて掌にだし、窓から外へ放り出した。ひょおと冷たい風が前髪を嬲る、その下で目を細め、煌めく夜景に沈む殺意を見送る。
 この判断が吉と出るか凶と出るか、ライヤーなら何と言うか。
『オウライカさんらしい、と言えばいえますが』
 くすくすと笑って、自分の命込みで秤にかけた事情を楽しげに呑み込んではくれるだろうが。
 窓を閉め、振り向いてベッドに戻り、眠ったままのカザルの身体をもう一度丁寧に探って、皮膚に埋め込まれているセンサーが一ケ所しかないのを再確認する。足の付根にある5ミリ四方の小さな膨らみは、裸になってもよほどのことがない限り見つけられない。
 静かになぞって、人間の体にあるまじき異物の感触に目を細める。麻酔をかけて外せなくもないが、以前試した人間は直後から精神に異常をきたした。
 どうやらそれは痛みを伝える神経中枢と関係させているらしく、張り付いている間は痛みの閾値が高い。だからこそ、任務のために傷つくのもそれほど苦痛ではない。だが、外したら最後、閾値が極めて低いところに設定されてしまうらしく、軽くぶつかるだけで気を失うような状況になってしまう。
 繰り返される痛みに心身共に疲労困憊し、やがては精神を崩壊させて無反応になり、飲み食いさえできなくなって餓死していった相手を、オウライカは救えなかった。
 同じ状況は繰り返させたくない。
 だからといって、このセンサーを残したまま、カザルを側に置いておくと言えば、ブライアン始め『斎京』の連中は決していい顔をしないだろう。
 ただ、今は誰もまだ、カザルが『塔京』の刺客だとは気づいていない。街のチンピラをオウライカが面白半分に連れ込んできた、困ったことだが、それでオウライカがあちらこちらを徘徊することがなくなるなら、それでもよしとブライアンは考えるかもしれない。
 問題は、この男が大人しくオウライカの側にいることを納得するかどうかだ。
 溜め息まじりに顔を上げたとたん、カザルがぱちりと目を開けた。
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