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16.『下町』(2)
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ファローズの紋の印象は『敏感な小鳥』だ。危険を察知し、異変に驚いて飛び上がる。
この数日、疲ればかりが溜まっている気配だったのに、今日の気配はちょっと違う。疲れの底にぴりぴりした緊張が潜んでいて、小鳥は大きく目を見開いて羽を膨らませて怯えている。
掠めた印象は白髪の男。巡視中に、ファローズが納得できないおかしなところで見たらしい。
そいつは『ネフェル』の一派だ。『ネフェル』とはライヤーが知らない名前だが何か意図を持って動いているのだろう、それにファローズが不安をかきたてられているらしい。ブルーム直属ではないらしく、ファローズはその『ネフェル』の上にいる『マジェス』という男にも不信感を抱いている。
「お待ちどうさまでした」
それぞれの疲れと緊張に応じた濃度と甘さにコーヒーを調節して持っていくと、飯をかき込み終わった連中が次々と手を伸ばしてきた。
「うめぇ……」
「生き返るなあ…」
「ライヤーのこれはもうたまんねえよなあ」
はぁ、とかほぉ、とか感極まった声が上がる中、ファローズだけが半端に平らげた飯の途中で中身を含み、訝しい顔になった。のそりとカップを持って立ち上がる。
「どうしたんです?」
「いや、これ、いつものか?」
「はい」
「すまん、ちょっとそっち行かしてくれ」
サングラスをはめたまま、ジャンパーを脱いだせいで一層小柄に見える体をきりきりさせながら厨房へやってくる。
「濃かったですか?」
「あ、ああ、うん」
ドアを開けて誘い入れ、厨房のテープル近くに椅子を引き寄せて座るファローズの後ろでドアを閉めた。
ぼんやりと手を組みながら座っているファローズの前からカップを取り上げ、何も言われないまま、そっとミルクを注ぎ足す。ちゃんと温めてあったそれを見て、ファローズがひょいと目を上げた。
「わざとか」
「え?」
「俺をこっちに呼び出したのか?」
「何がです?」
にっこり笑って見返すと、少し赤くなって目を逸らせた。
「いや、何でもねえ」
「僕がわざとファローズさんのコーヒーを濃く淹れたって?」
「勘だよ、勘」
「いい勘してますね?」
「じゃあやっぱりお前……っん」
はっとした顔を上げたファローズの顎の下に指をあて、一瞬唇を重ねる。びく、と震えたファローズが不愉快そうに眉をしかめたが、そのままゆっくり睫を伏せた。
「んっ……ん、はっ」
舌を差し込まれ、柔らかく嬲られたファローズが小さく喘ぎながら顔を逸らせる。潤んだ目を見開く相手に、唇を触れさせながら静かに囁いた。
「疲れたでしょう?」
「……」
「僕でよければ慰めますけど?」
「………はぁ」
微かに溜め息をついたファローズが誘うように目を閉じる。
ライヤーの胸の中、掌に捉えた小鳥が震えながら見上げるのがわかる。その羽根をそっと包み込み、軽く力をいれつつ、小さな頭を撫でてやる。
「お前……っ…男は……」
「ファローズさんならいいですよ」
吐息で笑うとぞくりとファローズが背中から震えた。
「好きなだけ、抱いてあげる」
「あ…ぁ…っ」
側に寄って体を引くのを抱き締める。胸の小鳥にするのと同様、今にも握り潰しそうな強さで一瞬握った股間に、反応しかけていたファローズのものがじわりと熱を帯びて勃ち上がった。
ファローズはネコだ。だが、それをあからさまにしていなくて、時々どうにも壊れそうになっているのを感じているから、煽るのは紋章を使うまでもない。押さえつけていた欲望を解き放てると期待させてやればいい。
「コーヒーが……冷める……っ」
それでも掠れた声でファローズが呻いた。
表の部屋はそれぞれに休みに行ってしまったのだろう、静まり返って人の気配がない。いつもならファローズに声をかけていくルインもこの部屋の様子では入ってこれまい。
薄笑いしながらライヤーは指先でファローズを嬲り続ける。
「ライ……ヤ…っ」
「そうですね、じゃあ」
ふいにぽん、と突き放すようにファローズを離した。
朦朧とした顔を上気させた相手が虚ろな瞳を向けてくるのに、エプロンを外しながら低く命じる。
「さっさと飲んで下さい。その後で」
「………」
何かに取り憑かれたようなあやふやさで、ファローズがそろそろとカップを持ち上げて喉へ流し込んだ。
この数日、疲ればかりが溜まっている気配だったのに、今日の気配はちょっと違う。疲れの底にぴりぴりした緊張が潜んでいて、小鳥は大きく目を見開いて羽を膨らませて怯えている。
掠めた印象は白髪の男。巡視中に、ファローズが納得できないおかしなところで見たらしい。
そいつは『ネフェル』の一派だ。『ネフェル』とはライヤーが知らない名前だが何か意図を持って動いているのだろう、それにファローズが不安をかきたてられているらしい。ブルーム直属ではないらしく、ファローズはその『ネフェル』の上にいる『マジェス』という男にも不信感を抱いている。
「お待ちどうさまでした」
それぞれの疲れと緊張に応じた濃度と甘さにコーヒーを調節して持っていくと、飯をかき込み終わった連中が次々と手を伸ばしてきた。
「うめぇ……」
「生き返るなあ…」
「ライヤーのこれはもうたまんねえよなあ」
はぁ、とかほぉ、とか感極まった声が上がる中、ファローズだけが半端に平らげた飯の途中で中身を含み、訝しい顔になった。のそりとカップを持って立ち上がる。
「どうしたんです?」
「いや、これ、いつものか?」
「はい」
「すまん、ちょっとそっち行かしてくれ」
サングラスをはめたまま、ジャンパーを脱いだせいで一層小柄に見える体をきりきりさせながら厨房へやってくる。
「濃かったですか?」
「あ、ああ、うん」
ドアを開けて誘い入れ、厨房のテープル近くに椅子を引き寄せて座るファローズの後ろでドアを閉めた。
ぼんやりと手を組みながら座っているファローズの前からカップを取り上げ、何も言われないまま、そっとミルクを注ぎ足す。ちゃんと温めてあったそれを見て、ファローズがひょいと目を上げた。
「わざとか」
「え?」
「俺をこっちに呼び出したのか?」
「何がです?」
にっこり笑って見返すと、少し赤くなって目を逸らせた。
「いや、何でもねえ」
「僕がわざとファローズさんのコーヒーを濃く淹れたって?」
「勘だよ、勘」
「いい勘してますね?」
「じゃあやっぱりお前……っん」
はっとした顔を上げたファローズの顎の下に指をあて、一瞬唇を重ねる。びく、と震えたファローズが不愉快そうに眉をしかめたが、そのままゆっくり睫を伏せた。
「んっ……ん、はっ」
舌を差し込まれ、柔らかく嬲られたファローズが小さく喘ぎながら顔を逸らせる。潤んだ目を見開く相手に、唇を触れさせながら静かに囁いた。
「疲れたでしょう?」
「……」
「僕でよければ慰めますけど?」
「………はぁ」
微かに溜め息をついたファローズが誘うように目を閉じる。
ライヤーの胸の中、掌に捉えた小鳥が震えながら見上げるのがわかる。その羽根をそっと包み込み、軽く力をいれつつ、小さな頭を撫でてやる。
「お前……っ…男は……」
「ファローズさんならいいですよ」
吐息で笑うとぞくりとファローズが背中から震えた。
「好きなだけ、抱いてあげる」
「あ…ぁ…っ」
側に寄って体を引くのを抱き締める。胸の小鳥にするのと同様、今にも握り潰しそうな強さで一瞬握った股間に、反応しかけていたファローズのものがじわりと熱を帯びて勃ち上がった。
ファローズはネコだ。だが、それをあからさまにしていなくて、時々どうにも壊れそうになっているのを感じているから、煽るのは紋章を使うまでもない。押さえつけていた欲望を解き放てると期待させてやればいい。
「コーヒーが……冷める……っ」
それでも掠れた声でファローズが呻いた。
表の部屋はそれぞれに休みに行ってしまったのだろう、静まり返って人の気配がない。いつもならファローズに声をかけていくルインもこの部屋の様子では入ってこれまい。
薄笑いしながらライヤーは指先でファローズを嬲り続ける。
「ライ……ヤ…っ」
「そうですね、じゃあ」
ふいにぽん、と突き放すようにファローズを離した。
朦朧とした顔を上気させた相手が虚ろな瞳を向けてくるのに、エプロンを外しながら低く命じる。
「さっさと飲んで下さい。その後で」
「………」
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