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41.『人形』(1)
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「ねえねえねえねえ、何だろ、あれ、ぶっ飛んでるよね? 壊れてるよね? 大階段であんなこと言い出して、カークってばさ、ほんとにまじに壊れてんのかな?」
けたけた嘲笑しながらオフィスにネフェルが戻ってきた。後ろに従うルー・レンを振り返り振り返り、大声で話し続ける。
「おかしい危ないイッチャッテル、まあいろいろ言われてきたけどさ、ああいうトップを抱いちゃってる僕ってか、マジェスさんってのもイカレテルよね?」
「おかえりなさい」
ライヤーは手にしていた書類をまとめて机に置く。
「頼まれたもの、済んでます」
「あ、そう、ふぅん、仕事は早いんだ、仕事はねっ」
「…………内容もいいです」
書類を一瞥もしないネフェルの後ろから手を伸ばしたレンが数枚捲って評価した。猫背気味のまま、ちらっと上目を使ってライヤーを見る。
「あ、そうっ、でもさっ」
くくくくっ、とネフェルが笑い、肩越しに瞳を煌めかせて振り返る。
「あっちが早いと困るよねっ!」
「は?」
きょとんとして相手を見遣ると、うんうん、そりゃ困る、だって相手はカークだもん、早いとレグルのニの舞いだもんねっ、と楽しそうに窓に向かって高笑いした。
「レグルさん?」
「……先日再入院されましてね」
ルー・レンは素早く視線だけで部屋を見回した。残りの人間はそれぞれ外回りに出たのかいない、それを確かめてドアまで戻り、鍵をかけてくる。
「復帰は不可能、ということです」
「御病気ですか」
「うふふふっ、男の本懐っ!」
ネフェルが大笑いしながらどさん、と椅子に体を投げる。そのまま足を上げて、放り出していたゲーム機を取り上げた。
「ライヤーくんもそうならなきゃいいけどね!」
「腹上死、というんですか」
ルー・レンが真面目な顔で付け加えた。
「閨房で再発作を起こされたようですねえ」
「………相手はカークさん?」
「他に誰がいるの!」
驚いた、と言う顔でネフェルが大声を上げる。
「だから、足りなくなったんだろーなあ!」
「足りない?」
「…………この前聞かせて頂いたこと、本心ですか?」
ルー・レンが冷たい眼で確認してきた。
「カークを、押さえられる自信がある、と?」
「ん、まあ、たぶん」
はは、と笑ってみせると、だいじょーぶ、そんな人で、ルー・レェン、僕面子潰されんの嫌いだなー、とネフェルが混ぜ返す。
「でも、そちらこそ」
二人が出かける前に命じられていた事務処理と、それ以外に片付けておいた細々としたデータ整理結果をレンに示しながら、ライヤーは苦笑した。
「僕なんて不要、じゃなかったんですか? こういう仕事ができるなら置いて下さるってことでしたけど」
これぐらいできたらお眼鏡にかないますかね、そう続けると、レンはデータファイルを素早く確認し、
「……事情が変わりました。あんたにもっと似合いの仕事が見つかったんで」
「トイレットロールの代わりだけどねっ!」
ぶふふふーっ、とネフェルが爆笑する。
「トイレットロールの代わり?」
ニュアンスはわかったし、留守の間好き放題にパソコンを触らせてくれたから、いくつかのセキュリティを突破してあれこれの情報も手に入れた。その上での二人のやりとりに、ライヤーはレグルを失ったカークがはけ口を探してるらしいと気がついた。
「ふぅん」
『いや…っ、嫌だっ、オウライカさんっ、オウライカ………っ』
頭の中に過った声は切なく甘い喘ぎ声。
『早く…』
あの声で腕の中でねだられたならどうだろう、と思わず下半身に重みが増す。
「けど、さっ、相手はカークだよっ、こいつでほんとに大丈夫?」
ゲームを始めかけたネフェルがふと笑いを止めてルー・レンに尋ねる。
「さあ」
「……証明しましょうか?」
うっすら笑ったライヤーにネフェルがきょとんとした顔で動きを止めた。
「どうやって?」
「こうやって」
はっとしたようにレンが構えた瞬間に、身を翻して数歩でネフェルの元へ辿り着く。呆然としている相手の手首をまとめて捉え、一気に椅子から引き上げ、よろめいたところを後ろの大きなガラス窓に背中を向けて押し付けた。
ずどおっ。ぎゃあああっっっ。
放置されたゲームが派手な悲鳴を上げて、とたんにゲームオーバーの音楽が鳴り響く。
「ちょ、ちょっとちょっと、何の冗談…っ」
「暴れるとガラスが割れるかもしれない」
ぼそりと耳元に囁いてやると、ぎくりとネフェルがじたばたするのを止める。
「大怪我するならまだしも、ここを割って下まで落ちたらかなり痛いと思います」
「死ぬじゃないかっ、ルー・レンっ、何やってんの、ルー・レンっ……っ」
「レンさんは動けませんよ」
ネフェルの耳を軽く噛み、続ける。
「僕が何をやるのかわかってますから」
「……ちょっと我慢しててください」
「何っ、我慢って、我慢って、あ、っ」
レンが唸るように呟いたのをあっけに取られた顔で振り向きかけ、ネフェルはライヤーが股間に手を滑らせたのに固まった。
「えっ、待って、何っ、何すんのっ、やっ、ルー・レンっ、ルー・レンっ、っあ、あっ」
けたけた嘲笑しながらオフィスにネフェルが戻ってきた。後ろに従うルー・レンを振り返り振り返り、大声で話し続ける。
「おかしい危ないイッチャッテル、まあいろいろ言われてきたけどさ、ああいうトップを抱いちゃってる僕ってか、マジェスさんってのもイカレテルよね?」
「おかえりなさい」
ライヤーは手にしていた書類をまとめて机に置く。
「頼まれたもの、済んでます」
「あ、そう、ふぅん、仕事は早いんだ、仕事はねっ」
「…………内容もいいです」
書類を一瞥もしないネフェルの後ろから手を伸ばしたレンが数枚捲って評価した。猫背気味のまま、ちらっと上目を使ってライヤーを見る。
「あ、そうっ、でもさっ」
くくくくっ、とネフェルが笑い、肩越しに瞳を煌めかせて振り返る。
「あっちが早いと困るよねっ!」
「は?」
きょとんとして相手を見遣ると、うんうん、そりゃ困る、だって相手はカークだもん、早いとレグルのニの舞いだもんねっ、と楽しそうに窓に向かって高笑いした。
「レグルさん?」
「……先日再入院されましてね」
ルー・レンは素早く視線だけで部屋を見回した。残りの人間はそれぞれ外回りに出たのかいない、それを確かめてドアまで戻り、鍵をかけてくる。
「復帰は不可能、ということです」
「御病気ですか」
「うふふふっ、男の本懐っ!」
ネフェルが大笑いしながらどさん、と椅子に体を投げる。そのまま足を上げて、放り出していたゲーム機を取り上げた。
「ライヤーくんもそうならなきゃいいけどね!」
「腹上死、というんですか」
ルー・レンが真面目な顔で付け加えた。
「閨房で再発作を起こされたようですねえ」
「………相手はカークさん?」
「他に誰がいるの!」
驚いた、と言う顔でネフェルが大声を上げる。
「だから、足りなくなったんだろーなあ!」
「足りない?」
「…………この前聞かせて頂いたこと、本心ですか?」
ルー・レンが冷たい眼で確認してきた。
「カークを、押さえられる自信がある、と?」
「ん、まあ、たぶん」
はは、と笑ってみせると、だいじょーぶ、そんな人で、ルー・レェン、僕面子潰されんの嫌いだなー、とネフェルが混ぜ返す。
「でも、そちらこそ」
二人が出かける前に命じられていた事務処理と、それ以外に片付けておいた細々としたデータ整理結果をレンに示しながら、ライヤーは苦笑した。
「僕なんて不要、じゃなかったんですか? こういう仕事ができるなら置いて下さるってことでしたけど」
これぐらいできたらお眼鏡にかないますかね、そう続けると、レンはデータファイルを素早く確認し、
「……事情が変わりました。あんたにもっと似合いの仕事が見つかったんで」
「トイレットロールの代わりだけどねっ!」
ぶふふふーっ、とネフェルが爆笑する。
「トイレットロールの代わり?」
ニュアンスはわかったし、留守の間好き放題にパソコンを触らせてくれたから、いくつかのセキュリティを突破してあれこれの情報も手に入れた。その上での二人のやりとりに、ライヤーはレグルを失ったカークがはけ口を探してるらしいと気がついた。
「ふぅん」
『いや…っ、嫌だっ、オウライカさんっ、オウライカ………っ』
頭の中に過った声は切なく甘い喘ぎ声。
『早く…』
あの声で腕の中でねだられたならどうだろう、と思わず下半身に重みが増す。
「けど、さっ、相手はカークだよっ、こいつでほんとに大丈夫?」
ゲームを始めかけたネフェルがふと笑いを止めてルー・レンに尋ねる。
「さあ」
「……証明しましょうか?」
うっすら笑ったライヤーにネフェルがきょとんとした顔で動きを止めた。
「どうやって?」
「こうやって」
はっとしたようにレンが構えた瞬間に、身を翻して数歩でネフェルの元へ辿り着く。呆然としている相手の手首をまとめて捉え、一気に椅子から引き上げ、よろめいたところを後ろの大きなガラス窓に背中を向けて押し付けた。
ずどおっ。ぎゃあああっっっ。
放置されたゲームが派手な悲鳴を上げて、とたんにゲームオーバーの音楽が鳴り響く。
「ちょ、ちょっとちょっと、何の冗談…っ」
「暴れるとガラスが割れるかもしれない」
ぼそりと耳元に囁いてやると、ぎくりとネフェルがじたばたするのを止める。
「大怪我するならまだしも、ここを割って下まで落ちたらかなり痛いと思います」
「死ぬじゃないかっ、ルー・レンっ、何やってんの、ルー・レンっ……っ」
「レンさんは動けませんよ」
ネフェルの耳を軽く噛み、続ける。
「僕が何をやるのかわかってますから」
「……ちょっと我慢しててください」
「何っ、我慢って、我慢って、あ、っ」
レンが唸るように呟いたのをあっけに取られた顔で振り向きかけ、ネフェルはライヤーが股間に手を滑らせたのに固まった。
「えっ、待って、何っ、何すんのっ、やっ、ルー・レンっ、ルー・レンっ、っあ、あっ」
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