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64.『誓いを刻むなかれ』(1)
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「んで?」
「んで、とは?」
布団の上に半身起こして、香の物を茶碗の飯の上に置き、オウライカは眉を寄せて目の前に胡座をかいた男を見た。
「言っただろうが、戻ってきたらいろいろ聞きてえことがあるって」
「……そうだったかな」
もう一度香の物を口に運ぶ。ぱりぱりと音をさせて小気味よく噛むのに、トラスフィはサングラスを外して険しい顔でねめつけてきた。
「とぼける気か?」
「………」
オウライカはちら、と側の布団で眠っているカザルを見た。くうくうと熟睡している相手はオウライカの足に手を触れていて、身動きするたびに軽く震えて瞬きする。
「カザルなら眠ってるよ」
「だが、聞こえてる」
「ほんとか?」
「……カークの下に居るということはそういうことだ」
どんな場所でも時でも状態でも気を緩めて前後不覚になど陥らない。それこそ、薬を打たれて快感に意識を飛ばしてさえも、細かな情報を無意識の部分で拾っていて、後でじっくり確認する術さえ訓練されている。
「怖えな」
「……人を造り変えるからな」
「……それがハイトのやり方かよ」
「そうだ」
ハイトの意図がどこにあるのかはわからない。けれど、その望みが民の平穏でないのは明らかだ。
「『塔京』はどうなってんだ」
「……ルワンやカザルの話やいろんな情報を集めると、『塔京』の竜は眠っていない可能性がある」
「何?」
「以前、カークの父、テール・カークが喰われて『塔京』の竜は眠り、テールを管理下においていたハイトが『塔京』の覇権を握った、私はそう聞かされていた」
オウライカは空になった茶碗を置き、箸を降ろして手を合わせた。
「ごちそうさま」
「……飯一膳しか喰ってねえじゃねえか」
「……入らない」
「喰えよ」
「……へたに詰め込むと吐く」
オウライカは苦笑した。
「中身が半分は持ってかれてる」
「っ…」
「いろんな部分が欠けてるから、今まで通りにはいかんさ」
微かに青くなったトラスフィに軽く眼を伏せ、
「配慮を頼む」
「……っかやろう」
トラスフィが低く唸った。
「んなこと、今さら頼むな」
「リヤン達には知らせたくない」
「………」
「フランシカもリーンも平気な振りをして頑張ってしまう」
「……俺は」
「ん?」
「俺はいいのかよ」
「君はいいだろう」
「なんで」
「図太い」
「………ほっとけ」
それで、と促すトラスフィに頷く。
「ハイトの下にシュガット、レグル、マジェスが居て、竜が次に目覚めるときにハイトの跡を継ぐべく、贄となるカークを手に入れようとしている、そう思っていた。だが、テールは喰われておらず、『塔京』は目覚めた竜を何らかの方法で制御しつつしのいでいる、ように見える。だとしたら、その方法は何か」
「……だからルワンを動かしてたのか。……ライヤーは」
「……ライヤーは……連絡が途絶えた」
「何?」
やられちまったのか、そう尋ねる相手に首を振る。
「紋章は掴める。だが、反応しない。私が接触しているのをわかっているが返答しない、そういう感じだ」
「…………裏切ったのか」
カークに辿りついて、その場所にぬくぬくとして、あんたを見捨てやがったのか。
殺気立つトラスフィにまた首を振った。
「違う、ようだ」
「あん?」
「………おそらくは」
探していたものを、ようやく見つけて手に入れたのだろう。
「探していたもの? カーク、か?」
「いや」
自分の飢えを満たす、ただ一人の存在を確かめたのだ。
「……どっちにせよ、『塔京』に寝返ったってことだろ」
また厄介なやつが裏切りやがったなあ、とトラスフィは苦々しい口調で唸った。
「あんたに負けず劣らずばけもんだしなあ、あいつも」
「私もか」
「『夢喰い』と二度やり合って生き返ってきた奴が人間を名乗っちゃまずいだろ」
トラスフィは肩を竦めた。
「で、方法は見つかったのか」
「確定ではないが、ラゴル13-4の精製を大量に行っているのではないかと言ってよこしている」
「ラゴル13-4……まさか……あれが竜の血から作ってるってのは本当だったのか?」
「まあな」
大量に血液を絞り続ければ、都市を滅ぼす竜とは言え体力もエネルギーも尽き果てる。
「そして、そのラゴル13-4は都市全体に様々な形でばらまかれて人々の欲望を一点に絞り込み、理性も知性も反抗心も蝕み消し去っていく、というわけだ」
「……ならカークは」
「……万が一の竜の暴走に備えられた贄ということになる」
「それを押さえようとして、シュガットもレグルもカークを取り合ったのか」
「今はシュガットとマジェスが手を組みながらカークを囲っているらしい………そっくりだな」
「え?」
「カーク自身が、捕らえられて血を絞り続けられる竜のようだ」
「同情してる場合じゃねえだろ、あんた」
トラスフィがむっとした顔になった。
「どっちにせよ、『塔京』の方法はここじゃ使えねえ。おまけにライヤーまであっちにくれてやって、お人好しにもほどがあるぜ」
「私には君やカザルが居る」
カークに比べれば、地獄を見るにも甲斐がある。
オウライカが笑うと、トラスフィは俺ぁ諦めねえからな、と吐き捨てた。
「んで、とは?」
布団の上に半身起こして、香の物を茶碗の飯の上に置き、オウライカは眉を寄せて目の前に胡座をかいた男を見た。
「言っただろうが、戻ってきたらいろいろ聞きてえことがあるって」
「……そうだったかな」
もう一度香の物を口に運ぶ。ぱりぱりと音をさせて小気味よく噛むのに、トラスフィはサングラスを外して険しい顔でねめつけてきた。
「とぼける気か?」
「………」
オウライカはちら、と側の布団で眠っているカザルを見た。くうくうと熟睡している相手はオウライカの足に手を触れていて、身動きするたびに軽く震えて瞬きする。
「カザルなら眠ってるよ」
「だが、聞こえてる」
「ほんとか?」
「……カークの下に居るということはそういうことだ」
どんな場所でも時でも状態でも気を緩めて前後不覚になど陥らない。それこそ、薬を打たれて快感に意識を飛ばしてさえも、細かな情報を無意識の部分で拾っていて、後でじっくり確認する術さえ訓練されている。
「怖えな」
「……人を造り変えるからな」
「……それがハイトのやり方かよ」
「そうだ」
ハイトの意図がどこにあるのかはわからない。けれど、その望みが民の平穏でないのは明らかだ。
「『塔京』はどうなってんだ」
「……ルワンやカザルの話やいろんな情報を集めると、『塔京』の竜は眠っていない可能性がある」
「何?」
「以前、カークの父、テール・カークが喰われて『塔京』の竜は眠り、テールを管理下においていたハイトが『塔京』の覇権を握った、私はそう聞かされていた」
オウライカは空になった茶碗を置き、箸を降ろして手を合わせた。
「ごちそうさま」
「……飯一膳しか喰ってねえじゃねえか」
「……入らない」
「喰えよ」
「……へたに詰め込むと吐く」
オウライカは苦笑した。
「中身が半分は持ってかれてる」
「っ…」
「いろんな部分が欠けてるから、今まで通りにはいかんさ」
微かに青くなったトラスフィに軽く眼を伏せ、
「配慮を頼む」
「……っかやろう」
トラスフィが低く唸った。
「んなこと、今さら頼むな」
「リヤン達には知らせたくない」
「………」
「フランシカもリーンも平気な振りをして頑張ってしまう」
「……俺は」
「ん?」
「俺はいいのかよ」
「君はいいだろう」
「なんで」
「図太い」
「………ほっとけ」
それで、と促すトラスフィに頷く。
「ハイトの下にシュガット、レグル、マジェスが居て、竜が次に目覚めるときにハイトの跡を継ぐべく、贄となるカークを手に入れようとしている、そう思っていた。だが、テールは喰われておらず、『塔京』は目覚めた竜を何らかの方法で制御しつつしのいでいる、ように見える。だとしたら、その方法は何か」
「……だからルワンを動かしてたのか。……ライヤーは」
「……ライヤーは……連絡が途絶えた」
「何?」
やられちまったのか、そう尋ねる相手に首を振る。
「紋章は掴める。だが、反応しない。私が接触しているのをわかっているが返答しない、そういう感じだ」
「…………裏切ったのか」
カークに辿りついて、その場所にぬくぬくとして、あんたを見捨てやがったのか。
殺気立つトラスフィにまた首を振った。
「違う、ようだ」
「あん?」
「………おそらくは」
探していたものを、ようやく見つけて手に入れたのだろう。
「探していたもの? カーク、か?」
「いや」
自分の飢えを満たす、ただ一人の存在を確かめたのだ。
「……どっちにせよ、『塔京』に寝返ったってことだろ」
また厄介なやつが裏切りやがったなあ、とトラスフィは苦々しい口調で唸った。
「あんたに負けず劣らずばけもんだしなあ、あいつも」
「私もか」
「『夢喰い』と二度やり合って生き返ってきた奴が人間を名乗っちゃまずいだろ」
トラスフィは肩を竦めた。
「で、方法は見つかったのか」
「確定ではないが、ラゴル13-4の精製を大量に行っているのではないかと言ってよこしている」
「ラゴル13-4……まさか……あれが竜の血から作ってるってのは本当だったのか?」
「まあな」
大量に血液を絞り続ければ、都市を滅ぼす竜とは言え体力もエネルギーも尽き果てる。
「そして、そのラゴル13-4は都市全体に様々な形でばらまかれて人々の欲望を一点に絞り込み、理性も知性も反抗心も蝕み消し去っていく、というわけだ」
「……ならカークは」
「……万が一の竜の暴走に備えられた贄ということになる」
「それを押さえようとして、シュガットもレグルもカークを取り合ったのか」
「今はシュガットとマジェスが手を組みながらカークを囲っているらしい………そっくりだな」
「え?」
「カーク自身が、捕らえられて血を絞り続けられる竜のようだ」
「同情してる場合じゃねえだろ、あんた」
トラスフィがむっとした顔になった。
「どっちにせよ、『塔京』の方法はここじゃ使えねえ。おまけにライヤーまであっちにくれてやって、お人好しにもほどがあるぜ」
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カークに比べれば、地獄を見るにも甲斐がある。
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