『DRAGON NET』

segakiyui

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64.『誓いを刻むなかれ』(2)

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 それほど長く話していなかったけれど、やはり体力的にきつかったようで、少し横になる、と言ってオウライカはすぐに眠りに落ちた。同時にぱちりと目を開けたカザルに、じろりとトラスフィが視線を流してくる。
「やっぱり起きてやがったのか、この狸」
「寝てたけど聞こえたもん」
「嘘つけ」
 不安そうな頼りない顔しやがっても、透けてるぜ、殺気ってやつがよ。
 そうトラスフィに言い当てられてカザルは小さく笑った。
「トラスフィさんにはかなわないなあ」
「オウライカほどお人好しじゃねえからな」
 で、お前はどうする気なんだ。
 静かに尋ねられて口を噤む。
「聞いた通りだ。オウライカはお前を連れてくつもりも、巻き込むつもりさえこれっぽっちもねえ、それはわかるよな?」
「うん」
「オウライカはお前が『斎京』で普通に暮らせばいいと思ってる」
「ライヤーさん、みたいに?」
「……」
「ちらっと聞いたよ。ライヤーさんも『塔京』から流れてきたのを、オウライカさんが拾ったって」
 鋭すぎる感覚と隙のないやりとり、見かけを裏切る切れ者ぶりは『斎京』中央宮でも秀逸、オウライカの影としてその才能を遺憾なく発揮して『斎京』の中でも頼りにされていた。
「ライヤーさんを『斎京』で生きてけるようにしたのは、オウライカさんだって」
「…………今は『塔京』で楽しんでるようだがな」
「……俺もそうだろうって思ってる?」
「……」
「俺もいつか、オウライカさんを裏切るだろうって?」
「………お前は優れもんの刺客だ。そうやって仕込まれて完成してる。今さら飾り職人にはなれねえだろ」
「………なれない、よね」
 カザルは悲しく笑う。
 レシンの望むように細工ものを仕上げて暮らすのは楽しいだろう、落ち着くだろう。けれどもしオウライカの身に何かあったら、カザルは容赦なく牙を剥いてしまう、トラスフィを狙って簪を投げ付けた時のように。
「職人なら、大事な細工もの、あんな扱いをしないよね」
「……わかってんじゃねえか」
 だからさ。
 カザルは目を細めた。
「俺は俺のできることをしようと思って」
「あん?」
「……トラスフィさん、ルワンさんの居場所知ってる? 一度連れてってもらったきりだから、きっちり場所覚えてないんだ」
 符丁も知らないしね。
「……俺に聞くのかよ」
「オウライカさんが言ってた、リヤンさん達に悲しい思いさせたくないって。きっとレシンにも、ブライアンさんにも、だよね?」
「……」
「自分に関わる人全部にきっと黙ってるよね?」
「………ああ」
「だから、オウライカさんを守れるのって、あんたと俺しか居ないってことでしょ」
「……ルワンのとこで何する気だ」
「………龍を彫ってもらおうと思って」
「あん? 何に」
「………ここに」
 布団を跳ねて、乱れた寝巻の裾から伸びる脚を見せる。
「体に…」
「…………俺は……オウライカさんのものなんだ」
 カザルは微笑んだ。
「オウライカさんが縛ってくれないなら、俺が自分で縛りつける」
「………怒るぞ、オウライカ」
「だよね……だめ?」
 ふう、とトラスフィは溜め息をついた。のっそりと立ち上がる。
「トラスフィさん」
「……ま……いっだろ」
「ありがとう」
 ほっとするカザルに背中を向けながら、
「繋ぎがついたら呼びに来てやるよ、それまでオウライカの看病でもしてろ。……しかし、似たことするよなあ、どいつもこいつも」
「え?」
「ライヤーも持ってるぜ」
 肩越しに振り返ったトラスフィが苦笑いしながら付け加えた。
「臍の横に蝶を彫り込んでる」
「蝶……」
「自分の命はオウライカにもらったもんだからってよ。そいつを裏切るんだから……あいつも切ない、か」
 じゃあな、と部屋を出て行くトラスフィにぎゅ、とカザルは唇を噛んだ。
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