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10.ドリーム・ウォーカー(2)
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「うわああああーっ!!」
跳ね起きた。バランスを失い、振り回されたような衝撃に視界がくらんだ。頭痛と吐き気に頭を抱えてうずくまる。
「和樹! どうしたの!」
うろたえた声がして、勢いよく開け放たれたドアから、母さんが飛び込んで来た。
その顔は。
「来ないでーっ!」
「和樹!」
「来ないでくれっ、来ないでくれっ!」
体中が震えた。このまま限界を越えて、すべての感覚が抜け落ちていくような怖さに叫び続けた。
「誰も来ないでー!!」
「だって! 和樹!」
「おばさんっ!」
別の声が母さんの声を遮った。
「ボク、見ます! おばさん、ちょっと、下行ってて!」
その声は不思議なほど鮮やかに聞こえた。
「だって、何よあんた、そんな」
「おばさん、ここへ電話して、和樹のこと診てくれる人がいるから!」
実だ。実がいる。
僕は頭を抱えたままうめいた。
「みのるぅ…」
「大丈夫だよ、ムリすんな」
実の声が近づく。
「和樹、母さんが」
実の声は大丈夫だったが、母さんの声を聞いたとたん、強い吐き気が襲ってきた。
「ぐっ…がっ」
「和樹! どうしたのっ!」
「おばさん、洗面器とタオルっ!」
ちいっと鋭い舌打ちをした実が腹立たしそうに母さんに命じた。
「あ、ああ」
転がり落ちるような音を立てて、母さんが階段を駆け降りて行く。
実はまるでわかっていたことのように、素早く僕の面倒をみてくれた。汚物を近くのスポーツタオルで覆う。僕の体から布団をはぎ、寝間着を脱がせる。洗面器を持って駆け上がって来た母さんにそれらを押しつけて追い出し、ドアを閉め切ってくれた。
実が渡してくれたコップの水で口をすすぎ、助けられながらやっとの思いで着替えて、ベッドに転がる。
部屋の空気を入れ替えるためか、窓を開けた実の側で、僕は胃の壁まで吐き切った気分で、体を抱えて丸くなった。
頭が痛い。
頭が痛い。
「泣いちまえよ、楽になるから」
実がしばらくしてそっと窓を閉め、小さくささやいて、僕の堰は切れた。
ひどい結末。
どうしてこんなことになってるんだ。
ひどい。
ひどい。
どれほど泣いていたんだろう、ほてっていた体が寒くなって震えだし、僕は我に返った。
「大丈夫か?」
枕元に椅子に腰掛けて実が居てくれた。
あいまいな笑み。ジーンズと薄手のカーキのトレーナーの上で。
何か、涙と一緒に、心まで流れ出してしまったみたいで、僕はぼんやりうなずくのが精一杯だった。
「春日の言った通りだったな」
「春日?」
僕の体中にずきいん、と痛みが走った。
「おまえが無茶をするって」
実が噛みしめるように言った。
「おまえは夢を簡単に扱うから、ひどい目にあうかもしれないって。それで、ボクが来た。おばさんは今、春日の家に往診を頼んでるよ。昼過ぎにはじいさんが来るから、それまでおばさんからの『ガード』に居てやる」
跳ね起きた。バランスを失い、振り回されたような衝撃に視界がくらんだ。頭痛と吐き気に頭を抱えてうずくまる。
「和樹! どうしたの!」
うろたえた声がして、勢いよく開け放たれたドアから、母さんが飛び込んで来た。
その顔は。
「来ないでーっ!」
「和樹!」
「来ないでくれっ、来ないでくれっ!」
体中が震えた。このまま限界を越えて、すべての感覚が抜け落ちていくような怖さに叫び続けた。
「誰も来ないでー!!」
「だって! 和樹!」
「おばさんっ!」
別の声が母さんの声を遮った。
「ボク、見ます! おばさん、ちょっと、下行ってて!」
その声は不思議なほど鮮やかに聞こえた。
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実だ。実がいる。
僕は頭を抱えたままうめいた。
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「大丈夫だよ、ムリすんな」
実の声が近づく。
「和樹、母さんが」
実の声は大丈夫だったが、母さんの声を聞いたとたん、強い吐き気が襲ってきた。
「ぐっ…がっ」
「和樹! どうしたのっ!」
「おばさん、洗面器とタオルっ!」
ちいっと鋭い舌打ちをした実が腹立たしそうに母さんに命じた。
「あ、ああ」
転がり落ちるような音を立てて、母さんが階段を駆け降りて行く。
実はまるでわかっていたことのように、素早く僕の面倒をみてくれた。汚物を近くのスポーツタオルで覆う。僕の体から布団をはぎ、寝間着を脱がせる。洗面器を持って駆け上がって来た母さんにそれらを押しつけて追い出し、ドアを閉め切ってくれた。
実が渡してくれたコップの水で口をすすぎ、助けられながらやっとの思いで着替えて、ベッドに転がる。
部屋の空気を入れ替えるためか、窓を開けた実の側で、僕は胃の壁まで吐き切った気分で、体を抱えて丸くなった。
頭が痛い。
頭が痛い。
「泣いちまえよ、楽になるから」
実がしばらくしてそっと窓を閉め、小さくささやいて、僕の堰は切れた。
ひどい結末。
どうしてこんなことになってるんだ。
ひどい。
ひどい。
どれほど泣いていたんだろう、ほてっていた体が寒くなって震えだし、僕は我に返った。
「大丈夫か?」
枕元に椅子に腰掛けて実が居てくれた。
あいまいな笑み。ジーンズと薄手のカーキのトレーナーの上で。
何か、涙と一緒に、心まで流れ出してしまったみたいで、僕はぼんやりうなずくのが精一杯だった。
「春日の言った通りだったな」
「春日?」
僕の体中にずきいん、と痛みが走った。
「おまえが無茶をするって」
実が噛みしめるように言った。
「おまえは夢を簡単に扱うから、ひどい目にあうかもしれないって。それで、ボクが来た。おばさんは今、春日の家に往診を頼んでるよ。昼過ぎにはじいさんが来るから、それまでおばさんからの『ガード』に居てやる」
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