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10.ドリーム・ウォーカー(4)
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道斗さんは温かな目を僕に落とした。
「リカや実は支えても、朗のことさえわかってやっても、僕には…」
その先が辛くて、言えなくなった。
「ほうら、の?」
「え?」
相手は深々とうなずいた。
「君は伊織と縁が深いのじゃよ。深すぎて、あれも扱いあぐねておる。手出しをできずに苦しんでおる」
「春日が苦しむわけなんかない」
僕はせせら笑った。
まわりにあるものすべて、道斗さんも含めて、全部バラバラに引き裂いてやりたかった。
「春日は僕を振り回しているんだ。あの夢だって…」
「夢?」
老人がいぶかしげな顔をする。
「夢、そう、ただの夢です、はい」
僕は会話を放り投げ、相手から目を背けた。なんだか自分が果てしなく悪者になれるような気がした。
「右手の傷はどうじゃね、診ておこう」
そう言われて、そっぽを向いたまま手を差し出す。母さんに手当してもらったが、道斗さんは丁寧に検分し、包帯を巻き直しながらつぶやいた。
「同じ場所だそうだ」
「は?」
振り返ると、相手は僕の手をしみじみと眺めていた。
「また、同じ所を切った、と伊織は言っとったよ」
同じ場所。
春日はじゃあ知っているのだ。何でも知っているのに、またもう一度、僕を見捨てて殺すのだ。そんな気持ちに飲み込まれそうになって、僕は慌てて首を振り、また顔を背けようとした。
あれは夢だ、ただの夢だ。そう何度も心の中で繰り返す。そこへ、
「伊織は、もう、君に会わんそうだ」
静かに道斗さんが続けた。
ざくり。
「くふっ」
とてつもなく大きな刃物で、心臓ごと体を真二つに裂かれたら、きっとこんな感じがするに違いない、そう思うほどの痛みが走った。
弾かれたみたいに振り返ると、道斗さんはどこか悲しそうに微笑んだ。
「そう、できるのだそうだ」
「それは、転校するってこと、ですか」
カスガガイナクナル?
自分の声が干からびているのがわかった。
「いや、関わらないようになるんだそうだ」
実のことばを僕はふいに思い出した。いつも必ず実のいじめられている場所に姿を現した春日。それと逆のことをすればいい。
でも、同じクラスなのに。
僕が信じられないという顔をしたせいだろう。道斗さんは、仕事が終わったというふうに、よっこらせ、と声をかけて立ち上がった。
「ひとつ、余計なことを伝える」
僕は相手を見上げた。
「伊織の言うことには、この現実もまた夢なんだそうだ。その夢の中を、わしらは漂いさまよっている、夢の旅人ということらしい」
「だから? 何をしてもイミがないって? 誰がどこで苦しんでも、春日には関係ないって言うんだろう?」
春日がいなくなる。
僕は吐き捨てた。
春日がいなくなる、って。
胸の中で響く頼りない声を聞くまいとする。
相手はゆるやかに白い髪と白い髭を振った。
「だからこそ、伊織はすべてを覚えているし、すべてが同じことだと言うんじゃ。夢の中で起こっても、この現実で起こっても」
そのことばが僕の中で落ち着くのには、ずいぶん時間がかかった。
「伊織は君の夢も大切にしている。君を二度も死なせてしまったこともわかっている」
道斗さんは仙人のような顔で、とても深い目で僕を見た。
「君を護れなくてすまなかった、と言ったよ」
「リカや実は支えても、朗のことさえわかってやっても、僕には…」
その先が辛くて、言えなくなった。
「ほうら、の?」
「え?」
相手は深々とうなずいた。
「君は伊織と縁が深いのじゃよ。深すぎて、あれも扱いあぐねておる。手出しをできずに苦しんでおる」
「春日が苦しむわけなんかない」
僕はせせら笑った。
まわりにあるものすべて、道斗さんも含めて、全部バラバラに引き裂いてやりたかった。
「春日は僕を振り回しているんだ。あの夢だって…」
「夢?」
老人がいぶかしげな顔をする。
「夢、そう、ただの夢です、はい」
僕は会話を放り投げ、相手から目を背けた。なんだか自分が果てしなく悪者になれるような気がした。
「右手の傷はどうじゃね、診ておこう」
そう言われて、そっぽを向いたまま手を差し出す。母さんに手当してもらったが、道斗さんは丁寧に検分し、包帯を巻き直しながらつぶやいた。
「同じ場所だそうだ」
「は?」
振り返ると、相手は僕の手をしみじみと眺めていた。
「また、同じ所を切った、と伊織は言っとったよ」
同じ場所。
春日はじゃあ知っているのだ。何でも知っているのに、またもう一度、僕を見捨てて殺すのだ。そんな気持ちに飲み込まれそうになって、僕は慌てて首を振り、また顔を背けようとした。
あれは夢だ、ただの夢だ。そう何度も心の中で繰り返す。そこへ、
「伊織は、もう、君に会わんそうだ」
静かに道斗さんが続けた。
ざくり。
「くふっ」
とてつもなく大きな刃物で、心臓ごと体を真二つに裂かれたら、きっとこんな感じがするに違いない、そう思うほどの痛みが走った。
弾かれたみたいに振り返ると、道斗さんはどこか悲しそうに微笑んだ。
「そう、できるのだそうだ」
「それは、転校するってこと、ですか」
カスガガイナクナル?
自分の声が干からびているのがわかった。
「いや、関わらないようになるんだそうだ」
実のことばを僕はふいに思い出した。いつも必ず実のいじめられている場所に姿を現した春日。それと逆のことをすればいい。
でも、同じクラスなのに。
僕が信じられないという顔をしたせいだろう。道斗さんは、仕事が終わったというふうに、よっこらせ、と声をかけて立ち上がった。
「ひとつ、余計なことを伝える」
僕は相手を見上げた。
「伊織の言うことには、この現実もまた夢なんだそうだ。その夢の中を、わしらは漂いさまよっている、夢の旅人ということらしい」
「だから? 何をしてもイミがないって? 誰がどこで苦しんでも、春日には関係ないって言うんだろう?」
春日がいなくなる。
僕は吐き捨てた。
春日がいなくなる、って。
胸の中で響く頼りない声を聞くまいとする。
相手はゆるやかに白い髪と白い髭を振った。
「だからこそ、伊織はすべてを覚えているし、すべてが同じことだと言うんじゃ。夢の中で起こっても、この現実で起こっても」
そのことばが僕の中で落ち着くのには、ずいぶん時間がかかった。
「伊織は君の夢も大切にしている。君を二度も死なせてしまったこともわかっている」
道斗さんは仙人のような顔で、とても深い目で僕を見た。
「君を護れなくてすまなかった、と言ったよ」
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