『ドリーム・ウォーカー』

segakiyui

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11.桜の下(1)

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 倒れた後、一日寝込んだ。母さんも父さんも妙な生き物のように遠回しに囲んで見ているだけの時間だった。
 少し元気が出てくると、すぐに登校した。いくら春日が会わないといっても、同じクラスなんだし、そんなのできっこないと思っていた。
 けれど、そうじゃなかった。 
 同じクラスにいるのに、春日が視界に入らない。話しかけようとすると別の奴に呼ばれたり、振り向いてみると春日との間を誰かが遮ったりする。授業で春日があてられることが極端に減り、あてられたときには僕の方が隣の奴に話しかけられたり、急に気分が悪くなった奴の付き添いに保健室へ行くはめになっりした。
 リカもずっと休んでいるというのは気になったけど、それより、この奇妙なすれ違いは僕を焦らせた。春日の下校を待とうとしても、いろんな理由で待てなくなるのだ。
 もう春日とは会えない、だって?
 嘘だろ。そんなの、嘘に決まってる。
 いらだって二日過ごした次の日、朝食もそこそこに、家を飛び出し駅へ走った。
 母さんは何も言わない。父さんも、都おばあちゃんも。家の中は奇妙に静まり返って、みんなで、僕が何が起こっているかを説明するとか、誰かから合図が来るとかするのを待っているような気配だ。
 いつもよりずいぶん早く駅について、電車に乗り込み、僕は学校を通り過ぎて『南高杉』で降りた。改札口で春日を待つ。
 いつもの時間より一時間以上早い。
 春日はさすがにこれほど早くに学校へは行かないだろう。改札口は一つしかないし、春日がここを通れば否応なく目に入る。
 こんな近くにいて、ましてや同じクラスなのに、会わないことができるなんて信じられない。そんなの、物理的に不可能だ。それを証明するつもりだった。そして、春日ってのが、ただのカッコつけの妙な奴で、そんないつまでもこだわるような相手じゃないと確かめたい。
 それこそ、僕が春日にこだわってる証明じゃないのか?
 浮き上がってきた疑問はすぐにいつもの暗室に押し込んだ。
 待つ。
 待つ。
 時計がゆっくり回っていく。
 駆け込んでくる会社員、ヘッドフォンをつけている首を揺らせているOL、眉をしかめ独り言をつぶやいているじいさん、茶飲み友達なのかぺちゃくちゃしゃべりながら通り過ぎていく一群のおばさん達。
 春日はいない。どこにもいない。この電車を逃せば最後、という時間帯で、やっと向こうの方にちらりと春日らしい人影が見えた。
 そらみろ、そう思った瞬間に肩を叩かれた。
「おい」
 ぎょっとして振り仰ぐ。
「ちょっと来なさい」
 駅員がひきつったような厳しい顔でにらんでいる。
「なんでさ」
「いいから来なさい」
 ますます眉をしかめて、相手はうなるように言った。
「おとなしくしないと、学校と警察に通報することになるよ」
「え、え?」
 理由がわからず戸惑っていると、ぐいと腕をつかまれた。視界の端の方で、まさに今、春日が改札を抜けて行くように見えた。
「待ってよ」
 僕は、駅員から腕をもぎ取り、一目だけでも改札の方を見ようとした。
「ちょっと、待ってよ」
「逃げる気だな」
 駅員は声を荒げた。
「そんなんじゃ…ちょっと、待ってって…」
 僕が改札へ体を泳がせたのを駅員はいらだった様子で制した。改めて腕をつかみ直される。
「おい! ちょっと来てくれ!」
 近くのもう一人の駅員まで呼んだ。
「逃げないって、ただ、ちょっと」
 僕はもがいた。
 春日が行ってしまう。
 こんなバカなことって。
 こんなことってあるのか。
「いいから来い!」
 二人の駅員に引きずられるように、僕は駅長室に連れ込まれた。
「抵抗するな!」
「ストーカーのくせに!」
「ストーカーあ?」
 思わず声を上げると、
「あら」
 場の雰囲気にひどく外れた女の声がした。ショッキングピンクのワンピースを鮮やかに着こなした美人が、ぽかんとした顔で口を開いて立っている。
「やだ、違います」
 のんびりと否定した。
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