『闇を闇から』番外編

segakiyui

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『留守番電話』

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『さて、こちらです!』
 TVの賑やかな声が嬉しそうに一体の人形を出してくる。
 大きなぱっちりした目のフランス人形風、赤いドレスに金髪のくるくる巻き毛、白い肌にピンク色の頬、ぷくりとした造形が愛らしい。
『ルース・ロークちゃん!』
 司会者は自慢そうに人形を差し上げ、おもむろに背中のジッパーを引き下ろした。
『ここに録音機が入るようになっていまして、お出かけ中にかかってきたお電話ににこやかにお答えします!』
「ああ……留守番電話の一種……?」
 京介はあっけにとられて持ち上げたままになっていたコーヒーを一口飲んだ。
「でも人形型にしなくても」
 しかもルース・ロークって名前は何なんだろう?
 思わず眉を寄せたが、司会者はますます得意げに口上を続ける。
『お年寄りの寂しい一人暮らしの慰め、お子様ご不在のご家庭に是非! お好きな方の声も吹き込めますので、遠く離れたお孫さんにも電話を通じて吹き込んで頂けます!』
「………かなり問題発言じゃ…」
 反論しつつ、お好きな方の声、のところでぴくりとした。
「好きな人の声…」
 たとえば伊吹さんの声とかで、「おかえりなさい、京介」とか。
「わ…」
 ついでについでに「だめですよ、ちゃんとご飯食べなさい」とか「もう疲れたでしょう、おやすみなさい」とか?
「わ、わ…」
 いいかも。
 今日みたいに出張先で2泊なんてあると、電話だけじゃなくて、もっと側で好きなときに伊吹の声を聞きたいとかもあって。
「特に真夜中とかね」
 伊吹はもう寝てるから電話するわけにはいかないだろうけど、これさえあればいつでも伊吹の声が聞ける。
『今なら、このもう一人、いぶきちゃんとセットで一万円!』
「うっ」
 いぶきちゃんと呼ばれた人形は黒髪で少し切れ長の瞳の和風ツンデレタイプ。
「いぶきちゃん…」
 一瞬自分が両手に人形を抱えて出張に出かける姿を想像しかけたとたん、携帯が鳴った。
「? 伊吹さんっ」
『っ、こ、んばんは?』
 驚いた気配の伊吹ににこにこする。
『起きてたの?』
「美並居ないもん」
『……寝なさい』
「……ちゅってして」
『……………』
「……美並?」
『………ちゅ』
「…えへへ……」
『寝なさい』
「うん、じゃあもっかい」
『京介……』
 呆れ声に相手に、京介はTVを消していそいそと携帯を抱えベッドに寝転がった。
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