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7.万里子(6)
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椎我がうんざりした表情で溜め息をつく。
「最後だ。滝はどこだ?」
「俺達の死体…はどうする?』
「荷と一緒に外国航路で運び出し、海へ沈んでもらう」
「…」
ごくりと唾を飲み込んだ。
「残念だったな」
椎我の指に力が掛かった。引き絞られる引き金に万里子が顔を背け、俺にしがみつく。
3、2、1……0!
「!!!」
ぱあっと不意に辺りが明るくなり、閉じていた目を開けた。今の今まで薄暗い電球の光に浮かび上がっていた倉庫が、一転して煌々と照らし出されている。
「な…な…」
うろたえて銃を掴んだまま、椎我はおろおろと周囲を見回している。
「銃を下ろせ」
聞き覚えのある声が響き、俺は息を吐いて思わずよろめいた。
「お前は包囲されている」
投光器の光の中から、ゆっくりと厚木警部が歩み出してくる。
「椎我義彦、殺人未遂の現行犯で逮捕する」
椎我の目が厚木警部の背後へと動き、仲間の男がすでに捕まっているのを確認したようだった。
「ぎりぎり、ね」
どこか笑みを含んだお由宇の声が光の中から漂ってくる。
「じゃあ、まともに動いてたんだ、この発信器」
「そういうことね」
お由宇と俺をのろのろと見比べていた椎我は、俺が発信器を取り出すのをぼんやりと見つめていたが、厚木警部が次の一歩踏み出した瞬間、くそ、と罵って強張った顔で無造作に拳銃を向けた。
「木田さん!!」
悲鳴じみた万里子の声、昼間のように白っぽい光に満ちた視界を飛び出してきた彼女の体が遮る。聞いたことのある鈍い銃声が響く。
「万里子!」「椎我!」
悲鳴と怒号が交錯し、万里子の体が空中で跳ね上がって、腕の中へと崩れ落ちてきた。咄嗟に滑り込むように体を伸ばした俺の視界の端で、椎我に数人の警官が飛びかかるのが映る。お由宇が駆け寄ってくる。厚木警部が悔しそうに顔を歪めて走ってくる。
そして俺は加熱した頭の隅で、何が起こったんだと考えている。
「木田…さん…」
「っ、春日井くん!」
掠れた声に呼ばれて我に返った。ぐったり腕に沈んでいた万里子が少し、笑う。
「えへ……ドジっ…ちゃった…」
「救急車!」「呼んでる!」
厚木警部が叫び返し、お由宇がきつい表情で手早く傷を改める。左背後から撃たれていて、既に顔色は青ざめつつあり、息苦しそうに喘いでいる。ちらりと俺に目を向けて、首を振って見せられ、血の気が引いた。
「傷口押さえて!」
「お、おう!」
命じられてあたふたとぐしゃぐしゃ濡れている部分を掌で押さえつける。
「だって…嫌…だったんだも…ん…」
万里子が必死に傷口を押さえる俺の手にすがりながら囁く。
「もう…二度と……好きな人が…死ぬの…いやだ…った…」
「春日井くん!」
がくっと万里子の体から力が抜ける。ぞっとして抱え込み、覗き込む。荒い呼吸を繰り返しながら、万里子は眉をひそめ目を閉じていたが、ふいに目を開けた。
「ねえ…」
「何っ」
「…心臓の……音…」
「…え?」
「木田さんの……心臓の……おと……気持ち…い……」
お兄ちゃん、待って。
空気の中から声が聞こえた瞬間、万里子の重さが増した。
「志郎っ、寝かせてっ」
お由宇がもぎ取るように万里子を寝かせて両手を胸に押し当て始める。だが、もうこの世の中には居ないと俺にもわかるほど顔色は見る見る白くなり、万里子は静かに動かなくなっていった。
「最後だ。滝はどこだ?」
「俺達の死体…はどうする?』
「荷と一緒に外国航路で運び出し、海へ沈んでもらう」
「…」
ごくりと唾を飲み込んだ。
「残念だったな」
椎我の指に力が掛かった。引き絞られる引き金に万里子が顔を背け、俺にしがみつく。
3、2、1……0!
「!!!」
ぱあっと不意に辺りが明るくなり、閉じていた目を開けた。今の今まで薄暗い電球の光に浮かび上がっていた倉庫が、一転して煌々と照らし出されている。
「な…な…」
うろたえて銃を掴んだまま、椎我はおろおろと周囲を見回している。
「銃を下ろせ」
聞き覚えのある声が響き、俺は息を吐いて思わずよろめいた。
「お前は包囲されている」
投光器の光の中から、ゆっくりと厚木警部が歩み出してくる。
「椎我義彦、殺人未遂の現行犯で逮捕する」
椎我の目が厚木警部の背後へと動き、仲間の男がすでに捕まっているのを確認したようだった。
「ぎりぎり、ね」
どこか笑みを含んだお由宇の声が光の中から漂ってくる。
「じゃあ、まともに動いてたんだ、この発信器」
「そういうことね」
お由宇と俺をのろのろと見比べていた椎我は、俺が発信器を取り出すのをぼんやりと見つめていたが、厚木警部が次の一歩踏み出した瞬間、くそ、と罵って強張った顔で無造作に拳銃を向けた。
「木田さん!!」
悲鳴じみた万里子の声、昼間のように白っぽい光に満ちた視界を飛び出してきた彼女の体が遮る。聞いたことのある鈍い銃声が響く。
「万里子!」「椎我!」
悲鳴と怒号が交錯し、万里子の体が空中で跳ね上がって、腕の中へと崩れ落ちてきた。咄嗟に滑り込むように体を伸ばした俺の視界の端で、椎我に数人の警官が飛びかかるのが映る。お由宇が駆け寄ってくる。厚木警部が悔しそうに顔を歪めて走ってくる。
そして俺は加熱した頭の隅で、何が起こったんだと考えている。
「木田…さん…」
「っ、春日井くん!」
掠れた声に呼ばれて我に返った。ぐったり腕に沈んでいた万里子が少し、笑う。
「えへ……ドジっ…ちゃった…」
「救急車!」「呼んでる!」
厚木警部が叫び返し、お由宇がきつい表情で手早く傷を改める。左背後から撃たれていて、既に顔色は青ざめつつあり、息苦しそうに喘いでいる。ちらりと俺に目を向けて、首を振って見せられ、血の気が引いた。
「傷口押さえて!」
「お、おう!」
命じられてあたふたとぐしゃぐしゃ濡れている部分を掌で押さえつける。
「だって…嫌…だったんだも…ん…」
万里子が必死に傷口を押さえる俺の手にすがりながら囁く。
「もう…二度と……好きな人が…死ぬの…いやだ…った…」
「春日井くん!」
がくっと万里子の体から力が抜ける。ぞっとして抱え込み、覗き込む。荒い呼吸を繰り返しながら、万里子は眉をひそめ目を閉じていたが、ふいに目を開けた。
「ねえ…」
「何っ」
「…心臓の……音…」
「…え?」
「木田さんの……心臓の……おと……気持ち…い……」
お兄ちゃん、待って。
空気の中から声が聞こえた瞬間、万里子の重さが増した。
「志郎っ、寝かせてっ」
お由宇がもぎ取るように万里子を寝かせて両手を胸に押し当て始める。だが、もうこの世の中には居ないと俺にもわかるほど顔色は見る見る白くなり、万里子は静かに動かなくなっていった。
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