『闇を闇から』

segakiyui

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第4章

8.ワイヤード(2)

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「いえ、面白いなと思ってお聞きしてました」
「ほう、何が」
 大石がちらりと視線を送ってくる。
「企画提案についてはもう説明させて頂いたので、僕達と大石さん達の扱うものの違いはおわかりでしょう。あれとよく似ているな、と」
「今の話がですか?」
「ええ」
 微笑しつつ頷く。
「みなさん、服装は自由意志で選べるものだと思っていらっしゃる」
「?」
「学校に属するという意志の元に制服を選ぶ。自己の内面表現として選ぶ。あるいは社会的地位や所属集団を示すために選ぶ」
「学校に属するためというのではなく、高校生としてふさわしい服装について考え学ぶということで、ですよ」
「高校生の『在るべき姿』という思想の表現として、でもいいですが」
 絡みかけた小杉をばさりと切った。
「まるで思想強制のようにおっしゃっては…」
「で、そのどこが似ていると?」
 反論しかけた小杉を大石が遮る。
「大石さんのショーは表現するモデルのために服装を準備するというコンセプトでしょう? 対して僕達には選択の余地はない、使えるものはもう決まっている。だから僕としては」
 選べない服装、与えられた自由の中で、それでも表現したいと思う人間の願いや想い。
「そういうものに肉薄していきたい」
「……制限された選択の中の可能性、ということですか」
 大貫がじっと目を据えた。
「今目の前にある現実」
 それはそういうものではないんですか。
「……面白いわね」
「……つまりこういうことか?」
 大石がゆっくりと目を細めた。
「『Brechen』にも枷をかけろと?」
「無理ですか?」
 あなたのところには有能な部下がおられ、しかもこういう仕事はお得意だ。
「僕達にも成功のチャンスを頂ければと」
「…ぬけぬけとよく言う」
 大石が唇の端を上げた。
「勝利をもぎ取っていくつもりだろう」
 京介は無言で微笑み、さっきから微妙に大石にやりこめられる形になっていた小杉が薄く笑う。
「わかった。じゃあこちらも同じ条件にしよう」
「同じ?」
「ショーのニットは黒を基調とする、これでどうだ?」
 仕方なさそうに言いながら、大石の目は困っていない。
「そっちと同じ土台で展開すれば、こちらでは『自由』を、そちらでは『可能性』を見せられるだろう?」
 乗ったふりをして、これは計算内だ、とわかった。ニットの色を黒に絞ったところで、『Brechen』のラインナップにはほとんど問題は起きないのだろう。
「有難いです。じゃあこちらは全てに黒のニット帽を使いますが、色の制限はなしということでいいですか」
「好きなようにすればいい」
「大石さんは『色の制限』を、真崎さんは『形の制限』を受ける、その中で無制限な自由よりも豊かな表現を目指して下さる、そういうことでいいですか」
 源内がにこやかにまとめる。
「いいですね、私達の社会は様々な制限の上に成り立っている」
 大貫も満足そうに頷いた。
「けれど、その制限は人間の表現を妨げるものではなく、むしろ新たな表現を促すものである、そういう方向性を示すイベントということですね、有意義でな試みだと思います」
「生徒達に伝えます」
 小桜が嬉しそうにメモを取った。ホール・イベントには関連している諸機関の学生が参加することが許されており、特にファッションアート向田と辻美、向田花信短大の学生の優秀な者にはショーの最後に自分の作品をアピールする機会を与えられることになっている。
「いいですね、じゃあその方向で……ぼちぼち時間ですね。お時間よろしければあちらへ」
 立ち上がった源内が退室を促す。
 真っ先に背中を向けて立ち去っていく大石、不安そうな顔で横目で京介を見やって出ていく小杉、当初とは違った興味のある顔で京介と源内を見る大貫、そして未練がましく何度も京介を振り向きつつ、大貫を追っていく小桜。
 それぞれに特徴的なメンバーを見送りながら、源内は機嫌よく京介の元へやってきた。
「わざとか?」
「え?」
「先生の反発、まとめなかっただろ?」
 話に聞いた限りでは、あんなやりとり丸くまとめるのは上手なはずだけど。
「あなたこそわざと?」
 にっこり笑って返してやる。
「話がずれてっても見守るだけでしたね」
「ああいう対立は嫌でも起こってくるさ」
 早いうちにこなしとけば、後々面倒が減るからな。
「あんたみたいに、それを利用して自分に有利に持ち込む芸当なんてできないが」
 怖いな真崎京介は。
「考え過ぎだよ……あ」
 肩を竦めたとたん、内ポケットで震えた携帯に、ちょっと失礼、と一歩離れて開く。
「……え…?」
 読んだ内容がうまく頭に入ってこなくて、何度か読み返した。
「……どうして……?」
「何かあったのか?」
「あ……いや…」
 無理に微笑みを押し上げた視界が薄暗く濁った気がする。
『ごめんなさい。今日のデート、一緒に行けなくなりました。帰ったら連絡しますね』
「……伊吹…さん……?」
 何があったの?
 ハルの笑顔が脳裏を掠めた。
 
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