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第4章
8.ワイヤード(1)
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休憩を挟んで戻った後は、一転してブレーンストーミング状態になった。
「服装というのは、その人間の内面の表現だと思います」
高校教師らしい意見を小杉が述べると、
「内面即ファッションだと? けれど人間は装う存在でもありますよね」
ファッションアート向田専門学校の対外交渉担当だと言う小桜が、インパクトのある赤い縁の眼鏡の奥から鋭い視線を投げる。
「所属を知らせるものでもありました」
助教授の職を誇示するように大貫が丸い肩を竦める。
「階級もだ」
ぼそりと言った大石はどこか挑戦するように小桜に目をやる。
「階級? 古めかしい発想ですよね」
小桜が苦笑する。
「事実だろう、人間は服装で人を判断し、理解し、決めつけるものでもある」
「穏やかじゃないな」
小杉がややひきつった顔になる。
「内面の表現ではあるが、それで全てを判断するとは言い切れないとは思うが」
「校則はどうです?」
小桜が口を挟む。
「あれは人間の内面を拘束するものだと思いますわ」
「集団を管理する以上」
小杉がむっとした。
「一定基準は必要でしょう」
「どこにその基準を置くかということです」
大貫が考え考えうなずいた。
「何をもってよし、とするか」
「落差が面白いってこともありますわ」
小桜が言い放った。
「たとえば源内さんの服装は黒づくめですけど」
いきなり俎上に出されて源内が目を細める。
「似合うカラーかどうかで大きく印象が変わりますし」
「それを源内さんの表現と取るか、それとも社会的な表現と取るか、近年の社会常識の変遷を考えると、従来の判断は通じなくなっていると考えるべきです」
大貫が何かの論文を読み上げるように続けた。
「校則は学校の規範を定めるものでしょうが、その『在るべき姿』を学校側がどう規定するか、いわば校則は学校の目的と意志の表現と言えます。学校が社会を構成する人材を育成することを目的とするなら、服装に関しても、学校を取り巻く社会の在り方について提案をする形で校則を定めるべきで、旧弊は改めるべきです」
「あなたがたは生徒の実態を知らないんだ」
小杉が険しい顔になった。
「校則を変えてしまえば、いろんなことが野放しになってしまう」
「服装一つで全てが野放しになるようなものなんですか」
大石が微かな嘲笑を滲ませた。
「服装は基本だと言ってるんです」
面白いな、と京介は一人一人の顔を微笑みながら眺めていた。
ここに居る誰もが一つ共通している点を持っているのだが、それについては誰も触れようとしない。みんなお互いの違いについて、相手に理解させよう納得させようとしている。
つまりはわかってほしいってことだよね、と考えながら、指輪に目を落とした。
この指輪も服装の一つと言えば一つだ。
これで京介は伊吹に属していること、伊吹のパートナーであることを知らせている。京介にとっては、この指輪の美しさより、伊吹と繋がっているということがはっきりしていることのほうが大事だ。
それでいけば、空き缶のプルタブでも、輪ゴムでも、それこそ、伊吹さんのキスマークでも何でもいいわけだけど、僕が伊吹さんのものであると示すことができるなら。
「……」
ちょっと熱が広がった体に苦笑しつつ、さりげなく手を上げて考えこむふりで指輪に口づける。
ふと視線を感じて目を上げると、会話を続けながらこちらを凝視していたらしい小桜と目が合った。無意識ににっこり笑ってみせると、
「さ、さきほどから」
どもりながら小桜が口を開く。
「真崎さんは何もおっしゃってないようですが」
「そうですね、どうです何か?」
源内が苦笑しながら京介を促した。
「服装というのは、その人間の内面の表現だと思います」
高校教師らしい意見を小杉が述べると、
「内面即ファッションだと? けれど人間は装う存在でもありますよね」
ファッションアート向田専門学校の対外交渉担当だと言う小桜が、インパクトのある赤い縁の眼鏡の奥から鋭い視線を投げる。
「所属を知らせるものでもありました」
助教授の職を誇示するように大貫が丸い肩を竦める。
「階級もだ」
ぼそりと言った大石はどこか挑戦するように小桜に目をやる。
「階級? 古めかしい発想ですよね」
小桜が苦笑する。
「事実だろう、人間は服装で人を判断し、理解し、決めつけるものでもある」
「穏やかじゃないな」
小杉がややひきつった顔になる。
「内面の表現ではあるが、それで全てを判断するとは言い切れないとは思うが」
「校則はどうです?」
小桜が口を挟む。
「あれは人間の内面を拘束するものだと思いますわ」
「集団を管理する以上」
小杉がむっとした。
「一定基準は必要でしょう」
「どこにその基準を置くかということです」
大貫が考え考えうなずいた。
「何をもってよし、とするか」
「落差が面白いってこともありますわ」
小桜が言い放った。
「たとえば源内さんの服装は黒づくめですけど」
いきなり俎上に出されて源内が目を細める。
「似合うカラーかどうかで大きく印象が変わりますし」
「それを源内さんの表現と取るか、それとも社会的な表現と取るか、近年の社会常識の変遷を考えると、従来の判断は通じなくなっていると考えるべきです」
大貫が何かの論文を読み上げるように続けた。
「校則は学校の規範を定めるものでしょうが、その『在るべき姿』を学校側がどう規定するか、いわば校則は学校の目的と意志の表現と言えます。学校が社会を構成する人材を育成することを目的とするなら、服装に関しても、学校を取り巻く社会の在り方について提案をする形で校則を定めるべきで、旧弊は改めるべきです」
「あなたがたは生徒の実態を知らないんだ」
小杉が険しい顔になった。
「校則を変えてしまえば、いろんなことが野放しになってしまう」
「服装一つで全てが野放しになるようなものなんですか」
大石が微かな嘲笑を滲ませた。
「服装は基本だと言ってるんです」
面白いな、と京介は一人一人の顔を微笑みながら眺めていた。
ここに居る誰もが一つ共通している点を持っているのだが、それについては誰も触れようとしない。みんなお互いの違いについて、相手に理解させよう納得させようとしている。
つまりはわかってほしいってことだよね、と考えながら、指輪に目を落とした。
この指輪も服装の一つと言えば一つだ。
これで京介は伊吹に属していること、伊吹のパートナーであることを知らせている。京介にとっては、この指輪の美しさより、伊吹と繋がっているということがはっきりしていることのほうが大事だ。
それでいけば、空き缶のプルタブでも、輪ゴムでも、それこそ、伊吹さんのキスマークでも何でもいいわけだけど、僕が伊吹さんのものであると示すことができるなら。
「……」
ちょっと熱が広がった体に苦笑しつつ、さりげなく手を上げて考えこむふりで指輪に口づける。
ふと視線を感じて目を上げると、会話を続けながらこちらを凝視していたらしい小桜と目が合った。無意識ににっこり笑ってみせると、
「さ、さきほどから」
どもりながら小桜が口を開く。
「真崎さんは何もおっしゃってないようですが」
「そうですね、どうです何か?」
源内が苦笑しながら京介を促した。
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