『そして、別れの時』〜『猫たちの時間』13〜

segakiyui

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6.指令T.A.K.I.

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 広間。19時20分。
 木暮がウェイターからシャンパンを取って俺に話しかける。二、三言話すうちに、微妙に2人の雰囲気が険悪になる。やがて2人が出て行く。これを、周一郎、厚木警部、お由宇が見ている。
 次は廊下。19時30分。
 歩いていく2人は誰ともすれ違わない。そのまま小部屋に入る。
 小部屋。19時35分~19時50分。
 中から鍵が掛かる。通りがかったメイドが鍵が掛かる音を聞いている。やがて調理場へ、木暮からインターホンで、料理の注文がある。が、その途中で木暮の様子がおかしくなり、「滝…く……君…毒を……」の声、派手な物音がして回線が切れる。また、この時、木暮が倒れるのを、外から使用人が見ている。
 調理場。19時50分~20時。
 インターホンを受けた男は、始めは何のことかわからない。が、ことの重大さに気づき、料理長(シェフ)に報告。料理長(シェフ)は部屋を確かめ、調理場から広間へ駆け込む。
 広間。20時~20時30分。
 料理長(シェフ)は始めに慈へ、次に厚木警部に報告。すぐさま、厚木警部、お由宇に料理長(シェフ)、慈に周一郎、その他が部屋に駆けつける。ノック。返答なし。乱打。返答なし。鍵は閉まったまま。マスターキー一切の管理は木暮がしており、開けられないとのこと。男達が力を合わせて、ドアを破る。
 小部屋。20時30分。
 開放された窓。逃げられたか、と焦る人々の前に、ひっくり返っている俺。頭を殴られ、意識不明。加えて、倒れているはずの木暮の姿がない。血痕、俺のと木暮のと。
 推測。
 俺と木暮は揉めていた。小部屋での話し合いにも『ケリ』はつかず、ついの俺は木暮を毒殺(木暮の死亡推定時刻は、電話がかかった19時50分前後)。外で待っていた仲間(!)と共謀して木暮の死体を隠し、自分は平然とパーティに戻るか、姿を晦ます予定だったが、仲間が裏切り、俺を撲殺しようとしたが、人が駆けつけてきて逃走した。

「…あなたが木暮を殺す動機については…」
「それはいい。もう『しっかり』説明してもらったよ、お由宇に」
 俺はうんざりした。
 しかし…考えれば考えるほど、犯人は俺だとしか思えなくなってくる。ひょっとして、俺は夢遊病かなんかで、知らないうちに殺人を犯す癖でもあるんだろうか。
(冗談じゃない!)
「その…外へ逃げたって『共謀者』だけど、外には、俺と木暮が一緒に居るのを見た使用人がいたんだろ?」
「彼も見るとすぐに広間の方へ駆けつけたそうです。夜、でしょう? 他には誰も人はいなかったし……その使用人は、小部屋にはあなたと木暮の2人しかいなかったと主張しているんです」
「だから、外から、か……でも、待てよ、あの窓は外から開けられなかっただろ? 入った時、閉まってたぞ。鍵は…知らんが」
「鍵はかかっていました。その日の朝、掃除した者が閉めたままで忘れていたと言っています。それに、外からと言っても、部屋の内側に『あなた』が居たんですから、開けるのは簡単ですよ」
「指紋や何かは…?」
「あなたと木暮のものだけです。手袋をしていれば大丈夫だし…」
「………おい?」
「はい」
「それだけいろいろ出揃っていて、『どうして』俺が捕まらないんだ?」
「…物的証拠がないからですよ」
 周一郎は溜息混じりに答えた。
「今話したことは状況証拠ばかりです。確かに、使用人は、ドアも窓も閉まっている部屋で、木暮が倒れたのは目にしている。けれど、その先を見ていない。木暮の死体がどうなったのか、誰があなたを殴ったのか、誰も知らない。その上、あなたの証言ときたら、いきなり木暮が血を吐いて、狼狽えていたら殴られた、でしょう?」
 あ…あの……それじゃ俺がまるっきりの阿呆に聞こえるんだが……。
「ということは、密室殺人が行われて、しかも中にいた2人とも被害者だと言う妙なことになってしまう」
「あ!」
「何です?」
「どっかに抜け穴があったんだ!」
「そんなことはとっくに調べ済みです。あそこへの出入りは、窓とドアのみ、他に出入り口はありません」
 周一郎は冷たく突き放した。
「これでもし、その『共謀者』か、木暮の死体が見つかれば、あなたは『間違いなく』殺人犯です」
 何か、そうしたいみたいだな、その言い方。
 むくれた俺は、はっとした。そうだ、ルト! あの時、ルトがいたんだ!
「ルト、ですか?」
 俺の心を読んだように周一郎は言った。
「そうだよ! あいつのことを忘れてた!」
「確かに見てましたよ、『ルト』は。あなたは部屋に入ってから、木暮に毒なんて持ってないし、殺された時もひたすら狼狽えていた。それは『僕』も知っています。けれど、その先を、僕は知らない……気分が悪くなって……ルトと同調し損ねたんだ……」
 周一郎は悔しそうに唇を噛んだ。
「でも、俺の無実は証明できるだろ?」
「『僕』が、ですか?」
「あ…」
 はたと気づいた。見ていたのは『ルト』なのだ。『周一郎』じゃない。周一郎が俺の無実を証明するとしたら、それは、周一郎とルトの繋がりも暴露することになる。それは、周一郎を隙あらば崩そうと狙っている厚木警部にとっては、千載一遇のチャンスなわけで……。
「…だめ……だな」
 思わず弱気が漏れた。もし、万が一『共謀者』なんて出てきてみろ、思わず自首しちまいそうな気になってきたぞ。
「……Taking Aggravation in Killing Information…」
「え?」
 低い声で呟いた周一郎を、俺は振り返った。
「そんなことには……させない…」
 サングラスの奥の眼が、昏い殺意を宿していた。
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