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「え、じゃあ、僕は何するの?」
「だーかーらっ」
桃花は手を合わせてぺこんと頭を下げた。
「お願い、ねっ、正志くんっ」
「何」
「三上さんと会う約束、取り付けてっ」
「えー……」
一体何の因果だよ、と情けない気分になった。
一応桃花とデートするつもりでさゆから離れたはずだったのに、肝心の相手からは別の相手との橋渡しを頼まれて、しかもその相手が従兄弟の恋人だと来る。
「ね、お願いっ!」
引き受けちゃいけない、そう思うのに、何だか一所懸命な桃花はやっぱり可愛くて。加えて、どうにも猛の女版、と認識したあたりから、正志の中では桃花が微妙に恋人というよりは身内とか妹とか、そういう立場に落ち着きつつあったのも確かで。
「もし、引き受けてくれたら」
きらっと桃花は瞳を光らせた。肉食獣を思わせる鋭い微笑を浮かべる。
「さゆさんのこと、教えてあげてもいいけどな~」
「へ?」
思わぬ名前が桃花の口から零れて正志は驚いた。
「さゆ?」
「さっき一緒に居た女の子。森野さゆ、さんでしょ? あそこの絵画展に参加してた」
「う、うん」
なんでそんなこと知ってるの、と聞くと、えー、知ってる人は知ってるよ、と人さし指と親指をふた組合わせて掌ぐらいのサイズを示してみせた。
「これぐらいのフォトフレーム、よく売ってるでしょ?」
「うん」
「あれに写真入れる前に印刷した写真とか絵とか入ってるでしょ?」
「うん」
「あれの『レイン』ってメーカーの、回りがいぶし銀みたいなやつのシリーズに、森野さんの絵が入ってるんだ。んーと、学生には今いちだけど、OLには結構人気で、フォト入れずにそれだけ飾っててもいいって評判になってて……第一、あの絵画展の表紙だって、それがあったから使われたって聞いてるよ?」
「へえ……そう、なんだ」
じゃあ、見えてる以上にきっちりプロなんだな、と正志が呟くと、にやっと悪戯っぽく桃花が笑う。
「?」
「じゃあ、よろしく」
「え……ええっ」
「だって、あたしちゃんと話したもん」
「はぁあ?」
「森野さんの情報、聞いたよね?」
「う」
まさかこのまま正志くんだけ得しようとか思ってないよね?
そう微笑まれて、しまったと思ったがもう遅い。
「……わかった。けど、会う、とこまでだからね」
「うん」
「その先何があっても知らないからね」
「何かあってくれた方が嬉しいかも」
「………」
そういう意味じゃないんだけどなあ、と思いつつ、じゃあ早速文具店とか探してみるかと思った正志の気持ちを読み取ったように、桃花がだめ押ししてきた。
「駅前ビルの文具店に『レイン』シリーズあったよ。たぶん、中のイラストに連絡先が書いてあると思うな」
どきん、と正志の胸が一つ、高く打った。
「だーかーらっ」
桃花は手を合わせてぺこんと頭を下げた。
「お願い、ねっ、正志くんっ」
「何」
「三上さんと会う約束、取り付けてっ」
「えー……」
一体何の因果だよ、と情けない気分になった。
一応桃花とデートするつもりでさゆから離れたはずだったのに、肝心の相手からは別の相手との橋渡しを頼まれて、しかもその相手が従兄弟の恋人だと来る。
「ね、お願いっ!」
引き受けちゃいけない、そう思うのに、何だか一所懸命な桃花はやっぱり可愛くて。加えて、どうにも猛の女版、と認識したあたりから、正志の中では桃花が微妙に恋人というよりは身内とか妹とか、そういう立場に落ち着きつつあったのも確かで。
「もし、引き受けてくれたら」
きらっと桃花は瞳を光らせた。肉食獣を思わせる鋭い微笑を浮かべる。
「さゆさんのこと、教えてあげてもいいけどな~」
「へ?」
思わぬ名前が桃花の口から零れて正志は驚いた。
「さゆ?」
「さっき一緒に居た女の子。森野さゆ、さんでしょ? あそこの絵画展に参加してた」
「う、うん」
なんでそんなこと知ってるの、と聞くと、えー、知ってる人は知ってるよ、と人さし指と親指をふた組合わせて掌ぐらいのサイズを示してみせた。
「これぐらいのフォトフレーム、よく売ってるでしょ?」
「うん」
「あれに写真入れる前に印刷した写真とか絵とか入ってるでしょ?」
「うん」
「あれの『レイン』ってメーカーの、回りがいぶし銀みたいなやつのシリーズに、森野さんの絵が入ってるんだ。んーと、学生には今いちだけど、OLには結構人気で、フォト入れずにそれだけ飾っててもいいって評判になってて……第一、あの絵画展の表紙だって、それがあったから使われたって聞いてるよ?」
「へえ……そう、なんだ」
じゃあ、見えてる以上にきっちりプロなんだな、と正志が呟くと、にやっと悪戯っぽく桃花が笑う。
「?」
「じゃあ、よろしく」
「え……ええっ」
「だって、あたしちゃんと話したもん」
「はぁあ?」
「森野さんの情報、聞いたよね?」
「う」
まさかこのまま正志くんだけ得しようとか思ってないよね?
そう微笑まれて、しまったと思ったがもう遅い。
「……わかった。けど、会う、とこまでだからね」
「うん」
「その先何があっても知らないからね」
「何かあってくれた方が嬉しいかも」
「………」
そういう意味じゃないんだけどなあ、と思いつつ、じゃあ早速文具店とか探してみるかと思った正志の気持ちを読み取ったように、桃花がだめ押ししてきた。
「駅前ビルの文具店に『レイン』シリーズあったよ。たぶん、中のイラストに連絡先が書いてあると思うな」
どきん、と正志の胸が一つ、高く打った。
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