『よいこのすすめ』

segakiyui

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「まーちゃん…まーちゃん!」
「あ、ごめん」
 はっと我に返ると猛が不審そうな顔でフォークで正志の指を突いている。
「何?」
「コーヒー」
「ああ、はいはい」
 そういうのぐらい自分でやれよな、とぶつぶつ言いつつ、それでも淹れたてのコーヒーを注いだコップをテーブルに置こうとすると、猛の手とぶつかった。
「あつっ」
「あ、ごめんっ」
 慌てて手を掴んで火傷を確認しようとした矢先、
「やだっ!」
「っ」
 いきなり大きな声を上げて猛が喚いて手を引き、ぎょっとする。
「た、猛……?」
「あっ…」
 びっくり目で左手を抱えた猛も自分のやったことに驚いたようで、瞬きしながら正志を凝視した。
 別におかしなことなんてしてないよな?
 正志もことばを失ったまま、必死に自分の行動を思い返す。ただ、やけどしてないかと思っただけだよな? で、それはいつものことで、昔からやってたことで、第一、風呂だってこの間まで交互になだれ込むように入ってて。
 いや、待って、なんで風呂だって、だなんて考えてるんだ、僕は?
「猛……?」
「ご、めん」
 半泣きになった猛が不安そうに謝った。今にもぼろぼろ涙を流しそうになりながら、ごめん、ごめんね、と繰り返す。
「やけど……してなかった?」
「うん」
「……痛いところは?」
「………ない……」
「大丈夫、なんだな?」
「うん……」
「なら……」
 ごくんと乾いた喉に唾を呑み込む正志に、びくりと猛が震える。
「座って、飯、食いなよ?」
「うん……ごめん……」
「僕、もう出るから」
「うん………」
 そろそろ席に戻りながら俯いてしまった猛に、テーブルの上の自分の皿とコップを引き上げ、流しに出して、正志はうろたえながら寝室に飛び込んだ。身支度を整え、できる限り急いで、猛に顔を合わせないまま玄関に向かう。
「いって、きます!」
「……てっらっしゃい……」
 微かな声が背中に響いて、ぐらぐらしながら道を急ぐ。
「あれ……あれって」
 思わず口を押さえた。
 ふいに重なったのは小学校から仲のよかった女の子と、中学に入っていきなり疎遠になってしまった時のこと。いつもみたいに面白いものがあるからと手を掴んで連れていこうとしたら、渾身の力で振り払われた。わけがわからなくて戸惑う正志に、母親は年頃だからねえと笑って教えた。
 男と女だって向こうは意識してるけど、あんたが気づかなかったってことなんだよ。
「あれと、そっくりじゃん……」
 待ってよ、じゃあ、何? ひょっとして、猛、ひょっとしたら……?
 どうしよう。
 正志は病棟の三上を思ってぞっとした。
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