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しばらくの沈黙。
「えーと、それはひょっとしたら」
「……」
「猛があんたの手を振り解いてダッシュして逃げたってやつ?」
「……なんで知ってる」
「あー……」
知ってるも何も、と笑いかけて、相手の剣呑な表情に笑い事じゃないのかと気を取り直した。
猛が入院した時、急に一人にされて、それはえらく寂しかったらしい。今でこそ、歩く笑顔製造機というか、愛想を振りまいている男になっているが、小さい時はおどおどして引っ込み思案だった。
だから、年下だけど勢いだけはあった正志に、まーちゃんまーちゃんとくっついて回っていたのだ。
そのまーちゃんからも引き離される。
猛はしんどいのもしんどいが、不安と恐怖でパニックだったらしい。高熱を出して咳き込みながら泣きじゃくる猛は夜中も眠れず、薬剤投与をどのようにしていくかということで治療方針を検討していたところ、同時期に瀕回長期の入院を繰り返して、ほとんど小児科の主のようになっていた三上が側で手を握ってくれたのだと言う。
『大丈夫だから、心配しないで』
猛より遥かに細くて可愛くて女の子のようだった三上がそう請け負って、さすがにごねられなくなったんだよと笑っていたが、猛は三上に付き添ってもらって眠りに落ちた。
もっとも、三上も細菌まみれの猛の側に長く居られたわけじゃなくて、さっさと追い出されたらしく、そしてまた、その件もあったのか、体調を崩して結局退院間近まで猛は三上に会えなかった。
いよいよ明日退院という日になって、あの可愛い子はどこなんだろうと看護師に聞くと男の子だと言われ、それだけで十分ショックだったのに、自分がその顔をもう一度見ても、やはりどうしても好
きだとしか思えなくて、猛は混乱し怯えた。
そりゃそうだろう、小学生に自分の性向が周囲と違うと、あっさり受け入れられるわけがない。
おまけにさあ、その時俺、トイレ行って手ぇ洗ってなくて。
もう車が迎えに来たと聞いて慌ててトイレに行って戻ってきた猛の手を、あろうことか三上はしっかり握りしめてきた。
嬉しいやら悲しいやら、もう、逃げるしかなくって。
「……はぁ?」
「だから、そういうことだったんだって」
「……トイレ……」
「自分が好きだとか思ってるのを気づかれたかも、って思ってて、気持ち悪いと思われないかと思ってて、でも手を握ってくれて、嬉しかったけど『バイ菌』だらけだったし、三上さんは入院中だったし、また状態悪くなるかもって、それが怖くて」
ませてるよな、そういうところは、と正志が呆れると、ふいにほんわりと三上が微笑んで死ぬほど驚いた。
「嫌われて……なかったのか」
「あのね」
今さら猛と十分親密になってるくせに、何を引っ掛かってたんだよ、と突っ込みたくなって正志は我に返る。
でも待てよ? 今猛の様子から考えると、その他でもない『引っ掛かり』ってのが大きく関係してくるわけだよな?
「で、最近、猛、がどうかしたのか?」
あ、威圧してきたよ、この人。
正志は眼光をより鋭くした三上に唾を呑んだ。
「えーと、それはひょっとしたら」
「……」
「猛があんたの手を振り解いてダッシュして逃げたってやつ?」
「……なんで知ってる」
「あー……」
知ってるも何も、と笑いかけて、相手の剣呑な表情に笑い事じゃないのかと気を取り直した。
猛が入院した時、急に一人にされて、それはえらく寂しかったらしい。今でこそ、歩く笑顔製造機というか、愛想を振りまいている男になっているが、小さい時はおどおどして引っ込み思案だった。
だから、年下だけど勢いだけはあった正志に、まーちゃんまーちゃんとくっついて回っていたのだ。
そのまーちゃんからも引き離される。
猛はしんどいのもしんどいが、不安と恐怖でパニックだったらしい。高熱を出して咳き込みながら泣きじゃくる猛は夜中も眠れず、薬剤投与をどのようにしていくかということで治療方針を検討していたところ、同時期に瀕回長期の入院を繰り返して、ほとんど小児科の主のようになっていた三上が側で手を握ってくれたのだと言う。
『大丈夫だから、心配しないで』
猛より遥かに細くて可愛くて女の子のようだった三上がそう請け負って、さすがにごねられなくなったんだよと笑っていたが、猛は三上に付き添ってもらって眠りに落ちた。
もっとも、三上も細菌まみれの猛の側に長く居られたわけじゃなくて、さっさと追い出されたらしく、そしてまた、その件もあったのか、体調を崩して結局退院間近まで猛は三上に会えなかった。
いよいよ明日退院という日になって、あの可愛い子はどこなんだろうと看護師に聞くと男の子だと言われ、それだけで十分ショックだったのに、自分がその顔をもう一度見ても、やはりどうしても好
きだとしか思えなくて、猛は混乱し怯えた。
そりゃそうだろう、小学生に自分の性向が周囲と違うと、あっさり受け入れられるわけがない。
おまけにさあ、その時俺、トイレ行って手ぇ洗ってなくて。
もう車が迎えに来たと聞いて慌ててトイレに行って戻ってきた猛の手を、あろうことか三上はしっかり握りしめてきた。
嬉しいやら悲しいやら、もう、逃げるしかなくって。
「……はぁ?」
「だから、そういうことだったんだって」
「……トイレ……」
「自分が好きだとか思ってるのを気づかれたかも、って思ってて、気持ち悪いと思われないかと思ってて、でも手を握ってくれて、嬉しかったけど『バイ菌』だらけだったし、三上さんは入院中だったし、また状態悪くなるかもって、それが怖くて」
ませてるよな、そういうところは、と正志が呆れると、ふいにほんわりと三上が微笑んで死ぬほど驚いた。
「嫌われて……なかったのか」
「あのね」
今さら猛と十分親密になってるくせに、何を引っ掛かってたんだよ、と突っ込みたくなって正志は我に返る。
でも待てよ? 今猛の様子から考えると、その他でもない『引っ掛かり』ってのが大きく関係してくるわけだよな?
「で、最近、猛、がどうかしたのか?」
あ、威圧してきたよ、この人。
正志は眼光をより鋭くした三上に唾を呑んだ。
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