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どうしよう、このままじゃもっとややこしくなって、桃花と会わせることなんてできそうにない。
考えた末、正志はじーっと三上を見つめ返した。
「三上さん、僕が話したら、桃花と会ってくれます?」
「だから、それは」
「別に会ってどうこうって言うんじゃないです。ただ、桃花はあの時一緒に入院してたんですって」
「は?」
「猛と一緒に」
「……気づかなかった」
「だろうね」
三上はきっと猛以外の誰も目に入っていなかったに違いない。
「で、その時に三上さんに一目惚れしたそうで」
「………」
「今回のコンサート認めてもらえて嬉しかったって。次も来てくれと言われて、とても嬉しい、けれど、ここで自分の気持ちを伝えて、三上さんの気持ちを聞いて、はっきりしときたいって」
「…………」
三上は無言で机の上の書類を片付け始めた。
「三上さん?」
「番号は?」
「は?」
「携帯。聞いてるんだろ?」
「あ、ええ、まあ」
「言え」
「あ、はい……って、今電話するのっ?」
「面倒なことは抱えておかない主義だ」
いや、猛のことはずっと抱えてたくせに。
番号をプッシュする三上に思わず心の中でそう突っ込みながら、そうか、猛のことは『面倒』なんかじゃないんだなあ、とふいに思った。
自分はどうだったろう? 桃花に花を選ぶことを聞かされて、面倒だなあと思わなかったか。涼子にショッピングに付き合ってと言われて、面倒だと思わなかったか。
でも、さゆには、そう思わなかったよな。
ぽつんと日が当たる場所のように思い出したのはアルストロメリアのブーケ。
あれを選ぶのは全然面倒じゃなかった。どっちかというと楽しくて嬉しかったっけ。
「もしもし? 片桐さん? 三上です……いえ、ええ、聞きました、高岳くんから」
うわ。もう本題入ってるよ、と瞬きする正志を気にした様子もなく、三上は続ける。
「ええ……大丈夫です。じゃあ、院長室で御会いします。そうですね……はい、ああ、じゃあちょうどいい、後15分ぐらい? お待ちしてます」
「げっ」
ここに来るの? 冗談じゃない、と慌てて身を翻した正志の背中に、
「こら、どこへ行く気だ?」
「や、だって、今からここ来るんでしょ?」
「だから?」
「だからって!」
そりゃ、僕もずいぶんデリカシーないけど、あんたもずいぶんじゃないか、だって好きだの何だのって告白場面に第三者が居るんだよ、と思わず食ってかかると、三上は薄く笑った。
「第三者なのか?」
「は?」
「第三者じゃないんじゃないか?」
「……っ」
三上の言っている意味がふいに正志の頭に届く。
「………性格悪い……」
「それに、猛のことを聞かなくちゃならない、何なら隣の部屋に居るか?」
「そうしますっ」
正志は急いで隣の私室に飛び込んだ。
考えた末、正志はじーっと三上を見つめ返した。
「三上さん、僕が話したら、桃花と会ってくれます?」
「だから、それは」
「別に会ってどうこうって言うんじゃないです。ただ、桃花はあの時一緒に入院してたんですって」
「は?」
「猛と一緒に」
「……気づかなかった」
「だろうね」
三上はきっと猛以外の誰も目に入っていなかったに違いない。
「で、その時に三上さんに一目惚れしたそうで」
「………」
「今回のコンサート認めてもらえて嬉しかったって。次も来てくれと言われて、とても嬉しい、けれど、ここで自分の気持ちを伝えて、三上さんの気持ちを聞いて、はっきりしときたいって」
「…………」
三上は無言で机の上の書類を片付け始めた。
「三上さん?」
「番号は?」
「は?」
「携帯。聞いてるんだろ?」
「あ、ええ、まあ」
「言え」
「あ、はい……って、今電話するのっ?」
「面倒なことは抱えておかない主義だ」
いや、猛のことはずっと抱えてたくせに。
番号をプッシュする三上に思わず心の中でそう突っ込みながら、そうか、猛のことは『面倒』なんかじゃないんだなあ、とふいに思った。
自分はどうだったろう? 桃花に花を選ぶことを聞かされて、面倒だなあと思わなかったか。涼子にショッピングに付き合ってと言われて、面倒だと思わなかったか。
でも、さゆには、そう思わなかったよな。
ぽつんと日が当たる場所のように思い出したのはアルストロメリアのブーケ。
あれを選ぶのは全然面倒じゃなかった。どっちかというと楽しくて嬉しかったっけ。
「もしもし? 片桐さん? 三上です……いえ、ええ、聞きました、高岳くんから」
うわ。もう本題入ってるよ、と瞬きする正志を気にした様子もなく、三上は続ける。
「ええ……大丈夫です。じゃあ、院長室で御会いします。そうですね……はい、ああ、じゃあちょうどいい、後15分ぐらい? お待ちしてます」
「げっ」
ここに来るの? 冗談じゃない、と慌てて身を翻した正志の背中に、
「こら、どこへ行く気だ?」
「や、だって、今からここ来るんでしょ?」
「だから?」
「だからって!」
そりゃ、僕もずいぶんデリカシーないけど、あんたもずいぶんじゃないか、だって好きだの何だのって告白場面に第三者が居るんだよ、と思わず食ってかかると、三上は薄く笑った。
「第三者なのか?」
「は?」
「第三者じゃないんじゃないか?」
「……っ」
三上の言っている意味がふいに正志の頭に届く。
「………性格悪い……」
「それに、猛のことを聞かなくちゃならない、何なら隣の部屋に居るか?」
「そうしますっ」
正志は急いで隣の私室に飛び込んだ。
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