『よいこのすすめ』

segakiyui

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 ほどなくやってきた桃花は、少し緊張した声でこんにちは、と挨拶した。
『おおよそは高岳くんから聞きました』
『……そう、ですか』
『それで?』
 沈黙。
 正志は私室のドアに張り付いてじっと聞き耳を立てている。
『あの』
『はい』
『私、三上さんのこと、知ってました』
『はい』
『もう一度会えて、嬉しかった。怒られて悲しかった』
『けれど、あなたはちゃんとやり直ししてこられましたね?』
『だから、ちょっと資格ができたかな、と思うんです』
 直球勝負、桃花らしくない怯みはあるけれど、引く気は一切ないらしい。
『私、三上さんが好きです』
『ありがとうございます』
『恋人として、好きなんです』
『はい』
『三上さんは私のこと、どう思われますか』
『好きじゃないです』
『っ』
 淡々と三上が言い切って正志は桃花と同時に息を呑んだ。
『なぜ、ですか』
 立ち直ったのは桃花の方が早かった。だが、三上はためらう間もなく言い返す。
『どうして高岳くんを使ったんですか』
『それは…』
『高岳くんがあなたの気持ちを察して伝えてあげるとでも言いましたか』
『……』
『違うでしょう。彼はあなたに魅かれてたはずだから』
「……げ」
 見抜かれてたよ、この人に。茫然として正志は瞬きした。
『………』
『あなたも知っていたでしょう?』
「…は?」
 思わずドアを凝視する。
 知ってた……? 桃花が?
『………どうして』
『あのね』
 くすりと微かに三上が笑った、
『高岳くんほど鈍いわけじゃないんです』
 なんじゃ、そりゃ。
 正志は眉を寄せる。
『女性がどの男に媚びを売るかは、他の男からはよく見えるんですよ』
『でも、正志くんは何も言わなかった』
『言えないでしょう、目の前で他の男が好きだと何度も言われれば、よほどずうずうしくないと伝える気にならない』
 三上の声が微かにちりちりした。
『僕だってわかるほどの高岳くんの気持ちを、あなたが気づかないほど鈍感なら、あんないいステージを子ども達には見せられない……違いますか?』
 怒ってるんだ。
 ふいに正志は気づいた。
 三上は、気持ちを寄せているかもしれない正志を利用して、自分の好意を三上に伝えようとした桃花に、実は密かにかなり怒っていたのだ。 
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