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1.『剣の伝説』(シグラトル)(1)
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その昔、世は荒廃の極に達していた。
冷え冷えとした地表には、人とも獣ともつかぬ異形の者どもが跳梁し、骨肉相食む争いを続けていた。
その中に、一人の女王に率いられた一派がいた。
荒廃の世にありながら、彼らは人としての形を保ち、それどころか、その美貌は天空の神々に勝ると言われ、なおかつ、彼らのうちの一人として、その美貌に群がり寄ってくる輩から自分の身を守れないような未熟な戦士はいなかった。
彼らもやはり荒廃の世に生を受けた他の多くの者同様、他の生命を喰らって生きる一族であったが、彼らの聖なる女王の下、決して無駄な狩りはせず、ただ日々を生きていくための糧を得ることを良しとしていた。
だが。
それほどの力を持った者が奢らなかった試しはない。彼らのうちのほんの一人か二人が、ある日、世界は自分達のために用意されたのだ、と思い込んだのだ。
彼らは、かねてより敵対関係にありながらも均衡を保っていたもう一つの勢力を奇襲し、賛同する仲間とともに、これを葬った。
圧倒的な素晴らしい戦果、子々孫々にまで歌われるであろう勝ち戦。
悲劇は、勝利の後にこそ待ち構えていた。
彼らの敵対していた勢力は、山の洞穴に居を定めていたのだが、それには深い理由があった。
その洞穴に、彼らの存続を助けるもの、言い換えれば、荒廃の世の異様な果実や草木を、彼らの摂取出来るような形に異化してくれる菌類がいたのだ。
その菌類は、世界中でその洞穴にしか繁殖しておらず、従って、彼らはその地においてしか生きられなかった。
ただ、それを知っていたのは聖なる女王のみで、実は、彼女は、彼らにその地を与えることを引き換えに、自分の一族への攻撃を控えさせていたのだった。
悲劇の使者は、他ならぬ、この取るに足りぬ菌類だった。
敵対勢力ーそれは『穴の老人』(ディスティヤト)と呼ばれる一族だったーにとっては、確かに生き長らえていくのに必要な大切な友人であった菌類は、他部族、特に、なお運の悪いことに聖女王の一族にとっては、彼らの生命を脅かす以外の何ものでもなかったのだ。
夜明け前、勝利に酔った戦士達の密かな凱旋が行われる。それぞれの家へ、それぞれの部署へ戻りながら、仲間達に話してやる手柄話を胸に抱いて。
だが、次の朝、その手柄を話せた戦士は,一人としていなかった。
周囲の者の驚きをよそに、ベッドで、床で、部屋の隅、路地裏、そして、聖女王の側近室でも、戦士達は身体中を焼き焦がす紅蓮の炎に身悶えていた。ある者の手はぐずぐずと溶けかけ、ある者の足は内の白い骨をさらけ出し始めていた。
恐慌に陥った人々の声に、聖女王は何が起こったのかを察した。固い決意に唇を結び、女王は人々を見回った。戦士達、男のほとんどは死に絶え、今や直接戦いに出て行かなかった女達にも、そのおぞましい病は広がっていた。男共が手足を失い倒れているのに比して、いかなる魔性の働きか、女共は皆、顔面を両手で押さえて苦しみ悶えている。
女王は阿鼻叫喚の中を歩きながら、いつも身に付けていた剣を外した。それを宮の玉座に置き、供の一人も連れることなく、女王は生き残った『穴の老人』(ディスティヤト)の元へ向かった。
やがて、秘薬が届けられた。
ほとんどの者が死に絶えた中、まだ息がある十数人の女達の、白骨化した口に、それは注ぎ入れられた。そして、その女達は虚ろな眼窩に自分達への恐怖をたたえ、顔面のみ白骨化した姿のまま生き伸びた。
それは、あらゆる異化を止めてしまう薬ででもあったのか、女達は年をとらず、死ぬこともなかった。
女達は変わり果てた姿で、彼らの女王を待ち続けた。
だが、聖女王は、二度と再び、その姿を見せることはなかった。
(そして、私達は、聖女王を失ってしまったのだ、永遠に)
『狩人の山』(オムニド)の頂上近く、『泉の狩人』(オーミノ)の神殿の一室に身を横たえていたラフィンニは、甦る記憶の傷みを味わいながら、物憂く考えた。
ゆっくりと細く、らしくない溜め息を漏らす。
聖女王(シグラトル)。
それは、単に『泉の狩人』(オーミノ)を率いる者の名称だというだけではない。
荒廃の世に放棄された女王の剣を継ぐ者、その剣に込められた長としての責任を果たす者でもある。
その昔途切れてしまった『泉の狩人』(オーミノ)の伝説を成就させる者……剣の伝説を描く者。
(我らは、滅びる)
胸に沁みる想いで噛み締めた。
「…」
ふと、立ちのぼった気配にラフィンニは身を起こした。
戸口にセールが立っている。
「なんじゃ?」
「いえ……ただ、アシャのクフィラが来ております」
「またか」
セールの笑みを含んだ声に、ラフィンニは苦笑を返した。
「一日おきに飛ばせておる。それほど、我らの動きが気になるのか」
「『氷のアシャ』とも思えませぬ」
セールは侮蔑を含んだ笑い声をたてた。
「長をお引き止めした時の、あの度胸はどこへ行ったのやら」
「それだけ、あの娘に惚れ込んでおるのだろうよ」
ラフィンニは軽く応じた。
「自分の命さえ手駒に使う男が、たった一人の娘の心を傷つけたくないがために、おろおろとクフィラを飛ばしてくる………さても、アシャも幼いのう」
「長、ラフィンニ」
セールの声が改まる。
「なんじゃ」
「アシャの言……真でしょうか」
「真…とは?」
「我らが聖女王(シグラトル)に決して己の想いを話さぬ、と言う…」
「ああ…あれか」
セールの不審そうな声音に、ラフィンニはくつくつ嗤った。
「アシャはああ見えても律儀な男じゃ。話さぬと誓えば、決して話しはすまい。悟らせぬと言えば、決して悟らせはすまい。それだけの力量は持ち合わせておる」
「しかし…」
セールは不安げに返した。
「並の想いでも隠すのは困難なもの、そればかりか、相手の気持ちを確かめたいと募るのが筋……アシャほどの男が身も世もあらぬほど、誇りまで捨てて惚れ込んだ想い、話すな、悟らせるなという方が無理難題…」
「その無理難題を請け負うたのじゃ、アシャは」
にんまりと笑った気配で、ラフィンニは続けた。
「それも、あの娘の心を傷つけるまい、と言った私のことば一つでな。アシャも伊達にラズーンにはおるまい。約束を違えて、我らがどう出るか、読めぬ男ではさらさらあるまい。その男が請け負うたのじゃ、一生涯悟らせぬ、とな」
ラフィンニは声を和らげた。
「さても激しい男よのう。『氷のアシャ』と誰が呼び始めたかは知らぬが、あの激しさに気づいた者は、多くはいまいよ」
「長、しかし、万が一」
「ほ、ほほ…」
なおも落ち着かない声のセールに、ラフィンニは優雅な、けれどもこの上不吉な笑い声をたてた。
「お前も、ひどくあの娘に惚れ込んだものよのう。が、安心するがいい」
声が低く凄みを帯びる。
「ユーノは我らが待ち続けた聖女王(シグラトル)。いくらアシャとは言え、『人間』如きに渡しはせぬ」
「…はっ」
安心したように頷くセールに、ラフィンニは静かに垂れ落ちた髪をかきあげた。
冷え冷えとした地表には、人とも獣ともつかぬ異形の者どもが跳梁し、骨肉相食む争いを続けていた。
その中に、一人の女王に率いられた一派がいた。
荒廃の世にありながら、彼らは人としての形を保ち、それどころか、その美貌は天空の神々に勝ると言われ、なおかつ、彼らのうちの一人として、その美貌に群がり寄ってくる輩から自分の身を守れないような未熟な戦士はいなかった。
彼らもやはり荒廃の世に生を受けた他の多くの者同様、他の生命を喰らって生きる一族であったが、彼らの聖なる女王の下、決して無駄な狩りはせず、ただ日々を生きていくための糧を得ることを良しとしていた。
だが。
それほどの力を持った者が奢らなかった試しはない。彼らのうちのほんの一人か二人が、ある日、世界は自分達のために用意されたのだ、と思い込んだのだ。
彼らは、かねてより敵対関係にありながらも均衡を保っていたもう一つの勢力を奇襲し、賛同する仲間とともに、これを葬った。
圧倒的な素晴らしい戦果、子々孫々にまで歌われるであろう勝ち戦。
悲劇は、勝利の後にこそ待ち構えていた。
彼らの敵対していた勢力は、山の洞穴に居を定めていたのだが、それには深い理由があった。
その洞穴に、彼らの存続を助けるもの、言い換えれば、荒廃の世の異様な果実や草木を、彼らの摂取出来るような形に異化してくれる菌類がいたのだ。
その菌類は、世界中でその洞穴にしか繁殖しておらず、従って、彼らはその地においてしか生きられなかった。
ただ、それを知っていたのは聖なる女王のみで、実は、彼女は、彼らにその地を与えることを引き換えに、自分の一族への攻撃を控えさせていたのだった。
悲劇の使者は、他ならぬ、この取るに足りぬ菌類だった。
敵対勢力ーそれは『穴の老人』(ディスティヤト)と呼ばれる一族だったーにとっては、確かに生き長らえていくのに必要な大切な友人であった菌類は、他部族、特に、なお運の悪いことに聖女王の一族にとっては、彼らの生命を脅かす以外の何ものでもなかったのだ。
夜明け前、勝利に酔った戦士達の密かな凱旋が行われる。それぞれの家へ、それぞれの部署へ戻りながら、仲間達に話してやる手柄話を胸に抱いて。
だが、次の朝、その手柄を話せた戦士は,一人としていなかった。
周囲の者の驚きをよそに、ベッドで、床で、部屋の隅、路地裏、そして、聖女王の側近室でも、戦士達は身体中を焼き焦がす紅蓮の炎に身悶えていた。ある者の手はぐずぐずと溶けかけ、ある者の足は内の白い骨をさらけ出し始めていた。
恐慌に陥った人々の声に、聖女王は何が起こったのかを察した。固い決意に唇を結び、女王は人々を見回った。戦士達、男のほとんどは死に絶え、今や直接戦いに出て行かなかった女達にも、そのおぞましい病は広がっていた。男共が手足を失い倒れているのに比して、いかなる魔性の働きか、女共は皆、顔面を両手で押さえて苦しみ悶えている。
女王は阿鼻叫喚の中を歩きながら、いつも身に付けていた剣を外した。それを宮の玉座に置き、供の一人も連れることなく、女王は生き残った『穴の老人』(ディスティヤト)の元へ向かった。
やがて、秘薬が届けられた。
ほとんどの者が死に絶えた中、まだ息がある十数人の女達の、白骨化した口に、それは注ぎ入れられた。そして、その女達は虚ろな眼窩に自分達への恐怖をたたえ、顔面のみ白骨化した姿のまま生き伸びた。
それは、あらゆる異化を止めてしまう薬ででもあったのか、女達は年をとらず、死ぬこともなかった。
女達は変わり果てた姿で、彼らの女王を待ち続けた。
だが、聖女王は、二度と再び、その姿を見せることはなかった。
(そして、私達は、聖女王を失ってしまったのだ、永遠に)
『狩人の山』(オムニド)の頂上近く、『泉の狩人』(オーミノ)の神殿の一室に身を横たえていたラフィンニは、甦る記憶の傷みを味わいながら、物憂く考えた。
ゆっくりと細く、らしくない溜め息を漏らす。
聖女王(シグラトル)。
それは、単に『泉の狩人』(オーミノ)を率いる者の名称だというだけではない。
荒廃の世に放棄された女王の剣を継ぐ者、その剣に込められた長としての責任を果たす者でもある。
その昔途切れてしまった『泉の狩人』(オーミノ)の伝説を成就させる者……剣の伝説を描く者。
(我らは、滅びる)
胸に沁みる想いで噛み締めた。
「…」
ふと、立ちのぼった気配にラフィンニは身を起こした。
戸口にセールが立っている。
「なんじゃ?」
「いえ……ただ、アシャのクフィラが来ております」
「またか」
セールの笑みを含んだ声に、ラフィンニは苦笑を返した。
「一日おきに飛ばせておる。それほど、我らの動きが気になるのか」
「『氷のアシャ』とも思えませぬ」
セールは侮蔑を含んだ笑い声をたてた。
「長をお引き止めした時の、あの度胸はどこへ行ったのやら」
「それだけ、あの娘に惚れ込んでおるのだろうよ」
ラフィンニは軽く応じた。
「自分の命さえ手駒に使う男が、たった一人の娘の心を傷つけたくないがために、おろおろとクフィラを飛ばしてくる………さても、アシャも幼いのう」
「長、ラフィンニ」
セールの声が改まる。
「なんじゃ」
「アシャの言……真でしょうか」
「真…とは?」
「我らが聖女王(シグラトル)に決して己の想いを話さぬ、と言う…」
「ああ…あれか」
セールの不審そうな声音に、ラフィンニはくつくつ嗤った。
「アシャはああ見えても律儀な男じゃ。話さぬと誓えば、決して話しはすまい。悟らせぬと言えば、決して悟らせはすまい。それだけの力量は持ち合わせておる」
「しかし…」
セールは不安げに返した。
「並の想いでも隠すのは困難なもの、そればかりか、相手の気持ちを確かめたいと募るのが筋……アシャほどの男が身も世もあらぬほど、誇りまで捨てて惚れ込んだ想い、話すな、悟らせるなという方が無理難題…」
「その無理難題を請け負うたのじゃ、アシャは」
にんまりと笑った気配で、ラフィンニは続けた。
「それも、あの娘の心を傷つけるまい、と言った私のことば一つでな。アシャも伊達にラズーンにはおるまい。約束を違えて、我らがどう出るか、読めぬ男ではさらさらあるまい。その男が請け負うたのじゃ、一生涯悟らせぬ、とな」
ラフィンニは声を和らげた。
「さても激しい男よのう。『氷のアシャ』と誰が呼び始めたかは知らぬが、あの激しさに気づいた者は、多くはいまいよ」
「長、しかし、万が一」
「ほ、ほほ…」
なおも落ち着かない声のセールに、ラフィンニは優雅な、けれどもこの上不吉な笑い声をたてた。
「お前も、ひどくあの娘に惚れ込んだものよのう。が、安心するがいい」
声が低く凄みを帯びる。
「ユーノは我らが待ち続けた聖女王(シグラトル)。いくらアシャとは言え、『人間』如きに渡しはせぬ」
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