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7.泥土(2)
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「ふうむ」
公宮の作戦会議室で、セシ公は机の上に広げられている地図を見つめている。とん、とん、とん、とん、と拍子を取るかのように机を叩き続ける白く細い指先が、ふ、と空中で止まった。
足音が近づいてくる。慌ただしくひたすらに速度をあげてくる激しい音。
それほど待つまでもなく扉が荒々しく開け放たれ、まだまだあどけなさを残す頬を紅潮させ、金色の髪をくしゃくしゃに乱したリヒャルティが飛び込んできた。
「兄貴!」
「昼間なら脱いでいいと言った覚えはないぞ」
上半身裸、腰布だけの体に水滴を光らせているところを見ると、湯浴みでもしていたのだろう。穏やかに咎めるセシ公の声にむっとしたように眉を寄せて唇を尖らせ、顔立ちに似合わぬ荒っぽさで喚いた。
「脱ぎたくて脱いだんじゃねえや! ユーノが怪我したってのは本当か?!」
「ああ…そうらしい」
セシ公は淡々と応じて、再び左手の人差し指でとん、とん、とん…と机を叩き始める。右手は顎の下、右目にかかった銀に近い金髪を払おうともせず、地図の上を凝視し続けている。ち、と苛立たしげに舌打ちをしたリヒャルティがいきり立つ。
「そうらしい、じゃねえ! 何だってそんなに落ち着いてんだよ! あいつは女だぞ! 聞きゃあ、かなり派手な怪我らしいじゃねえか!」
「話したのはバルカか?」
「どうでもいいだろっ、そんなこと!」
「…始めの頃は女だとも気づかなかったくせに」
「わ、悪かったなっ! どうせ、オレは餓鬼だよっ!」
からかうような薄笑みを浮かべたセシ公に、リヒャルティは真っ赤になって怒鳴り返した。兄貴のおふざけに付き合ってられるかよ、と吐き捨てて、左手に引っ掴んだ紅の衣を被ることもなく、身を翻して出て行こうとする。
「待て」
「何だよ!」
「どこへ行く?」
「決まってんだろ、ユーノのとこだよ!」
「何のために?」
「何のためって! ユーノを殺った奴をとっちめてやるっ!」
「勝手に殺すものではないよ」
殺気立つ弟にくすりと笑う。
「お前が行かなくても、あっちにはアシャがいる」
「わかってるよ! でも心配なんだ!」
「どうせなら、もう少しあの娘のためになることをしてはどうだ?」
セシ公のことばに、半身だけ振り返っていたリヒャルティは完全に向き直った。
「……何か策があるのか」
「駆けつけるばかりが能でもあるまい」
「……わか、った」
リヒャルティは腰に手を当て溜め息をついた。ぷる、と頭を軽く振り、気持ちを切り替えたのだろう、机に戻ってきてセシ公の眺めていた所を覗き込む。
「で? どこへ行けばいい?」
「うむ」
セシ公は微笑んだ。確かに若すぎ血の気が多すぎるかも知れないが、伊達や酔狂で『金羽根』の長を任じられているのではない。自分が為さなくてはならない『仕事』に関しては、リヒャルティは極めて冷静でしたたか、本能的な嗅覚がある。
「お前まで『そう』なら、他の人間のほとんどが、今ユーノと『氷の双宮』『泉の狩人』(オーミノ)に向いていると考えていいな」
「どういうことだよ」
「もし、お前がギヌアなら……今、この時、何をする?」
「…」
「ほとんどの目がミダス公、『氷の双宮』、『狩人の山』(オーミノ)に向いている今、どこを狙う?」
「…そうだな」
もぞもぞと紅の衣を被って、腰を緋の紐で締め、リヒャルティは地図を見つめた。兄よりやや細めの指先が、ゆっくりと四大公の領地を巡っていく。
「他…と言っても、『泥土』はムリだな。アシャがたぶんグードス救出に動くだろうし……とすると…」
「アギャンをこれ以上追ったところでどうにもなるまい、なら」
セシ公は補足しながら、リヒャルティの指が滑っていく先を見やる。
「周辺には『羽根』と『野戦部隊(シーガリオン)』がいる……そうだな、オレなら、ここ、だ」
「ジーフォ公。その通り」
セシ公は頷いた。
「けどさ、兄貴」
訝しげにリヒャルティが眉を上げる。
「あいつを突くったって」
「『子ども』にはわからんだろうが、ジーフォ公には最愛の婚約者がいる」
「それぐらい、オレだって知ってるぜ」
リヒャルティは口を尖らせた。
「『西の姫君』だろ」
「では、その『西の姫君』が、以前アシャに夢中になって、しかも手酷く振られたことは?」
「知ってる、何となく」
答えはしたものの、リヒャルティはまだセシ公の言おうとしていることが呑み込めない様子だ。
「ならば、私ならジーフォ公を揺さぶるためにはこうする」
セシ公はにやりと笑った。
「まず『西の姫君』を何らかの方法で失踪させる。それをアシャに因るものだとジーフォ公に吹き込む。この時点でジーフォ公がアシャに敵対するのなら良し、それで駄目なら、そうだな、『泥土』へでもおびき出すか」
「何でだよ?」
「ミダス公が襲われたのは知ってるな?」
「ああ」
「襲った相手はグードスらしいと言われていた。グードスはアギャンが一子、探りに出ればグードス本人は『泥土』で行方不明だと噂されている……アシャを『泥土』へ引っ張り出そうとした意図は明快だ。ならば、混乱に乗じて事を起こすには、味方にならなかったジーフォ公も『泥土』へおびき出し、同士討ちをさせるのが一番手間が省ける手法だ。ま、もっとも」
くす、と妙に可愛らしく笑い声をたてる。
「ジーフォ如きにアシャが殺られるとは思わないから、ジーフォの始末ということにしておいてもいいか。どちらにせよ、いなくなってくれれば、ジーフォ公の座がまるまる空く」
「…確かさ」
リヒャルティはうさん臭そうにセシ公を見やった。
「オレの知ってる限りじゃ、兄貴はジーフォと『仲良し』だったよな?」
「そういう時もあったかな」
「ってか、すんごくよく知ってる仲、だよな?」
「ミダスよりは信頼してるよ」
微笑みを広げると、ふ、と相手は息をついて視線を逸らせた。
「兄貴が言うと『信頼』ってことばは『うまく使える』って聴こえるぜ」
ま、いいや。
こきこき、と首を回して体を緩めながら、
「能書きは兄貴に任せる。オレはユーノを助けるのに何をしたらいいのかだけ、教えてくれ」
「お前が尋ねるからだよ」
薄笑みを浮かべたままからかったが、リヒャルティが真面目な表情になったのに応じて一つ頷き、静かにジーフォ公宮に指を置き口を開く、が。
「まずは…」「わ!」
突然、開け放っていた窓から白い疾風が飛び込んで来た。
「サマルカンド!」
「クェッ!!」
額に紅の十字を戴いたクフィラは、セシ公が自分を一目で見分けたのに満足したのか、一声鋭く鳴くと部屋の中で体を捻り、ふわりと舞い戻った。大きな翼を苦もなく室内で翻し、一瞬に畳み込んで窓辺に体を落ち着け、鋭い嘴を誇らしげに上げてセシ公を睥睨する。その片足に小さな筒がついている。
「何だ?」
「アシャのクフィラだよ。主からの指示を持って来たらしい」
セシ公は素早く近寄り、筒の中から巻いた紙を取り出した。一読してぴくりと体を震わせ、顔を強張らせる。
「兄貴?」
リヒャルティが不審そうに声をかけてくる。
「どうしたんだ? 何か悪い知らせか?」
「…はぁ」
「?」
セシ公の悩ましげな溜め息なぞ、寝屋に侍る女性でも滅多に聞くことはあるまい。思わず眉を上げたリヒャルティが背後から不安そうに重ねて尋ねる。
「兄貴…?」
「ふ、ふふっ」
「おい」
「狂ったのではないさ」
呆れてるのさ、と呟いて振り返ると、こちらも呆気にとられたリヒャルティの間抜け面が迎えた。何となく気持ちを癒されてセシ公は笑みを広げる。
「よくもまあ、ここまで正確に状況を読んでるものだと思ってな」
「アシャか?」
「私の予測などお見通しだよ。加えてこう書いてある」
ぴらぴらと指先の紙を振って見せる。
「『ジーフォ公はテッツェには歯止めを頼んでいるが、押さえ切れぬ場合に備え、リヒャルティとバルカ、ギャティをお貸し願いたい。その三人にジーフォ公の押さえを、できれば、ジーフォ公が憤慨して貴公の所へ向かわれるようにして頂ければ、より有効にジーフォ公を押さえられるかと思っている』とある」
「それって」
兄貴の予想を超えて手を打って来たってことだよな?
セシ公は笑みを引っ込めた。ごまかし切れない寒気に顔がそそけ立っているのを感じた。
「覚えておくのだ、リヒャルティ」
ふ、と小さく息をつく。
「これが、アシャが『軍師』と呼ばれる才能の片鱗だ」
「そんなに凄い指示なのか?」
「凄いも何も」
窓辺を離れ、どさりと椅子に体を落とす。急に広がった疲弊感は己の読みの上を行かれただけではなく、これから圧倒的に不利な戦いに傾きかねない状況を、己一人で支えなくてもいいという安堵もあったかも知れない。
「アシャはこちらの情報を詳細に掴むことができなかったはずだ。『泉の狩人』(オーミノ)との交渉やミダス公襲撃、たて続けに心身ともに苛めるしかない動きのただ中でアギャン公領地に向かってる」
非常に限られた情報しか手に入らない、だがきっと、アギャン公の動きから何が起ころうとしているのか察したのだ。だからこそ、ジーフォ公を押さえる必要があると考えた。
「その手立てがまた憎らしいだろう?」
まず動かしたのがテッツェというあたりが笑えない。確かにジーフォ公は短気で知られた男だが、彼が唯一意見を求め案に従うのがテッツェだと知っていなければ打てない手だ。そして、テッツェがまず優先するのが主たるジーフォ公の安寧であり、そのためには時に『太皇(スーグ)』にさえ楯突くことも辞さない気性だと知っていれば、主を越えてテッツェを動かすことの困難さがわかる。
さらりと書かれた「歯止めを頼んだ」という中身は、ジーフォ公が確かに危険に晒されるであろうとテッツェに納得させたということに他ならない。
「テッツェをジーフォ以外が動かせるなんて考えもしないさ」
だが、一度動けば、その働きは確実迅速だ。おかげでセシ公は慌てて動かなくても済む。
「けれど、たぶんテッツェは制止はするが、こちらの目論みには乗ってくれまい」
そこでリヒャルティ達の出番だ。急ぎの手を打たなくていいセシ公の配下は手持ち無沙汰だ、そう見切って次の手にリヒャルティ達を駆り出した。
「嫌だなんて言えないだろう」
苦笑いする。
ジーフォ公の動きを止めた。次はその身柄を確保しておかなくてはならない、おそらくはその次の布石のために。だが、それはテッツェを動かすよりも至難の技だ、何せジーフォという男は、己が世界君主にふさわしいと思っているのだから、いくら策を説明し、意図を解説したところで、他の人間に指示された、それだけで反発し動かないだろう。
「だから、お前達なんだよ……あいつに喧嘩を買わせられるのは、並大抵の挑発じゃ無理だろうからね」
やれやれ。
「ちょ、っと、待った」
リヒャルティは眉根を寄せて、一所懸命に策の道筋を追いかけている。
「つまり……オレ達はジーフォ公を怒らせて連れ出せばいいのか?」
「そうだ」
セシ公は薄笑いした。
「私の手の中にさえ落とし込んでくれたら、何とでもいいように扱えるからね」
セシ公とジーフォ公は傍目に仲が悪く見える。お互いへの信頼は皆無、顔を会わせれば不愉快そうに眉を寄せるジーフォ公としたたかに微笑むセシ公が、幼なじみだと聞いたところで誰も信じるまい。むしろ、幼なじみの友情はとっくの昔に破綻していると考えるだろう。
だが、ジーフォ公はセシ公のことばだけは、信じるのだ。
『お前はくそ野郎だ。だが嘘だけは言わないのを知ってる、うんざりするがな』
苦々しく吐き捨てる声が今も聴こえてきて、セシ公はくすりと笑う。
「…けどそれじゃ、ジーフォ公の領地が空くだろ」
リヒャルティは困惑している。
「そうとも空く。だが、その空きはわざと、だ」
「わざと……罠なのか?」
「…ギヌアは『西の姫君』を使った作戦にジーフォ公が乗ったと思うだろう。そのための偽装も既に伝えられているはずだ、アシャが『歯止めをかけるように』指示した、というから」
表向きは如何にもギヌアの作戦通り、アシャが『西の姫君』を攫ったのを知って激怒して領地を離れたように。その実は、セシ公の元で領地に睨みを効かせながら潜伏しつつ反撃の機会を伺うことができるように。
「ジーフォを作戦に従うように説得はできない、だが、作戦通りに動いてもらうことはできる……そういう手配りなんだよ」
「……」
「後の動きについてはこう記してある。『「泥土」のグードス救出には私が赴き、北は「泉の狩人」(オーミノ)、南は貴公にお任せ出来るとの確信がある。ジーフォ公と協議され、分領地の境を決められたし』……つまり、慌てて動かずに済むように手配したから、決戦の場をお膳立てしろとの命令だ」
「……そんなことが…できんのかよ」
だって、アシャはこっちの状態を知らねえだろ?
「まるで、全部見てるみたいじゃねえか」
リヒャルティの声は状況をわかる前より不安げに響いた。
「アシャの頭の中では」
セシ公はもう一度地図に目を向けた。
「この戦いが終わった後の世界が見えているのかも知れない。おさまるべき形はもう見えているけれど、そのどこなら改変可能なのか、どの時期から動かせなくなるのか」
「けど、兄貴」
リヒャルティも同様に地図を見る。
「それってさ、気のせいか? オレにはなんか、どっちが勝っても関係ねえって言ってるように聞こえんだけど」
オレ達は『ラズーン』としてさ、この世界に生き残りたいって思ってる。だから、何とかして勝つ方法を探してる。
「けど、アシャにはさ、この後の世界しか見えてなくて、そこに誰がどう残ってるかってのは、ほんとのところは気にしてなくて」
少しためらってからことばを続ける。
「この後の世界に当てはまるように、オレ達、いや、『運命(リマイン)』とかギヌアとかも、そういう役柄を割り振ってるような気がすんだけど」
気のせいかな、兄貴。
「……」
セシ公はしばらく無言で弟の、年相応に幼くなった金髪の下の白い顔を眺めた。
リヒャルティは昔から勘が良かった。
生き残るために必要なこと、しなくてはならない仕事が何なのかの本質を捉える子どもだった。
セシ公はゆっくりと目を伏せた。
「……軍師とは多かれ少なかれ、そういうものだよ」
人の命を駒として扱う。情勢を読み、望む形に仕上げるために、人も物資も環境さえも計算尽くで配置する。
「私だって同じさ」
「……兄貴は違う」
ぼそりとリヒャルティは唸る。
「兄貴は、配置するオレやギャティやバルカの顔を見るだろ。今みたいにさ、あっちへ行けとかこっちへ行けとか、命令するだろ」
けど、アシャはさ。
「……アシャの前で命令を受ける奴って、居ねえんじゃねえの?」
オレが死んでも、あのクフィラの伝令で、次の誰かにその役割を振るだけなんじゃねえの?
「そんな命令聞く奴って、居るのかな」
そのとき、同時に二人の頭の浮かんだのは、一人の少女、馬の背中で細身を伸ばし、水晶の剣を抜き放ち、誰よりも先に戦地に向かう、ユーノ・セレディス。
「……ユーノが居れば」
セシ公は低く呟いた。
「きっと死ぬ時でも一人ではないだろう」
「………だよな」
「……リヒャルティ」
「やることは、わかった」
セシ公の声に、リヒャルティはぐいと体を起こした。不敵な笑みに唇を綻ばせると、今の今まで幼く見えていた表情が、一気にしたたかで覇気のある顔に変わる。
「『金羽根』のリヒャルティ、確かに請け負った」
期待しててくれ、兄貴。
高らかに言い放って身を翻し、戸口から走り出ていく弟をセシ公はしばらく見送った。少し離れたところでいきなりどよめきが起こり、見る見る音量を上げる。どうせまた、付いていきたいとねだる『金羽根』の面々がリヒャルティに絡んで一悶着起こしているのだろう。だが、それも少しのこと。
潮が引くように騒ぎが静まっていった後も、セシ公は椅子から立ち上がらなかった。
窓辺にはクフィラが返答を待って金色の瞳を瞬いている。
「……最愛の女性を傷つけられているのに、な」
アシャのよこした冷静で怯みのない策は、まるで何も起こっていないかのようだ。
「『氷のアシャ』か…」
セシ公は呟きを噛み締めながら立ち上がり、クフィラに近づく。
「お前の主人は、本当に人の味方なのだろうかな…?」
詰問はサマルカンドの貫く視線に弾かれた。
公宮の作戦会議室で、セシ公は机の上に広げられている地図を見つめている。とん、とん、とん、とん、と拍子を取るかのように机を叩き続ける白く細い指先が、ふ、と空中で止まった。
足音が近づいてくる。慌ただしくひたすらに速度をあげてくる激しい音。
それほど待つまでもなく扉が荒々しく開け放たれ、まだまだあどけなさを残す頬を紅潮させ、金色の髪をくしゃくしゃに乱したリヒャルティが飛び込んできた。
「兄貴!」
「昼間なら脱いでいいと言った覚えはないぞ」
上半身裸、腰布だけの体に水滴を光らせているところを見ると、湯浴みでもしていたのだろう。穏やかに咎めるセシ公の声にむっとしたように眉を寄せて唇を尖らせ、顔立ちに似合わぬ荒っぽさで喚いた。
「脱ぎたくて脱いだんじゃねえや! ユーノが怪我したってのは本当か?!」
「ああ…そうらしい」
セシ公は淡々と応じて、再び左手の人差し指でとん、とん、とん…と机を叩き始める。右手は顎の下、右目にかかった銀に近い金髪を払おうともせず、地図の上を凝視し続けている。ち、と苛立たしげに舌打ちをしたリヒャルティがいきり立つ。
「そうらしい、じゃねえ! 何だってそんなに落ち着いてんだよ! あいつは女だぞ! 聞きゃあ、かなり派手な怪我らしいじゃねえか!」
「話したのはバルカか?」
「どうでもいいだろっ、そんなこと!」
「…始めの頃は女だとも気づかなかったくせに」
「わ、悪かったなっ! どうせ、オレは餓鬼だよっ!」
からかうような薄笑みを浮かべたセシ公に、リヒャルティは真っ赤になって怒鳴り返した。兄貴のおふざけに付き合ってられるかよ、と吐き捨てて、左手に引っ掴んだ紅の衣を被ることもなく、身を翻して出て行こうとする。
「待て」
「何だよ!」
「どこへ行く?」
「決まってんだろ、ユーノのとこだよ!」
「何のために?」
「何のためって! ユーノを殺った奴をとっちめてやるっ!」
「勝手に殺すものではないよ」
殺気立つ弟にくすりと笑う。
「お前が行かなくても、あっちにはアシャがいる」
「わかってるよ! でも心配なんだ!」
「どうせなら、もう少しあの娘のためになることをしてはどうだ?」
セシ公のことばに、半身だけ振り返っていたリヒャルティは完全に向き直った。
「……何か策があるのか」
「駆けつけるばかりが能でもあるまい」
「……わか、った」
リヒャルティは腰に手を当て溜め息をついた。ぷる、と頭を軽く振り、気持ちを切り替えたのだろう、机に戻ってきてセシ公の眺めていた所を覗き込む。
「で? どこへ行けばいい?」
「うむ」
セシ公は微笑んだ。確かに若すぎ血の気が多すぎるかも知れないが、伊達や酔狂で『金羽根』の長を任じられているのではない。自分が為さなくてはならない『仕事』に関しては、リヒャルティは極めて冷静でしたたか、本能的な嗅覚がある。
「お前まで『そう』なら、他の人間のほとんどが、今ユーノと『氷の双宮』『泉の狩人』(オーミノ)に向いていると考えていいな」
「どういうことだよ」
「もし、お前がギヌアなら……今、この時、何をする?」
「…」
「ほとんどの目がミダス公、『氷の双宮』、『狩人の山』(オーミノ)に向いている今、どこを狙う?」
「…そうだな」
もぞもぞと紅の衣を被って、腰を緋の紐で締め、リヒャルティは地図を見つめた。兄よりやや細めの指先が、ゆっくりと四大公の領地を巡っていく。
「他…と言っても、『泥土』はムリだな。アシャがたぶんグードス救出に動くだろうし……とすると…」
「アギャンをこれ以上追ったところでどうにもなるまい、なら」
セシ公は補足しながら、リヒャルティの指が滑っていく先を見やる。
「周辺には『羽根』と『野戦部隊(シーガリオン)』がいる……そうだな、オレなら、ここ、だ」
「ジーフォ公。その通り」
セシ公は頷いた。
「けどさ、兄貴」
訝しげにリヒャルティが眉を上げる。
「あいつを突くったって」
「『子ども』にはわからんだろうが、ジーフォ公には最愛の婚約者がいる」
「それぐらい、オレだって知ってるぜ」
リヒャルティは口を尖らせた。
「『西の姫君』だろ」
「では、その『西の姫君』が、以前アシャに夢中になって、しかも手酷く振られたことは?」
「知ってる、何となく」
答えはしたものの、リヒャルティはまだセシ公の言おうとしていることが呑み込めない様子だ。
「ならば、私ならジーフォ公を揺さぶるためにはこうする」
セシ公はにやりと笑った。
「まず『西の姫君』を何らかの方法で失踪させる。それをアシャに因るものだとジーフォ公に吹き込む。この時点でジーフォ公がアシャに敵対するのなら良し、それで駄目なら、そうだな、『泥土』へでもおびき出すか」
「何でだよ?」
「ミダス公が襲われたのは知ってるな?」
「ああ」
「襲った相手はグードスらしいと言われていた。グードスはアギャンが一子、探りに出ればグードス本人は『泥土』で行方不明だと噂されている……アシャを『泥土』へ引っ張り出そうとした意図は明快だ。ならば、混乱に乗じて事を起こすには、味方にならなかったジーフォ公も『泥土』へおびき出し、同士討ちをさせるのが一番手間が省ける手法だ。ま、もっとも」
くす、と妙に可愛らしく笑い声をたてる。
「ジーフォ如きにアシャが殺られるとは思わないから、ジーフォの始末ということにしておいてもいいか。どちらにせよ、いなくなってくれれば、ジーフォ公の座がまるまる空く」
「…確かさ」
リヒャルティはうさん臭そうにセシ公を見やった。
「オレの知ってる限りじゃ、兄貴はジーフォと『仲良し』だったよな?」
「そういう時もあったかな」
「ってか、すんごくよく知ってる仲、だよな?」
「ミダスよりは信頼してるよ」
微笑みを広げると、ふ、と相手は息をついて視線を逸らせた。
「兄貴が言うと『信頼』ってことばは『うまく使える』って聴こえるぜ」
ま、いいや。
こきこき、と首を回して体を緩めながら、
「能書きは兄貴に任せる。オレはユーノを助けるのに何をしたらいいのかだけ、教えてくれ」
「お前が尋ねるからだよ」
薄笑みを浮かべたままからかったが、リヒャルティが真面目な表情になったのに応じて一つ頷き、静かにジーフォ公宮に指を置き口を開く、が。
「まずは…」「わ!」
突然、開け放っていた窓から白い疾風が飛び込んで来た。
「サマルカンド!」
「クェッ!!」
額に紅の十字を戴いたクフィラは、セシ公が自分を一目で見分けたのに満足したのか、一声鋭く鳴くと部屋の中で体を捻り、ふわりと舞い戻った。大きな翼を苦もなく室内で翻し、一瞬に畳み込んで窓辺に体を落ち着け、鋭い嘴を誇らしげに上げてセシ公を睥睨する。その片足に小さな筒がついている。
「何だ?」
「アシャのクフィラだよ。主からの指示を持って来たらしい」
セシ公は素早く近寄り、筒の中から巻いた紙を取り出した。一読してぴくりと体を震わせ、顔を強張らせる。
「兄貴?」
リヒャルティが不審そうに声をかけてくる。
「どうしたんだ? 何か悪い知らせか?」
「…はぁ」
「?」
セシ公の悩ましげな溜め息なぞ、寝屋に侍る女性でも滅多に聞くことはあるまい。思わず眉を上げたリヒャルティが背後から不安そうに重ねて尋ねる。
「兄貴…?」
「ふ、ふふっ」
「おい」
「狂ったのではないさ」
呆れてるのさ、と呟いて振り返ると、こちらも呆気にとられたリヒャルティの間抜け面が迎えた。何となく気持ちを癒されてセシ公は笑みを広げる。
「よくもまあ、ここまで正確に状況を読んでるものだと思ってな」
「アシャか?」
「私の予測などお見通しだよ。加えてこう書いてある」
ぴらぴらと指先の紙を振って見せる。
「『ジーフォ公はテッツェには歯止めを頼んでいるが、押さえ切れぬ場合に備え、リヒャルティとバルカ、ギャティをお貸し願いたい。その三人にジーフォ公の押さえを、できれば、ジーフォ公が憤慨して貴公の所へ向かわれるようにして頂ければ、より有効にジーフォ公を押さえられるかと思っている』とある」
「それって」
兄貴の予想を超えて手を打って来たってことだよな?
セシ公は笑みを引っ込めた。ごまかし切れない寒気に顔がそそけ立っているのを感じた。
「覚えておくのだ、リヒャルティ」
ふ、と小さく息をつく。
「これが、アシャが『軍師』と呼ばれる才能の片鱗だ」
「そんなに凄い指示なのか?」
「凄いも何も」
窓辺を離れ、どさりと椅子に体を落とす。急に広がった疲弊感は己の読みの上を行かれただけではなく、これから圧倒的に不利な戦いに傾きかねない状況を、己一人で支えなくてもいいという安堵もあったかも知れない。
「アシャはこちらの情報を詳細に掴むことができなかったはずだ。『泉の狩人』(オーミノ)との交渉やミダス公襲撃、たて続けに心身ともに苛めるしかない動きのただ中でアギャン公領地に向かってる」
非常に限られた情報しか手に入らない、だがきっと、アギャン公の動きから何が起ころうとしているのか察したのだ。だからこそ、ジーフォ公を押さえる必要があると考えた。
「その手立てがまた憎らしいだろう?」
まず動かしたのがテッツェというあたりが笑えない。確かにジーフォ公は短気で知られた男だが、彼が唯一意見を求め案に従うのがテッツェだと知っていなければ打てない手だ。そして、テッツェがまず優先するのが主たるジーフォ公の安寧であり、そのためには時に『太皇(スーグ)』にさえ楯突くことも辞さない気性だと知っていれば、主を越えてテッツェを動かすことの困難さがわかる。
さらりと書かれた「歯止めを頼んだ」という中身は、ジーフォ公が確かに危険に晒されるであろうとテッツェに納得させたということに他ならない。
「テッツェをジーフォ以外が動かせるなんて考えもしないさ」
だが、一度動けば、その働きは確実迅速だ。おかげでセシ公は慌てて動かなくても済む。
「けれど、たぶんテッツェは制止はするが、こちらの目論みには乗ってくれまい」
そこでリヒャルティ達の出番だ。急ぎの手を打たなくていいセシ公の配下は手持ち無沙汰だ、そう見切って次の手にリヒャルティ達を駆り出した。
「嫌だなんて言えないだろう」
苦笑いする。
ジーフォ公の動きを止めた。次はその身柄を確保しておかなくてはならない、おそらくはその次の布石のために。だが、それはテッツェを動かすよりも至難の技だ、何せジーフォという男は、己が世界君主にふさわしいと思っているのだから、いくら策を説明し、意図を解説したところで、他の人間に指示された、それだけで反発し動かないだろう。
「だから、お前達なんだよ……あいつに喧嘩を買わせられるのは、並大抵の挑発じゃ無理だろうからね」
やれやれ。
「ちょ、っと、待った」
リヒャルティは眉根を寄せて、一所懸命に策の道筋を追いかけている。
「つまり……オレ達はジーフォ公を怒らせて連れ出せばいいのか?」
「そうだ」
セシ公は薄笑いした。
「私の手の中にさえ落とし込んでくれたら、何とでもいいように扱えるからね」
セシ公とジーフォ公は傍目に仲が悪く見える。お互いへの信頼は皆無、顔を会わせれば不愉快そうに眉を寄せるジーフォ公としたたかに微笑むセシ公が、幼なじみだと聞いたところで誰も信じるまい。むしろ、幼なじみの友情はとっくの昔に破綻していると考えるだろう。
だが、ジーフォ公はセシ公のことばだけは、信じるのだ。
『お前はくそ野郎だ。だが嘘だけは言わないのを知ってる、うんざりするがな』
苦々しく吐き捨てる声が今も聴こえてきて、セシ公はくすりと笑う。
「…けどそれじゃ、ジーフォ公の領地が空くだろ」
リヒャルティは困惑している。
「そうとも空く。だが、その空きはわざと、だ」
「わざと……罠なのか?」
「…ギヌアは『西の姫君』を使った作戦にジーフォ公が乗ったと思うだろう。そのための偽装も既に伝えられているはずだ、アシャが『歯止めをかけるように』指示した、というから」
表向きは如何にもギヌアの作戦通り、アシャが『西の姫君』を攫ったのを知って激怒して領地を離れたように。その実は、セシ公の元で領地に睨みを効かせながら潜伏しつつ反撃の機会を伺うことができるように。
「ジーフォを作戦に従うように説得はできない、だが、作戦通りに動いてもらうことはできる……そういう手配りなんだよ」
「……」
「後の動きについてはこう記してある。『「泥土」のグードス救出には私が赴き、北は「泉の狩人」(オーミノ)、南は貴公にお任せ出来るとの確信がある。ジーフォ公と協議され、分領地の境を決められたし』……つまり、慌てて動かずに済むように手配したから、決戦の場をお膳立てしろとの命令だ」
「……そんなことが…できんのかよ」
だって、アシャはこっちの状態を知らねえだろ?
「まるで、全部見てるみたいじゃねえか」
リヒャルティの声は状況をわかる前より不安げに響いた。
「アシャの頭の中では」
セシ公はもう一度地図に目を向けた。
「この戦いが終わった後の世界が見えているのかも知れない。おさまるべき形はもう見えているけれど、そのどこなら改変可能なのか、どの時期から動かせなくなるのか」
「けど、兄貴」
リヒャルティも同様に地図を見る。
「それってさ、気のせいか? オレにはなんか、どっちが勝っても関係ねえって言ってるように聞こえんだけど」
オレ達は『ラズーン』としてさ、この世界に生き残りたいって思ってる。だから、何とかして勝つ方法を探してる。
「けど、アシャにはさ、この後の世界しか見えてなくて、そこに誰がどう残ってるかってのは、ほんとのところは気にしてなくて」
少しためらってからことばを続ける。
「この後の世界に当てはまるように、オレ達、いや、『運命(リマイン)』とかギヌアとかも、そういう役柄を割り振ってるような気がすんだけど」
気のせいかな、兄貴。
「……」
セシ公はしばらく無言で弟の、年相応に幼くなった金髪の下の白い顔を眺めた。
リヒャルティは昔から勘が良かった。
生き残るために必要なこと、しなくてはならない仕事が何なのかの本質を捉える子どもだった。
セシ公はゆっくりと目を伏せた。
「……軍師とは多かれ少なかれ、そういうものだよ」
人の命を駒として扱う。情勢を読み、望む形に仕上げるために、人も物資も環境さえも計算尽くで配置する。
「私だって同じさ」
「……兄貴は違う」
ぼそりとリヒャルティは唸る。
「兄貴は、配置するオレやギャティやバルカの顔を見るだろ。今みたいにさ、あっちへ行けとかこっちへ行けとか、命令するだろ」
けど、アシャはさ。
「……アシャの前で命令を受ける奴って、居ねえんじゃねえの?」
オレが死んでも、あのクフィラの伝令で、次の誰かにその役割を振るだけなんじゃねえの?
「そんな命令聞く奴って、居るのかな」
そのとき、同時に二人の頭の浮かんだのは、一人の少女、馬の背中で細身を伸ばし、水晶の剣を抜き放ち、誰よりも先に戦地に向かう、ユーノ・セレディス。
「……ユーノが居れば」
セシ公は低く呟いた。
「きっと死ぬ時でも一人ではないだろう」
「………だよな」
「……リヒャルティ」
「やることは、わかった」
セシ公の声に、リヒャルティはぐいと体を起こした。不敵な笑みに唇を綻ばせると、今の今まで幼く見えていた表情が、一気にしたたかで覇気のある顔に変わる。
「『金羽根』のリヒャルティ、確かに請け負った」
期待しててくれ、兄貴。
高らかに言い放って身を翻し、戸口から走り出ていく弟をセシ公はしばらく見送った。少し離れたところでいきなりどよめきが起こり、見る見る音量を上げる。どうせまた、付いていきたいとねだる『金羽根』の面々がリヒャルティに絡んで一悶着起こしているのだろう。だが、それも少しのこと。
潮が引くように騒ぎが静まっていった後も、セシ公は椅子から立ち上がらなかった。
窓辺にはクフィラが返答を待って金色の瞳を瞬いている。
「……最愛の女性を傷つけられているのに、な」
アシャのよこした冷静で怯みのない策は、まるで何も起こっていないかのようだ。
「『氷のアシャ』か…」
セシ公は呟きを噛み締めながら立ち上がり、クフィラに近づく。
「お前の主人は、本当に人の味方なのだろうかな…?」
詰問はサマルカンドの貫く視線に弾かれた。
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