『ラズーン』番外編

segakiyui

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『目隠し鬼』

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「こんなの巻いてたら相手がわからないんじゃない?」
 ユーノは不審そうに眉を寄せて尋ねる。
「そりゃあ、そういうお祭りですから」
 村人は楽しそうに言う。
 目元を隠して頭の後ろで結ばれたのは、薄紅の細い帯。けれども厚みはしっかりあって、視界は闇に閉ざされている。
「ああ、ほら、来られましたよ…あれ」
 意外そうな村人の声が、しっ、と低い声でたしなめられてくすくす笑いに変わる。
「そうですか、そういうことですか。ええ構いませんよ、とにかく今宵は『目隠し鬼』のお祭りですからね。私達はなあんにも言いませんとも」
「…どういうこと?」
「さあさあ、お相手の手をとって」
 引っ張られた手はかさりとした革の指先に受け止められる。
「手袋をつけてるの?」
 ゆっくり握りしめられる。革を隔てて熱も肌触りもよくわからない。緩やかに力を加えられて、促されるままに立ち上がる。慣れないドレスの裾は長く、今にも踏みそうでひやひやする。
「…申し訳ないけど、私、あんまりこういうのは着慣れてないんだ。ダンスもできない。気の利いた会話も。それに、今夜の宿代の代わりに、仲間を代表して祭りに参加していて……だから、謂れもよくわからないし、楽しみ方も知らな…」
 ふ、と唇を押えられてどきりとした。
「黙って? ああ、うん、けれどこれからどうしたら…うわっ」
 ふわっと軽く脚を跳ね上げ抱えられて、容赦なく歩き出されてユーノは慌てる。
「あ、あのっ、うん確かにうまく歩けないから、この方が移動は楽だけど、でも…」
 思わずしがみついた相手の体、弁解するうちに気づく、とても速く波打つ鼓動。
「…私の…かな……それとも……あなた、かな…」
 ふと立ち止まった相手が、味わうようにそのまま静かに抱き締めてくる。
「…どうしたの…?」
 沈黙に耳を澄ませていると、優しい笛の音色が聞こえた。繰り返す調べ、甘く切ない旋律。
「…きれいな音だね」
 いつの間にか寛いで、相手の腕の中でユーノは目を閉じる。
「祭りの歌かな、すごく懐かしい気がする……あなたも?」
 頷く気配に嬉しくなって笑った。
「あの…ありがとう。後は私が何をしたらいいか、教えてくれると……え…?」
 口元に温かな吐息が触れてどきりとする。
 次の瞬間。
「アシャーっ!」
「、うわ!」
 丁寧に、けれどひどくうろたえた様子で降ろされた。足元に地面が触れるや否や体を離され、ユーノは慌てて脚を踏みしめ,同時に目元の帯を取った。
「あ、れ?」
 いつの間に離れていたのだろう、宿は遥か彼方、立っているのは祭りの場所と反対の小さな広場の前。そしてよく見るとそこは。
「ひょっとして、ここ…?」
「ユーノ!」
 背後の声に振り返ると、息を切らしてレスファートが駆け寄ってくる。
「祭りの姫さまがいなくなったって皆が騒いでるよ。どうしたの?」
「え、いや、あの……おかしいな」
 ユーノは薄紅の帯を手にしたまま首を傾げる。
「こんなところに居たのか!」
 イルファがのしのしと大股でやってくる。
「墓場の前でどうしたんだ」
 その後ろからやってくるアシャが苦笑いして尋ねてくる。
「え、お墓なの、ここ? 気づかなかった」
「うむ、一見そうは見えないな」
 レスファートが驚き、イルファが頷き、アシャはなぜか顔を背けて言い放つ。
「あー、早く向こうに行った方がよさそうだぞ、皆待っているみたいだし」
「……アシャ?」
「ほら! 歩きにくいなら、俺がおぶってやるから!」
 アシャはぱんぱんと背中を叩きつつ、なぜか薄く染まった頬で、ユーノにくるりと背中を向けた。
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