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9話 初期設定
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宿に戻り、ジュリアンは今日の感想をお父さんやお母さんに楽しそうに話している。
両親もその話を笑顔で聞いている。
夕食を食べ終えた後、ジュリアンはやはり疲れていたらしく、すぐに眠ってしまった。
僕は路地で見た彼らのことが気になって仕方なかった。
彼らは幸せなのだろうか。
僕だけこんなに幸せで良いのだろうか。
彼らも僕と同じようにこの世界で生きているわけで、
ゲームの強制力で、ああいった生活を余儀なくされているだけではないだろうか。
もしそうなら、なんとか出来ないのだろうか。
「フランツ。今日はありがとね。」
寝室でジュリアンを寝かしつけていたお母さんがリビングの方に戻ってきた。
「うん。」
「何かあったのか?」
「え?」
隣に座っていたお父さんがおもむろに話しかけてきた。
「何か考えごとしている様だったから。」
「え?僕の心読んだ?」
「読んでないよ。そもそも読めないから。見てればそれくらい分かるよ。」
「そうだよね……。実は、ジュリアンと王都を散策しているとき暗い路地があって、そこに服がぼろぼろの人達がいたんだ。それで、その人達のことが気になってて。」
「そうだったのか。」
「お父さんは、彼らのこと何か知ってる?僕やジュリアンくらいの子供も居いて……とても幸せそうには見えなかった。」
「フランツは優しいな。この世界は平等じゃない。いろんな人間がいるのは確かだね。」
お父さんは優しく僕の肩を抱き寄せ、そのまま僕の頭の上に手を置いた。
「どうにかできないのかな?」
顔同士が正面ではなく、横にいるからか自然と本音が出てくる。
「今すぐには難しいかもね。でも、フランツが今日みて思ったことは、将来役に立つ。本気でどうにかしたいと思っているなら、それなりの覚悟と労力が必要だよ。そのためには今は勉強だね。」
確かに、今の僕では何の力にもならないだろう。
でもそんな僕が言っていることを否定するわけでもなく、真剣に答えてくれるお父さんがいるのは本当に幸せなことだ。
ますます彼らのことが心配になる。
僕みたいに正しい道に導いてくれる大人はいるのだろうか。
そのうち、いやもしかしたらもう犯罪に手を染めていたりするのではないだろうか。
「今日見たあの子達はどうすることも出来ないのかな……?」
「フランツ。フランツはその子達にどうなって欲しいと思ってる?」
お父さんは身体をこちらに向け、僕の目を見て聞いてきた。
「それは、笑顔になって欲しいと思ってる。僕みたいに毎日が楽しくて幸せって思えるようになって欲しい。」
「それはフランツが今そう感じているから?」
「うん。」
「フランツは彼らを笑顔に出来たとして、彼らから何を得る?」
「特に何もいらないよ。」
「うーん。その考え方は少し違うかな。もし、フランツが無償で彼らのために働いたとして、フランツはどうやって生きていくんだ?」
「……確かに。」
「それにフランツがそこまでして彼らの生活を変えたいと思う根本はなんだろうね。」
「根本……。」
「それが今後行動するに当たって必ず必要になるときが来る。だから今は感情にまかせるのではなく、きちんと考えた方が良いね。」
「うん。ありがとう。考えてみる。」
「おいで。」
差しのべられた腕に身を委ね、お父さんの胸に顔をうずめる。
お父さんの言うとおり、なんでこんなに彼らが気になるんだろう……。
僕は今幸せで、見て見ぬふりをしたところで何も変わらないというのに。
そもそもこの世界はゲームの世界で、人為的に作られた世界。
ゲームにはシナリオがあって、聖女次第だが物語はほぼほぼ決められている。
彼らはその大勢の中の1人にすぎない。モブと呼ばれるキャラクター。ホームレスという設定付き。
そのホームレスという設定が理不尽で可愛そうだと思ったからか?
もちろんそれもある。でも本当にそうなのかな?それだけ?
いや、それ以前のゲームの世界ってことか。
今まで目を背けてきたけど、僕もゲームのモブにすぎない。
僕だって何かしらの設定があって、それに基づいて動いているだけなのかもしれない。
自分の意思で行動していると思い込んでいるだけで……。
僕は今幸せだけど、それは僕の人生と言えるのだろうか。
彼らのように僕も同じで、だから不安なのかもしれない。
僕が決断したように思っていても、ただそういう物語ってだけなのかもしれない。
結末は決まっていて、映画を見るみたいに決められた物語を進んでいるだけなのかもしれない。
操られているとも知らずに、さも自分が決めた人生だと思い込んで。
だから、もし僕が何かをすることで彼らの人生が変わるのなら……。
ホームレスという設定がなくなるのなら……。
――僕はシナリオ通りではないって証明したいだけなのかも。
いや、もしかしたらそれすらも物語の一部の可能性も……。
なんかもう分かんなくなってきた……。
僕はどんな設定なんだろう。
特にゲームに関わる様子はないし、不幸でもない。ただの一般人ってとこかな?
もしそうなのだとすれば、一般人ができなそうなことをやってみるっていう手もあるのかもしれない。
もしゲームの設定の人物には出来ないことを成し遂げたら……。
僕がシナリオから抜け出せたら……。
そのことを証明できたら、ありとあらゆる人の設定もなくせるかもしれない。
うん。まずは自分で試してみよう。
両親もその話を笑顔で聞いている。
夕食を食べ終えた後、ジュリアンはやはり疲れていたらしく、すぐに眠ってしまった。
僕は路地で見た彼らのことが気になって仕方なかった。
彼らは幸せなのだろうか。
僕だけこんなに幸せで良いのだろうか。
彼らも僕と同じようにこの世界で生きているわけで、
ゲームの強制力で、ああいった生活を余儀なくされているだけではないだろうか。
もしそうなら、なんとか出来ないのだろうか。
「フランツ。今日はありがとね。」
寝室でジュリアンを寝かしつけていたお母さんがリビングの方に戻ってきた。
「うん。」
「何かあったのか?」
「え?」
隣に座っていたお父さんがおもむろに話しかけてきた。
「何か考えごとしている様だったから。」
「え?僕の心読んだ?」
「読んでないよ。そもそも読めないから。見てればそれくらい分かるよ。」
「そうだよね……。実は、ジュリアンと王都を散策しているとき暗い路地があって、そこに服がぼろぼろの人達がいたんだ。それで、その人達のことが気になってて。」
「そうだったのか。」
「お父さんは、彼らのこと何か知ってる?僕やジュリアンくらいの子供も居いて……とても幸せそうには見えなかった。」
「フランツは優しいな。この世界は平等じゃない。いろんな人間がいるのは確かだね。」
お父さんは優しく僕の肩を抱き寄せ、そのまま僕の頭の上に手を置いた。
「どうにかできないのかな?」
顔同士が正面ではなく、横にいるからか自然と本音が出てくる。
「今すぐには難しいかもね。でも、フランツが今日みて思ったことは、将来役に立つ。本気でどうにかしたいと思っているなら、それなりの覚悟と労力が必要だよ。そのためには今は勉強だね。」
確かに、今の僕では何の力にもならないだろう。
でもそんな僕が言っていることを否定するわけでもなく、真剣に答えてくれるお父さんがいるのは本当に幸せなことだ。
ますます彼らのことが心配になる。
僕みたいに正しい道に導いてくれる大人はいるのだろうか。
そのうち、いやもしかしたらもう犯罪に手を染めていたりするのではないだろうか。
「今日見たあの子達はどうすることも出来ないのかな……?」
「フランツ。フランツはその子達にどうなって欲しいと思ってる?」
お父さんは身体をこちらに向け、僕の目を見て聞いてきた。
「それは、笑顔になって欲しいと思ってる。僕みたいに毎日が楽しくて幸せって思えるようになって欲しい。」
「それはフランツが今そう感じているから?」
「うん。」
「フランツは彼らを笑顔に出来たとして、彼らから何を得る?」
「特に何もいらないよ。」
「うーん。その考え方は少し違うかな。もし、フランツが無償で彼らのために働いたとして、フランツはどうやって生きていくんだ?」
「……確かに。」
「それにフランツがそこまでして彼らの生活を変えたいと思う根本はなんだろうね。」
「根本……。」
「それが今後行動するに当たって必ず必要になるときが来る。だから今は感情にまかせるのではなく、きちんと考えた方が良いね。」
「うん。ありがとう。考えてみる。」
「おいで。」
差しのべられた腕に身を委ね、お父さんの胸に顔をうずめる。
お父さんの言うとおり、なんでこんなに彼らが気になるんだろう……。
僕は今幸せで、見て見ぬふりをしたところで何も変わらないというのに。
そもそもこの世界はゲームの世界で、人為的に作られた世界。
ゲームにはシナリオがあって、聖女次第だが物語はほぼほぼ決められている。
彼らはその大勢の中の1人にすぎない。モブと呼ばれるキャラクター。ホームレスという設定付き。
そのホームレスという設定が理不尽で可愛そうだと思ったからか?
もちろんそれもある。でも本当にそうなのかな?それだけ?
いや、それ以前のゲームの世界ってことか。
今まで目を背けてきたけど、僕もゲームのモブにすぎない。
僕だって何かしらの設定があって、それに基づいて動いているだけなのかもしれない。
自分の意思で行動していると思い込んでいるだけで……。
僕は今幸せだけど、それは僕の人生と言えるのだろうか。
彼らのように僕も同じで、だから不安なのかもしれない。
僕が決断したように思っていても、ただそういう物語ってだけなのかもしれない。
結末は決まっていて、映画を見るみたいに決められた物語を進んでいるだけなのかもしれない。
操られているとも知らずに、さも自分が決めた人生だと思い込んで。
だから、もし僕が何かをすることで彼らの人生が変わるのなら……。
ホームレスという設定がなくなるのなら……。
――僕はシナリオ通りではないって証明したいだけなのかも。
いや、もしかしたらそれすらも物語の一部の可能性も……。
なんかもう分かんなくなってきた……。
僕はどんな設定なんだろう。
特にゲームに関わる様子はないし、不幸でもない。ただの一般人ってとこかな?
もしそうなのだとすれば、一般人ができなそうなことをやってみるっていう手もあるのかもしれない。
もしゲームの設定の人物には出来ないことを成し遂げたら……。
僕がシナリオから抜け出せたら……。
そのことを証明できたら、ありとあらゆる人の設定もなくせるかもしれない。
うん。まずは自分で試してみよう。
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