アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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好き・2

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「はっ……?」

アリーシャの言葉に、濃い紫色の両目を大きく見開いて、オルキデアは固まってしまう。

ーー今、アリーシャは何と言った?
 
オルキデアを「好き」だと言った。
敵国の軍人であるオルキデアのことを。

オルキデアの反応から、アリーシャも自分が勢いのまま何を言ったのか気づいたのだろう。
ハッとした顔になると、見る見るうちに顔を赤く染めていったのだった。

「ち、違うんです!! いや、違う訳ではないんですが!! その……オルキデア様のことは、好きなんですが、それは安心できる場所として、と言いますか。信頼できる人として? いえ、友達として……? ううん。友達じゃなくて、その……」

目尻に涙を溜めて、今にも泣き出しそうな真っ赤な顔で慌てるアリーシャがあまりにもおかしくて、とうとうオルキデアは吹き出してしまった。
声を上げて、笑い出したのだった。

「そうか。わかった」
「な、何を……?」

耳まで赤くなったアリーシャに近づくと、その華奢な身体を腕の中に抱いたのだった。

「お、オルキデア様……」
「心配していたんだ。敵に囲まれた環境で、不安を感じていないかと。だが、その様子なら大丈夫なようだな」

オルキデアの元を「安心できる場所」と言ったのだ。
慣れない環境でストレスを感じていないかと心配していたが、どうやら杞憂だったらしい。

(それどころか、寛いでさえいるな)

以前、二人きりの時は楽にしていいと言った。
それでも敵であるオルキデアに本心を語るものだろうか。
捕虜としての緊張感や自覚が足りない気もするが……。
それでも、記憶も、味方も、心を許せる同性もいない状況下で、寛ぐ余裕があるのだ。
ーーこれなら、もう心残りはなかった。

アリーシャを抱きしめる手に力が入っていたのだろう。
腕の中から、「あの……」とか細い声が聞こえてきたのだった。

「オルキデア様もそうやって笑って、女性を抱きしめるんですね……」
「そうらしいな。俺自身も初めて知った。これまで、こうやって笑って、誰かを抱きしめたことは無いんだ」

これまで、オルキデアは特定の女性と付き合った事や、愛を囁いた事はない。
ただ、オルキデアの容姿は目立つようで、戦勝パーティーや、誰かのパーティーの招きに預かって華やかな場所に行くと必ずと言っていいほど、女性から近寄って来てーー自ら抱かれに来たのだった。

オルキデア自身もその時の気分次第で抱いたり、抱かなかったりして、一夜を共に過ごした。
気持ちに応えた相手でも、一夜限りしか関係を持たず、それ以降は相手が何を言ってきても、更なる親密な関係を求めてきても、ずっと無視をしてきたのだった。

そんなオルキデアを、妻帯者である親友は「女遊びと酒はほどほどにして、早く良い女を見つけて結婚しろ」と眉を顰めて忠告していた。
それでも、どうしてもオルキデアには伴侶や恋人を持つ気にはなれなかった。
恐らく、両親の所為だろうがーー。

「それなら、どうして私を抱きしめてくれるんですか?」
「……泣いているからだろうな。泣いている女の慰め方を俺は知らないんだ」

本当はオルキデア自身も、どうしてアリーシャを抱きしめたのかわからない。
もしかしたら、「安心できる場所」と言われたのが嬉しくて、身体が勝手に動いてしまったのかもしれない。

「も、もう泣いてないですよ! 大丈夫です。ほら!」

自らの手の甲で目を擦るアリーシャだったが、何度も擦っているからか、目元が赤くなっていた。

「そう何度も目を擦るな。腫れるぞ」
「だ、大丈夫です! 冷やせば!」

オルキデアを見上げて微笑むアリーシャに口元を緩ませると、もう一度、強く抱きしめたのだった。
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