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ティシュトリア・ラナンキュラス・2
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「家族?」
「はい。妙齢の女性でして、貴族の様な身なりをされていますが……」
「……名前は聞いたか?」
かつて、オルキデアが一夜の関係を持った女性が家族を偽っているだけならまだいい。
けれどもそれ以外で、オルキデアの家族を名乗る女性など、一人しかいない。
「ティシュトリア・ラナンキュラスと名乗っておりました」
「やはりな」
オルキデアは大きく溜め息を吐いた。
一番、会いたくない人物だった。
(だが、会わない訳にもいかないか)
いつまでも、避け続ける訳にはいかない。
既に仕事場である軍部と滅多に帰らない屋敷に出没しているのだ。次は戦場にまで来かねない。
「わかった。案内してくれ」
返事をして出て行く部下を見送ると、オルキデアは報告書のデータを閉じる。
今日はもう続きは書けないだろう。本当は早く提出しなければならないが……。
(今夜はやけ酒だな)
買い込んでいた酒が残っていればいいが、と考え込んでいると扉が開いた。
「オーキッド!」
入って来たのは、書類が沢山入った分厚い封筒を胸に抱えた妙齢の女性だった。
アリーシャやセシリアと同じような服装と髪型、化粧をしているが、実年齢を知っているオルキデアからすれば、未だに若々しく振る舞おうとする姿にげんなりする。
「しばらく振りね。元気にしてたかしら? 背もすっかり伸びて、髪までこんなに……」
オルキデアを愛称で呼び、オルキデアと同じダークブラウン色の髪を持つ女性ーーティシュトリアは、オルキデアに近づくと強く抱きしめてくる。
「最後に会った時からあまり背は伸びていません。髪は、最近まで戦場にいたので、まだ切っていないだけです」
肩にギリギリ付くかどうかの長さまで伸びたオルキデアの髪に触れてくるティシュトリアを、ようやく引き離す。
「それで、今更何の用事ですか? 父の葬儀にも出なかったのに」
「あれは……代わりに遣いをやったわ」
「遣いの者は来ましたが、俺は貴方に来て頂きたかったんです。母上」
ティシュトリアはーーオルキデアの母は、黒曜石の様な黒い瞳を細める。
「そう? それはごめんなさいね。忙しくて、行けなかったのよ」
「忙しいのは、男関係でしょう。何人もの男と関係を持って、飽きたら捨てて。金遣いも荒く、勝手にラナンキュラスの名前を使ってまで、男たちの借金を肩代わりして……」
「それはそれよ。噂で聞いたわ。オーキッドだって女関係が激しいって。なあに? 一夜だけ抱いて、あとは捨ててるって?」
「あれは、相手から抱かれに来ているのであって、俺から抱いたことはありません」
ーーそれどこれか、招待されたパーティーの泊まり先の部屋やベッドに勝手に入り込まれて困っているというのに。
そこまで言おうか迷ったが、ティシュトリアの思惑通りになる気がして、ぐっと言葉を飲み込む。
「その話だけなら、お引き取り頂けますか。何しろ、最近まで戦場にいたので、書類仕事が溜まっていて」
手で払う仕草を見せると、ティシュトリアは「まあ、酷い」と悲しんだ。ーーどうせ、振りだろうが。
「今日はね。オーキッドに話があって来たのよ」
「話、ですか?」
「ええ。母はね、愛する息子の為に見つけてきたのよ」
抱えていた分厚い封筒を差し出しながら、ティシュトリアは笑みを深める。
「貴方の結婚相手よ」
封筒を見つめたオルキデアの顔が、大きく引き攣ったのだった。
「はい。妙齢の女性でして、貴族の様な身なりをされていますが……」
「……名前は聞いたか?」
かつて、オルキデアが一夜の関係を持った女性が家族を偽っているだけならまだいい。
けれどもそれ以外で、オルキデアの家族を名乗る女性など、一人しかいない。
「ティシュトリア・ラナンキュラスと名乗っておりました」
「やはりな」
オルキデアは大きく溜め息を吐いた。
一番、会いたくない人物だった。
(だが、会わない訳にもいかないか)
いつまでも、避け続ける訳にはいかない。
既に仕事場である軍部と滅多に帰らない屋敷に出没しているのだ。次は戦場にまで来かねない。
「わかった。案内してくれ」
返事をして出て行く部下を見送ると、オルキデアは報告書のデータを閉じる。
今日はもう続きは書けないだろう。本当は早く提出しなければならないが……。
(今夜はやけ酒だな)
買い込んでいた酒が残っていればいいが、と考え込んでいると扉が開いた。
「オーキッド!」
入って来たのは、書類が沢山入った分厚い封筒を胸に抱えた妙齢の女性だった。
アリーシャやセシリアと同じような服装と髪型、化粧をしているが、実年齢を知っているオルキデアからすれば、未だに若々しく振る舞おうとする姿にげんなりする。
「しばらく振りね。元気にしてたかしら? 背もすっかり伸びて、髪までこんなに……」
オルキデアを愛称で呼び、オルキデアと同じダークブラウン色の髪を持つ女性ーーティシュトリアは、オルキデアに近づくと強く抱きしめてくる。
「最後に会った時からあまり背は伸びていません。髪は、最近まで戦場にいたので、まだ切っていないだけです」
肩にギリギリ付くかどうかの長さまで伸びたオルキデアの髪に触れてくるティシュトリアを、ようやく引き離す。
「それで、今更何の用事ですか? 父の葬儀にも出なかったのに」
「あれは……代わりに遣いをやったわ」
「遣いの者は来ましたが、俺は貴方に来て頂きたかったんです。母上」
ティシュトリアはーーオルキデアの母は、黒曜石の様な黒い瞳を細める。
「そう? それはごめんなさいね。忙しくて、行けなかったのよ」
「忙しいのは、男関係でしょう。何人もの男と関係を持って、飽きたら捨てて。金遣いも荒く、勝手にラナンキュラスの名前を使ってまで、男たちの借金を肩代わりして……」
「それはそれよ。噂で聞いたわ。オーキッドだって女関係が激しいって。なあに? 一夜だけ抱いて、あとは捨ててるって?」
「あれは、相手から抱かれに来ているのであって、俺から抱いたことはありません」
ーーそれどこれか、招待されたパーティーの泊まり先の部屋やベッドに勝手に入り込まれて困っているというのに。
そこまで言おうか迷ったが、ティシュトリアの思惑通りになる気がして、ぐっと言葉を飲み込む。
「その話だけなら、お引き取り頂けますか。何しろ、最近まで戦場にいたので、書類仕事が溜まっていて」
手で払う仕草を見せると、ティシュトリアは「まあ、酷い」と悲しんだ。ーーどうせ、振りだろうが。
「今日はね。オーキッドに話があって来たのよ」
「話、ですか?」
「ええ。母はね、愛する息子の為に見つけてきたのよ」
抱えていた分厚い封筒を差し出しながら、ティシュトリアは笑みを深める。
「貴方の結婚相手よ」
封筒を見つめたオルキデアの顔が、大きく引き攣ったのだった。
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