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ティシュトリア・ラナンキュラス・3
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話を聞かずに追い返す訳にもいかず、とりあえず、ティシュトリアをソファーに案内すると、その向かいにオルキデアも腰を下ろす。
スカートが皺にならない様に、ティシュトリアは一度座り直すと、封筒を開けてテーブルの上に資料を広げたのだった。
「私が懇意にしているランタナ伯爵のお孫さんよ。名前はティファさん。歳は二十二」
オルキデアが目を通したクリップ留めの資料には、ランタナ伯爵の領地や資産、取り組んでいる事業について数枚に渡って書かれていた。別紙のランタナ伯爵家の系図には、アリーシャと同い年くらいの女性の写真が添付されていた。ウェーブがかかったブラウン色の髪に小麦色の肌の女性は、どこかの牧草地と思しき場所を背景に微笑みを浮かべて写っていたのだった。
おそらく、この女性がティファという名前のランタナ伯爵の孫娘なのだろう。
「どう? オーキッドにピッタリだと思うのだけど……」
期待する様な眼差しを向けてくるティシュトリアに、オルキデアは溜め息と共に資料をテーブルに戻す。
「母上。目的は何ですか? 金ですか? ランタナ伯爵の財産ですか?」
「どうして、そんなことを言うの……?」
取り出したハンカチで目元を押さえ、悲しそうな振りをする母親を、オルキデアは鼻で笑う。
「これまで、貴女はあちこちの男と関係を持っていたでしょう。まるで寄生虫の様に。……生まれたばかりの俺を父上に押しつけてまで」
オルキデアの母親であるティシュトリアは、十八歳の時、オルキデアの父であるエラフ・アルバ・ラナンキュラスに嫁いだ。
ティシュトリアの生家は伯爵家だったが、父親同士が懇意の中だったこともあり、ティシュトリア自身は全く面識が無かった貴族とは名ばかりのラナンキュラス家に嫁ぐことになったらしい。
一方のオルキデアの父親であるエラフは、三十歳になったばかりであり、亡くなった両親からラナンキュラス家を継いでいたが、二十代後半になるまで仕事一筋であった。
ようやく結婚や跡継ぎについて考えるようになった頃には、周りにいた歳の近い女性たちはほぼ全員嫁いでおり、それ以外で残っていたのは、亡くなったエラフの父が懇意にしていた伯爵家の娘であり、エラフよりひと回り以上も歳下のティシュトリアだけだった。
ティシュトリアの父親から許しを得て、ようやくティシュトリアを嫁に迎えたエラフだったが、夫婦としての関係より、仕事を優先する日々が続いてしまった。
その頃にはエラフは文官として仕事が順風満帆だったこともあり、仕事を蔑ろにする訳にはいかなかった。
結果として、エラフの生活は結婚前と同じ仕事中心となり、せっかく娶ったティシュトリアに時間を割けない日々が続いたのだった。
そのティシュトリアも伯爵家で使用人やメイドに傅かれて育った伯爵令嬢のこともあり、ほぼ平民と同じような生活を送るラナンキュラス家は耐えられなかったのだろう。
エラフと歳が離れているというのもあったのかもしれない。
新しい環境にも慣れず、歳の離れた夫にも会えない日々が続いたティシュトリアは、やがて他の男に興味を持ち、関係を持つようになった。
ようやく仕事が落ち着いて、エラフがティシュトリアと向き合った時には、既にティシュトリアは他の男と関係を持っていた。
それを知りつつも、エラフはティシュトリアを咎める事もなく、妻として愛し続けた。
やがて、ティシュトリアはエラフとの間に子を身篭った。オルキデアが間違いなく二人の子供であることは、幼少期に病院で受けた健康診断の結果に出ていたらしい。
子供が産まれれば男遊びは落ち着くかと、エラフを含めて周囲は思っていたが、実際は何も変わらなかった。
ティシュトリアは男子を出産すると、その男子をエラフに押しつけて、男遊びを再開した。
始めは貴族を中心に関係を持っていたティシュトリアだったが、やがて身分や年齢を問わず関係を持つようになった。
貴族、軍人、政治家、商人、船乗り、平民の劇団員、劇作家、下町の店主、年齢もティシュトリアより歳下から、実父よりも歳上の者まで。
果ては、シュタルクヘルトからペルフェクト側に寝返った男たちとも関係を持った。
男遊びが過激になったティシュトリアを、エラフは「仕事ばかりで、相手をしなかった自分が悪い」と言って、我慢し続けたらしい。
そんなエラフは、ティシュトリアに押し付けられた自分たちの息子に「オルキデア」と名付けると、近所に住む同じく名ばかりの貴族であるコーンウォール家や、先代の頃から屋敷に仕える者たちの手を借りて、どうにかオルキデアを育て上げた。
けれども、その間もティシュトリアの男遊びは過激になり、やがて屋敷の財産を食い尽くす様になったのだった。
スカートが皺にならない様に、ティシュトリアは一度座り直すと、封筒を開けてテーブルの上に資料を広げたのだった。
「私が懇意にしているランタナ伯爵のお孫さんよ。名前はティファさん。歳は二十二」
オルキデアが目を通したクリップ留めの資料には、ランタナ伯爵の領地や資産、取り組んでいる事業について数枚に渡って書かれていた。別紙のランタナ伯爵家の系図には、アリーシャと同い年くらいの女性の写真が添付されていた。ウェーブがかかったブラウン色の髪に小麦色の肌の女性は、どこかの牧草地と思しき場所を背景に微笑みを浮かべて写っていたのだった。
おそらく、この女性がティファという名前のランタナ伯爵の孫娘なのだろう。
「どう? オーキッドにピッタリだと思うのだけど……」
期待する様な眼差しを向けてくるティシュトリアに、オルキデアは溜め息と共に資料をテーブルに戻す。
「母上。目的は何ですか? 金ですか? ランタナ伯爵の財産ですか?」
「どうして、そんなことを言うの……?」
取り出したハンカチで目元を押さえ、悲しそうな振りをする母親を、オルキデアは鼻で笑う。
「これまで、貴女はあちこちの男と関係を持っていたでしょう。まるで寄生虫の様に。……生まれたばかりの俺を父上に押しつけてまで」
オルキデアの母親であるティシュトリアは、十八歳の時、オルキデアの父であるエラフ・アルバ・ラナンキュラスに嫁いだ。
ティシュトリアの生家は伯爵家だったが、父親同士が懇意の中だったこともあり、ティシュトリア自身は全く面識が無かった貴族とは名ばかりのラナンキュラス家に嫁ぐことになったらしい。
一方のオルキデアの父親であるエラフは、三十歳になったばかりであり、亡くなった両親からラナンキュラス家を継いでいたが、二十代後半になるまで仕事一筋であった。
ようやく結婚や跡継ぎについて考えるようになった頃には、周りにいた歳の近い女性たちはほぼ全員嫁いでおり、それ以外で残っていたのは、亡くなったエラフの父が懇意にしていた伯爵家の娘であり、エラフよりひと回り以上も歳下のティシュトリアだけだった。
ティシュトリアの父親から許しを得て、ようやくティシュトリアを嫁に迎えたエラフだったが、夫婦としての関係より、仕事を優先する日々が続いてしまった。
その頃にはエラフは文官として仕事が順風満帆だったこともあり、仕事を蔑ろにする訳にはいかなかった。
結果として、エラフの生活は結婚前と同じ仕事中心となり、せっかく娶ったティシュトリアに時間を割けない日々が続いたのだった。
そのティシュトリアも伯爵家で使用人やメイドに傅かれて育った伯爵令嬢のこともあり、ほぼ平民と同じような生活を送るラナンキュラス家は耐えられなかったのだろう。
エラフと歳が離れているというのもあったのかもしれない。
新しい環境にも慣れず、歳の離れた夫にも会えない日々が続いたティシュトリアは、やがて他の男に興味を持ち、関係を持つようになった。
ようやく仕事が落ち着いて、エラフがティシュトリアと向き合った時には、既にティシュトリアは他の男と関係を持っていた。
それを知りつつも、エラフはティシュトリアを咎める事もなく、妻として愛し続けた。
やがて、ティシュトリアはエラフとの間に子を身篭った。オルキデアが間違いなく二人の子供であることは、幼少期に病院で受けた健康診断の結果に出ていたらしい。
子供が産まれれば男遊びは落ち着くかと、エラフを含めて周囲は思っていたが、実際は何も変わらなかった。
ティシュトリアは男子を出産すると、その男子をエラフに押しつけて、男遊びを再開した。
始めは貴族を中心に関係を持っていたティシュトリアだったが、やがて身分や年齢を問わず関係を持つようになった。
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果ては、シュタルクヘルトからペルフェクト側に寝返った男たちとも関係を持った。
男遊びが過激になったティシュトリアを、エラフは「仕事ばかりで、相手をしなかった自分が悪い」と言って、我慢し続けたらしい。
そんなエラフは、ティシュトリアに押し付けられた自分たちの息子に「オルキデア」と名付けると、近所に住む同じく名ばかりの貴族であるコーンウォール家や、先代の頃から屋敷に仕える者たちの手を借りて、どうにかオルキデアを育て上げた。
けれども、その間もティシュトリアの男遊びは過激になり、やがて屋敷の財産を食い尽くす様になったのだった。
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