77 / 357
移送作戦【準備】・2
しおりを挟む
「ただ、心配なだけだ。猛禽な男どもに食われやしないかと」
「猛禽って……お前な」
「事実だ。俺が手出しをしないと思っているのか、寛いでさえいるくらいだからな。他の男の前でも同じことをやっているのかと思うと心配にもなるさ」
そもそも敵国の男であり、結婚するまでは他人であったオルキデアと同じ部屋に住み続けていて、ああも落ち着いていられるものなのか。
普通なら身の安全を心配してしかるべきだろう。未婚の女性なら特に。
それなのに未だにオルキデアと扉一つ隔てた先で寝起きして、さらに寛いでさえいる。
酔ったオルキデアが抱きしめてしまっても、朝まで一緒に寝るくらいだ。
オルキデアが何も手出しをしないと思っているのか、自分が持つ女性としての魅力にアリーシャ自身が気づいていないのか、そもそもそういった防犯意識に欠けているのか。果たしてどれなのだろう。
「お前さんを信用しているから、寛いでいるんじゃないのか?」
「どうだかな。まあ、契約結婚とはいえ最低限の務めは果たすさ。……アリーシャの夫としてな」
契約婚を解消する時まで、アリーシャの身の安全と生活、そして貞操ーー処女を守る。
オルキデアの事情に付き合ってもらう以上、それくらいはやるつもりだ。
そうしなければ、今後アリーシャと真に結婚する相手に失礼だろう。オルキデアなりに操を立てるつもりであった。
「そうか……。ああ、頼まれものを持って来たぞ。全く人使いが荒い」
「ああ、助かる。お礼に今度一杯奢ろう」
書類が入った封筒二通を預かるとその場で開封する。
一通は白紙の婚姻届だった。
これにオルキデアとアリーシャのサインを書いて国に提出する。国に受理されれば、二人は正式に夫婦となる。
もう一通はアリーシャのこの国での偽の経歴書だった。
これはアリーシャに渡して、覚えて貰わねばならない。
「セシリアとコーンウォール家は何と?」
「普段から世話になっているから、これくらいは構わないってさ」
クシャースラの妻であるセシリアと、セシリアの両親であるコーンウォール家のご夫婦には、クシャースラを通じてアリーシャの偽の経歴書作りに協力してもらった。
今後、アリーシャは元王族であるシュタルクヘルト家の血を引くシュタルクヘルト人ではなく、古くから北部地域に住んでいた原住民の血を引くペルフェクト人であり、セシリアの実家であるコーンウォール家の遠縁の親戚となる。
アリーシャを北部地域の原住民にしたのは、彼女の髪色に理由がある。
おそらくアリーシャの母親は、ペルフェクトの北部ーー現在の戦争の最前線である地域の出身だろう。
アリーシャの藤色の髪は古くからペルフェクトの北部地域に住む原住民に多い色だ。北部が戦場となった際に原住民は国内外に避難して散り散りとなってしまったので、北部地域にはもうほとんど残っていない。王都でもたまに見かけるがそれでもほんの少数だった。
それ以外のペルフェクト人の大半はオルキデアのダークブラウンの様に、黒や茶などの色素が濃い者ばかりであった。そういう者はシュタルクヘルト人を始めとする異国人の血を引く者に多い。次いで多いのはクシャースラたちの様な金髪系だが、こっちはペルフェクトの南部地域を中心に多い色だった。
それを利用して、アリーシャを北部地域に住んでいたコーンウォール家の遠縁の親戚という事にする。
戦争に巻き込まれて両親が亡くなり、その後、コーンウォール家を頼って王都にやって来る。
コーンウォール家に住んでいたところ、クシャースラを通じてオルキデアと知り合い、結婚したという事にする。
コーンウォール家はラナンキュラス家と同じで、今は名ばかりになってしまったが貴族のひとりである。
その遠縁となれば、母のティシュトリアも貴族の血を引く者として考えるだろう。
両家は国の建国に関わっておらず、国に貢献するような功績も挙げていないので、国から記章は与えられていないが、どちらも古くからある家柄だ。
コーンウォール家も借金や浪費が原因で、名ばかりの貴族となってしまったが、昔はそれなりの貴族だったと聞く。
ラナンキュラス家とは父の代から深い関係があり、ティシュトリアも無下には出来ないだろう。
「猛禽って……お前な」
「事実だ。俺が手出しをしないと思っているのか、寛いでさえいるくらいだからな。他の男の前でも同じことをやっているのかと思うと心配にもなるさ」
そもそも敵国の男であり、結婚するまでは他人であったオルキデアと同じ部屋に住み続けていて、ああも落ち着いていられるものなのか。
普通なら身の安全を心配してしかるべきだろう。未婚の女性なら特に。
それなのに未だにオルキデアと扉一つ隔てた先で寝起きして、さらに寛いでさえいる。
酔ったオルキデアが抱きしめてしまっても、朝まで一緒に寝るくらいだ。
オルキデアが何も手出しをしないと思っているのか、自分が持つ女性としての魅力にアリーシャ自身が気づいていないのか、そもそもそういった防犯意識に欠けているのか。果たしてどれなのだろう。
「お前さんを信用しているから、寛いでいるんじゃないのか?」
「どうだかな。まあ、契約結婚とはいえ最低限の務めは果たすさ。……アリーシャの夫としてな」
契約婚を解消する時まで、アリーシャの身の安全と生活、そして貞操ーー処女を守る。
オルキデアの事情に付き合ってもらう以上、それくらいはやるつもりだ。
そうしなければ、今後アリーシャと真に結婚する相手に失礼だろう。オルキデアなりに操を立てるつもりであった。
「そうか……。ああ、頼まれものを持って来たぞ。全く人使いが荒い」
「ああ、助かる。お礼に今度一杯奢ろう」
書類が入った封筒二通を預かるとその場で開封する。
一通は白紙の婚姻届だった。
これにオルキデアとアリーシャのサインを書いて国に提出する。国に受理されれば、二人は正式に夫婦となる。
もう一通はアリーシャのこの国での偽の経歴書だった。
これはアリーシャに渡して、覚えて貰わねばならない。
「セシリアとコーンウォール家は何と?」
「普段から世話になっているから、これくらいは構わないってさ」
クシャースラの妻であるセシリアと、セシリアの両親であるコーンウォール家のご夫婦には、クシャースラを通じてアリーシャの偽の経歴書作りに協力してもらった。
今後、アリーシャは元王族であるシュタルクヘルト家の血を引くシュタルクヘルト人ではなく、古くから北部地域に住んでいた原住民の血を引くペルフェクト人であり、セシリアの実家であるコーンウォール家の遠縁の親戚となる。
アリーシャを北部地域の原住民にしたのは、彼女の髪色に理由がある。
おそらくアリーシャの母親は、ペルフェクトの北部ーー現在の戦争の最前線である地域の出身だろう。
アリーシャの藤色の髪は古くからペルフェクトの北部地域に住む原住民に多い色だ。北部が戦場となった際に原住民は国内外に避難して散り散りとなってしまったので、北部地域にはもうほとんど残っていない。王都でもたまに見かけるがそれでもほんの少数だった。
それ以外のペルフェクト人の大半はオルキデアのダークブラウンの様に、黒や茶などの色素が濃い者ばかりであった。そういう者はシュタルクヘルト人を始めとする異国人の血を引く者に多い。次いで多いのはクシャースラたちの様な金髪系だが、こっちはペルフェクトの南部地域を中心に多い色だった。
それを利用して、アリーシャを北部地域に住んでいたコーンウォール家の遠縁の親戚という事にする。
戦争に巻き込まれて両親が亡くなり、その後、コーンウォール家を頼って王都にやって来る。
コーンウォール家に住んでいたところ、クシャースラを通じてオルキデアと知り合い、結婚したという事にする。
コーンウォール家はラナンキュラス家と同じで、今は名ばかりになってしまったが貴族のひとりである。
その遠縁となれば、母のティシュトリアも貴族の血を引く者として考えるだろう。
両家は国の建国に関わっておらず、国に貢献するような功績も挙げていないので、国から記章は与えられていないが、どちらも古くからある家柄だ。
コーンウォール家も借金や浪費が原因で、名ばかりの貴族となってしまったが、昔はそれなりの貴族だったと聞く。
ラナンキュラス家とは父の代から深い関係があり、ティシュトリアも無下には出来ないだろう。
2
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる