84 / 357
アリーシャ【下】・4
しおりを挟む
オルキデアは父への負担を減らす為に、クシャースラは両親との約束の為にも、士官学校の学費を返還してもらう必要があった。
その為にも、二人は軍で功績を上げねばならなかった。
功績を上げ続けると、自ずと昇進することになる。
いずれは将官になることを考えると、シュタルクヘルト語とハルモニア語の習得は、決して避けては通れない道であった。
将官への昇進に備えて、二人は必死に語学を勉強したのだった。
「語学を習得出来たのは、アリーシャの努力の賜物だ。それは誇っていい」
「あ、ありがとうございます……」
頬を染めるアリーシャに「だからこそ」と、オルキデアは目を細める。
「学校に通っていなかったとは思っていなかった。こっちも聞かなかったのが悪いとは思うが」
そもそもシュタルクヘルトの教育水準の高さを知っていたからこそ、アリーシャも当たり前の様に学校に通っている者だと思っていたのだ。
オルキデアの言葉にアリーシャは眦を下げる。
「黙っていてすみません。言い出す機会を逃してしまって……」
アリーシャは膝の上で手を握り締めると、「それに」と話し出す。
「呆れさせたく無かったんです。ようやく、居場所が出来たのに……。一時的とはいえ、安心できる場所が出来たんです。それを失いたく無かったんです」
シュタルクヘルト家に引き取られたアリーシャが、どんな扱いをされてきたのか、オルキデアはアリーシャの話から想像するしかない。
ただ、あまり良い扱いはされなかったのだろう。
記憶を失っている間も、薬を盛られ、争いの火種なるからと、国境沿いの基地から王都までやって来ることになった。
安心出来る場所が、ずっと欲しかったに違いない。
(それなら、少しくらいーー)
オルキデアの前で寛いでも、多目に見たくもなる。
ずっと張り詰めていたら、心が限界を迎えてしまう。限界を迎えてしまえば、心が壊れてしまう。
壊れた心が治る保障はーーどこにも無い。
「すまなかった。君の気持ちも知らないで」
「いえ、そんなことは!」
「これからはもっと頼って欲しい。一時的な契約結婚とはいえ、今は夫なんだ。もっと自分の気持ちを話して欲しい」
アリーシャについて、オルキデアはまだまだ何も知らない。
一時的とはいえ、これから夫婦として暮らしていく以上、相手についてもっと知るべきだろう。
「俺では頼りないかもしれないが、出来る限り力になろう。だからもう少し、君も俺を頼ってくれないか」
オルキデアの言葉に、アリーシャは首を大きく振る。
「そんなことはありません! オルキデア様のことは、ずっと頼りにしています! でも、あまり我が儘を言うのも、どうかと思っていただけで……」
「何度も言っているが、遠慮することは無い。君はもっと我が儘を言うべきだ」
「でも!」
オルキデアは目元を細める。
「ここに居る時くらいは、もっと自分の意見を言っていい。それくらい受け止めるさ」
母のティシュトリアを見てきたからか、近寄ってくる女を見てきたからか、女とはもっと我が儘だと思っていた。
けれども、アリーシャは控え目で、契約とはいえ結婚しても、自分の意見を滅多に言わなかった。
シュタルクヘルトの女は誰もがこうなのか、それともアリーシャだけがこうなのだろうか。
その為にも、二人は軍で功績を上げねばならなかった。
功績を上げ続けると、自ずと昇進することになる。
いずれは将官になることを考えると、シュタルクヘルト語とハルモニア語の習得は、決して避けては通れない道であった。
将官への昇進に備えて、二人は必死に語学を勉強したのだった。
「語学を習得出来たのは、アリーシャの努力の賜物だ。それは誇っていい」
「あ、ありがとうございます……」
頬を染めるアリーシャに「だからこそ」と、オルキデアは目を細める。
「学校に通っていなかったとは思っていなかった。こっちも聞かなかったのが悪いとは思うが」
そもそもシュタルクヘルトの教育水準の高さを知っていたからこそ、アリーシャも当たり前の様に学校に通っている者だと思っていたのだ。
オルキデアの言葉にアリーシャは眦を下げる。
「黙っていてすみません。言い出す機会を逃してしまって……」
アリーシャは膝の上で手を握り締めると、「それに」と話し出す。
「呆れさせたく無かったんです。ようやく、居場所が出来たのに……。一時的とはいえ、安心できる場所が出来たんです。それを失いたく無かったんです」
シュタルクヘルト家に引き取られたアリーシャが、どんな扱いをされてきたのか、オルキデアはアリーシャの話から想像するしかない。
ただ、あまり良い扱いはされなかったのだろう。
記憶を失っている間も、薬を盛られ、争いの火種なるからと、国境沿いの基地から王都までやって来ることになった。
安心出来る場所が、ずっと欲しかったに違いない。
(それなら、少しくらいーー)
オルキデアの前で寛いでも、多目に見たくもなる。
ずっと張り詰めていたら、心が限界を迎えてしまう。限界を迎えてしまえば、心が壊れてしまう。
壊れた心が治る保障はーーどこにも無い。
「すまなかった。君の気持ちも知らないで」
「いえ、そんなことは!」
「これからはもっと頼って欲しい。一時的な契約結婚とはいえ、今は夫なんだ。もっと自分の気持ちを話して欲しい」
アリーシャについて、オルキデアはまだまだ何も知らない。
一時的とはいえ、これから夫婦として暮らしていく以上、相手についてもっと知るべきだろう。
「俺では頼りないかもしれないが、出来る限り力になろう。だからもう少し、君も俺を頼ってくれないか」
オルキデアの言葉に、アリーシャは首を大きく振る。
「そんなことはありません! オルキデア様のことは、ずっと頼りにしています! でも、あまり我が儘を言うのも、どうかと思っていただけで……」
「何度も言っているが、遠慮することは無い。君はもっと我が儘を言うべきだ」
「でも!」
オルキデアは目元を細める。
「ここに居る時くらいは、もっと自分の意見を言っていい。それくらい受け止めるさ」
母のティシュトリアを見てきたからか、近寄ってくる女を見てきたからか、女とはもっと我が儘だと思っていた。
けれども、アリーシャは控え目で、契約とはいえ結婚しても、自分の意見を滅多に言わなかった。
シュタルクヘルトの女は誰もがこうなのか、それともアリーシャだけがこうなのだろうか。
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる