アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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移送作戦【当日・上】・7

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母のティシュトリアが、どこからオルキデアが民間人ーーアリーシャを保護しているという話を聞きつけたのかはわからないが、オルキデアがアリーシャについて話をしたのは、クシャースラたちを除けばプロキオンだけであった。

襲撃作戦に同行したアルフェラッツと、オルキデアたちが不在の間、留守を任せており、執務室にもう一人住めるように手配を頼んでいたラカイユは、アリーシャの正体を知っている。人目を忍んでオルキデアからも話したからであった。

アリーシャを発見した捜索隊や襲撃作戦に参加した他の部下たちは、王都に来たアリーシャが、その後どうなったかは知らないはずであった。
もし、ティシュトリアが知ったとなれば、部下たちから話しが出たとしか思えないがーー。

「別行動なんですね……」
「ああ。本当は俺が連れ出したかったが、俺では怪しまれる。それを回避する為に呼んだのがクシャースラとセシリアだ」

肩を落としていたアリーシャだったが、オルキデアの言葉で二人に視線を向ける。

「二人なら信用出来る。必ず、君を安全に移送させられる」

アリーシャを軍部で働く下働きと通して、オルキデアが外に連れ出すことも考えたが、やはり問い詰められた際にアリーシャが下働きの者だと証明出来る物が無かった。
偽造しても軍部で調べられたら、すぐにバレてしまうだろう。
更にはオルキデアが監視している「記憶障害の民間人」も、そろそろ病院に移送させなければならない。
長期間手元に置いていたらプロキオンだけではなく、この話を聞きつけた他の兵にも関係を訝しまれ、加えて上層部にまで怪しまれたら面倒だった。
それを両方解決する方法として協力を依頼したのが、クシャースラとセシリアだった。

当初の計画では、アリーシャを「記憶障害の民間人」として軍部の外に出し、そのまま病院に行くと見せかけて、他の場所に移送させるつもりだった。
しかしアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトの写真が新聞に掲載され、顔が広まってしまった以上、「記憶障害の民間人」とアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトを結びつける者が出てくる。

襲撃作戦に参加していたオルキデアの執務室を、ここ数日間藤色の髪の女性が頻繁に出入りしているのも一部の兵に知られているだろう。アリサが藤色の髪の持ち主なのも、シュタルクヘルトの新聞に載っていた写真で分かる。
襲撃作戦の時に保護した「記憶障害の民間人」を病院に送らずに、発見したオルキデア自身が手元で監視していること、更に襲撃作戦から帰還したオルキデアの執務室を藤色の髪の女性が急に出入りする様になったのも合わせれば、この二人が同じ人物であると考える者は多い。
そしてアリサの藤色の髪から、オルキデアの執務室を出入りする藤色の髪の女性がアリサだと想像するのも容易い。
「記憶障害の民間人」と執務室を出入りする藤色の髪の女性、そしてアリサ・リリーベル・シュタルクヘルト。全て一本の線で結べてしまう。
そうなれば、「記憶障害の民間人」をーーアリサを部屋に置いていると、上層部に知られてしまうのも時間の問題だった。

そこでオルキデアたちが考えたのは、アリーシャを実在する別の女性として連れ出す作戦だった。
アリーシャを別の女性として連れ出し、その女性にはアリーシャのーー「記憶障害の民間人」になってもらう。
一方、アリーシャは付き添いの兵によって、移送先に連れて行ってもらう。
アリーシャの振りをしてもらった女性には、アリーシャが入院することになっている病院ーー今回の作戦に協力してもらった。に行ってもらい、そこで着替えた後、そのまま出て来てもらうつもりだった。

アリーシャの振りをしてもらう女性の条件は二つ。
一つはシュタルクヘルト人の振りをしてもらう以上、シュタルクヘルト語が話せること。
なるべく、しゃべらせないように連れ出すが、もし話しかけられた時に備えて、シュタルクヘルト語を話せる状態にしておかねばならない。

そして、軍部に出入り出来る者ーー兵の家族か関係者であること。
付け加えると、アリーシャの正体やこの計画を公言しないと信頼出来る者でなければならなかった。
また、アリーシャを連れ出す際に、アリーシャを託す付き添いの兵も、アリーシャの正体や計画を公言しないと信頼出来る者でなければなかった。

この役割にうってつけだったのが、オルキデアの親友であるクシャースラであった。
クシャースラならアリーシャの正体や計画について漏洩しないだろう。
またアリーシャを連れ出す際に何かあっても、機転を利かせられる。
言い換えれば、クシャースラ以上の適任を思いつかなかった。
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