アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
94 / 357

移送作戦【当日・上】・8

しおりを挟む
そして一番の問題となるのは、アリーシャの振りをしてくれる女性だったが、これはセシリアにお願いすることにした。
アリーシャと背格好が似てるのに加えて、少しではあるが、セシリアもシュタルクヘルト語が話せるからであった。

セシリアの母親は、シュタルクヘルトからやって来た移民三世であった。
セシリア自身も母方の祖母からシュタルクヘルト語を習ったそうで、オルキデアやクシャースラほど流暢ではないが、多少は話せるとのことであった。

またセシリアなら軍部に所属するクシャースラの妻として、軍部への出入りが可能であった。
クシャースラが付き添えば、夫の付き添いとしてセシリアが軍部に入っても、他の兵から全く怪しまれないだろう。
オルキデアにとって幼少期から付き合いのあるセシリアを危険に晒すのは心苦しいが、時間が無かった。
セシリア本人も快く計画に快諾し、セシリアの夫であるクシャースラも承諾してくれたのであった。

セシリアにはこれからアリーシャの振りをしてオルキデアと共に軍部を出てもらい、実際に郊外の軍医病院に向かってもらう。
病院には馴染みの医者に頼んで、アリーシャ正体を伏せた状態で事情を説明している。
また計画の最後に使用するセシリアの着替えを預かってもらい、口裏合わせも依頼していた。

オルキデアはアリーシャの振りをしたセシリアに付き添って、セシリアを病院に送り届ける。
病院内で一度セシリアと別れた後、オルキデアは先に外に出て、病院を後にする。そして、離れた場所で待機する。
一方、セシリアは医者に預かってもらった別の服に着替え、見舞いを終えた見舞い客の振りをして、病院から出て来てもらう。
そして、「たまたま」会ったオルキデアの車に同乗して、王都に戻ることになっていた。

一方、アリーシャにはセシリアの振りをして、クシャースラと一緒に軍部から出てもらう。
軍部に入る時、セシリアにはわざと目立つ様に被っていた帽子を脱いでもらい、警備に顔を覚えさせた。
そうすれば、クシャースラと一緒に入った女性はセシリアだと警備に記憶される。
同じ服を着て、同じ帽子を被ったアリーシャに入れ替わっていても、クシャースラが一緒にいるだけで、連れているのがセシリアだと思われているのなら、軍部から出る時に顔が見えなくても確認をされないだろう。

アリーシャにはセシリアの振りをしたまま軍部の外に出てもらった後、尾行を警戒しつつ道を遠回りして移送先に向かってもらう。
オルキデアたちが戻るまで、クシャースラと共にそこで待機してもらうつもりだった。

「オルキデア。そろそろ」
「そうだな。先に俺とセシリアが外に出る。二人はしばらくしてからここを出てくれ」

アリーシャの移送先より郊外の病院の方が遠い。先にここを出なければ、今日中に王都に帰って来られない。
オルキデアの言葉にセシリアが頷いた。

「分かりました。オーキッド様」
「では、これを」

そうして、オルキデアは執務机の中に隠していた「ある物」が入ったカバンを取り出す。
受け取ったセシリアがカバンを開けると、先日オルキデアが移送先となる病院で借りて来た「ある物」ーー藤色の髪が出てきたのだった。

「セシリア、手伝うよ」
「まあ、ありがとうございます。クシャ様」

セシリアはクシャースラに手伝ってもらいながら、腰まである藤色のロングヘアーのウィッグを身につける。
元は怪我や病気が原因で髪を失った患者向けに作られたウィッグだけあって、見た目は地毛と全く同じであった。

「どうですか? オーキッド様、クシャ様」
「大丈夫だ」
「紫もよく似合うよ。セシリア」

セシリアは呆気に取られていたアリーシャに視線を向けると、「アリーシャさんは?」と優しく訊ねる。

「アリーシャさんに似ていますか?」
「あ……。はい、似ていると思います……」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...