97 / 357
移送作戦【当日・上】・11
しおりを挟む
(今はそんなことを考えている場合では無いな)
オルキデアは頭を振って、それを追い出すと先を歩く。このまま歩けば、もうすぐ北扉が見えてくるだろう。
既にオルキデアが保護している「記憶障害の民間人」を移送する許可は、プロキオンを通して軍部から得ている。
結局最後まで、アリーシャをオルキデアに任せたまま、プロキオンは一度も会いに来なかった。
信頼されていると思っていいのだろうか。
ただ単に、プロキオンが仕事で忙しかっただけという気もするが。
北扉の手前の警備の控え室から影になるところに、アルフェラッツが待機していた。
目が合ったオルキデアが頷くと、アルフェラッツはさっとセシリアの隣にやってくる。
一応、オルキデア以外の監視として、アルフェラッツを付けていると、警備に見せるつもりであった。
オルキデアが控え室前に立っている兵に近づいて行くと、オルキデアの姿に気づいた兵が素早く敬礼する。それにオルキデアは返礼すると、すぐに口を開く。
「申請していた民間人の捕虜を軍事病院に移送させる。書類は予め提出していた通りだ」
今日に備えて、オルキデアは予めアリーシャの移送を軍部に申請していた。
移送先の病院、移送方法、アリーシャの状態、病院での監視方法などーー全て関係者に依頼をして偽造してもらったが。を記した書類をプロキオンを通じて軍部に提出していた。怪しまれるところは何もないはずだった。
「ああ。今日だったな。休暇なのに大変だな……後ろの女性が例の?」
兵と共に後ろを振り返ると、アルフェラッツの隣でセシリアが俯いていた。
「そうだ」
「どこかで見たことがあるような気がするな」
ギクリとオルキデアは慌てそうになる。
息を吸ってお腹に力を入れると、「そうだろうか?」と何事も無い様に聞き返す。
「まあ、見間違いかもしれん。以前、当直明けの早朝に食堂に行ったら、同じ髪色の女性を見たからだろう」
「ああ……」とオルキデアは呟く。
その「以前」というのは、恐らくヤケ酒したオルキデアが、アリーシャに朝食を頼んだ日だろう。
アリーシャを朝早くに食堂に行かせたのは、その時だけだった。
「軍部では大勢の女性が働いているので、恐らくは」
「だろうな。そういえば、そっちもどこかで見た顔だったな。何で見たかな……テレビ? いや、新聞か?」
またもや、オルキデアの顔が引き攣る。
やはり、まだアリーシャことアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトの顔を覚えている者は少なからずいるようだ。
「そうだろうか……?」
「まあ、気のせいだろうがな」
そうして、兵はシュタルクヘルト語でセシリアに「お大事に」と言って、許可を出した。
案外、人の良い兵だったようだ。
セシリアは頭を下げると、アルフェラッツに連れられて先に出て行ったのだった。
「俺は移送が終わったら、そのまま休暇に入る。何かあれば部下たちに言付けを頼んでくれ」
それから、兵と二、三言葉を交わすとオルキデアも後を追って、北扉から外に出る。
北扉から離れると、そっと息を吐く。
(緊張したな)
肩に力が入っていた。柄にもなく緊張していたらしい。
初陣を除いて、戦場でさえここまで緊張したことはなかった。
(早くアリーシャの顔を見て、安心したいものだな)
何となく、アリーシャの笑顔を見れば、この緊張が解けるように感じた。
どうやらオルキデア自身も、アリーシャと離れて不安になっているらしい。
これでは、役目を果たしてアリーシャと別れた後ーー契約婚を解消した後が思いやられる。
北扉から離れたところに、二人が乗っている車を見つける。
既に先に外に出ていたアルフェラッツは運転席に座り、二人掛けの席を向かい合わせた後部座席には、セシリアが座っていたのだった。
オルキデアは車のドアを開けて後部座席に座ると、「待たせたな」と二人に声を掛ける。
「では、出発しようか」
それを合図に車のエンジンがかかって、ゆっくりと走り出す。
もう少ししたら、アリーシャたちも移動を開始するだろう。
(アリーシャ)
軍部を振り返ったオルキデアは、声に出さずにそっと名前を呼んだのだった。
オルキデアは頭を振って、それを追い出すと先を歩く。このまま歩けば、もうすぐ北扉が見えてくるだろう。
既にオルキデアが保護している「記憶障害の民間人」を移送する許可は、プロキオンを通して軍部から得ている。
結局最後まで、アリーシャをオルキデアに任せたまま、プロキオンは一度も会いに来なかった。
信頼されていると思っていいのだろうか。
ただ単に、プロキオンが仕事で忙しかっただけという気もするが。
北扉の手前の警備の控え室から影になるところに、アルフェラッツが待機していた。
目が合ったオルキデアが頷くと、アルフェラッツはさっとセシリアの隣にやってくる。
一応、オルキデア以外の監視として、アルフェラッツを付けていると、警備に見せるつもりであった。
オルキデアが控え室前に立っている兵に近づいて行くと、オルキデアの姿に気づいた兵が素早く敬礼する。それにオルキデアは返礼すると、すぐに口を開く。
「申請していた民間人の捕虜を軍事病院に移送させる。書類は予め提出していた通りだ」
今日に備えて、オルキデアは予めアリーシャの移送を軍部に申請していた。
移送先の病院、移送方法、アリーシャの状態、病院での監視方法などーー全て関係者に依頼をして偽造してもらったが。を記した書類をプロキオンを通じて軍部に提出していた。怪しまれるところは何もないはずだった。
「ああ。今日だったな。休暇なのに大変だな……後ろの女性が例の?」
兵と共に後ろを振り返ると、アルフェラッツの隣でセシリアが俯いていた。
「そうだ」
「どこかで見たことがあるような気がするな」
ギクリとオルキデアは慌てそうになる。
息を吸ってお腹に力を入れると、「そうだろうか?」と何事も無い様に聞き返す。
「まあ、見間違いかもしれん。以前、当直明けの早朝に食堂に行ったら、同じ髪色の女性を見たからだろう」
「ああ……」とオルキデアは呟く。
その「以前」というのは、恐らくヤケ酒したオルキデアが、アリーシャに朝食を頼んだ日だろう。
アリーシャを朝早くに食堂に行かせたのは、その時だけだった。
「軍部では大勢の女性が働いているので、恐らくは」
「だろうな。そういえば、そっちもどこかで見た顔だったな。何で見たかな……テレビ? いや、新聞か?」
またもや、オルキデアの顔が引き攣る。
やはり、まだアリーシャことアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトの顔を覚えている者は少なからずいるようだ。
「そうだろうか……?」
「まあ、気のせいだろうがな」
そうして、兵はシュタルクヘルト語でセシリアに「お大事に」と言って、許可を出した。
案外、人の良い兵だったようだ。
セシリアは頭を下げると、アルフェラッツに連れられて先に出て行ったのだった。
「俺は移送が終わったら、そのまま休暇に入る。何かあれば部下たちに言付けを頼んでくれ」
それから、兵と二、三言葉を交わすとオルキデアも後を追って、北扉から外に出る。
北扉から離れると、そっと息を吐く。
(緊張したな)
肩に力が入っていた。柄にもなく緊張していたらしい。
初陣を除いて、戦場でさえここまで緊張したことはなかった。
(早くアリーシャの顔を見て、安心したいものだな)
何となく、アリーシャの笑顔を見れば、この緊張が解けるように感じた。
どうやらオルキデア自身も、アリーシャと離れて不安になっているらしい。
これでは、役目を果たしてアリーシャと別れた後ーー契約婚を解消した後が思いやられる。
北扉から離れたところに、二人が乗っている車を見つける。
既に先に外に出ていたアルフェラッツは運転席に座り、二人掛けの席を向かい合わせた後部座席には、セシリアが座っていたのだった。
オルキデアは車のドアを開けて後部座席に座ると、「待たせたな」と二人に声を掛ける。
「では、出発しようか」
それを合図に車のエンジンがかかって、ゆっくりと走り出す。
もう少ししたら、アリーシャたちも移動を開始するだろう。
(アリーシャ)
軍部を振り返ったオルキデアは、声に出さずにそっと名前を呼んだのだった。
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる