98 / 357
おれから見た親友・1
しおりを挟む
オルキデアたちが出て行った後、執務室に残されたクシャースラは、同じく執務室に残された藤色の髪の女性に恐る恐る声を掛けた。
「……大丈夫ですか? アリーシャ嬢」
クシャースラが声を掛けても、未だに衝撃が収まらないのか、アリーシャは額を手で押さえたまま固まっていたのだった。
(よっぽど、刺激が強かったんだな)
アリーシャの気持ちも理解出来なくはないので、クシャースラはそっと提案する。
「とりあえず、座りませんか?」
こくこくと頷くアリーシャをソファーまで誘導しながら、クシャースラも考える。
(まさかあいつが人前でキスをするとはな……)
オルキデアとは十年近い付き合いになるが、親友があんなことをする姿は初めて見た。
一夜を共に過ごした女性や、オルキデアに一目惚れしたという女性を無下に扱っている姿なら何度も見たことがあった。
それでも特定の一人の女性ーーアリーシャに優しくして、まして額に口付ける姿を見たことは無かった。
オルキデアの女遊びと不眠の原因は、噂に聞いたオルキデアの母親にあるとクシャースラは考えている。
オルキデアが自身の過去や母親について教えてくれたのは、実はここ数年前のことーーそれも酒の勢いであった。
これまでのオルキデアは周囲との間に壁を作っていた。
たとえ相手が、クシャースラやセシリアといった知己であったとしても。
出会った頃からオルキデアは周囲との間に壁を作っていたが、父親が亡くなってからはその壁はますます大きくなった気がした。
やはり、母親や母親が原因で起こったラナンキュラス家の借金や父親の死、その後に起こったオルキデア自身にとっての災難は、彼の中で大きな傷となっていたのだろう。
(けれども、あいつは変わった)
目の前にいる可憐な女性ーーアリーシャが来てからは、オルキデアは柔らかくなった。
常に周囲を冷めた目で見ていたオルキデアだったが、アリーシャが来てからは前よりも穏やかな表情になり、笑みも浮かべるようになった。
オルキデアを冷たいと評していた他の兵たちも、以前よりも柔らかくなった、話しかけやすくなった、と口々に噂するようになった。
このまま、アリーシャには親友の側に居て欲しい。
一時的な仮妻ではなく、生涯を伴に過ごす伴侶としてずっとーー。
ソファーに座ってようやく息を吐いたアリーシャに近づくと、その傍らにクシャースラが立つ。
「何か飲み物を貰ってきましょうか?」
「いいえ。万が一、この洋服に溢してしまったら、セシリアさんに申し訳ないので……」
借り物のドレスが座って皺にならないように丁寧に扱う親友の仮妻に、クシャースラは苦笑する。
「そんなことで、妻は怒らないと思いますよ」
それにもしアリーシャの言う通り、ドレスが汚れてしまっても、クシャースラが新しいドレスを買えばいいだけだ。何もアリーシャが気にする必要はない。
そういう意味で言ったつもりだったが、「そうですか?」とアリーシャはややぎこちなく尋ねてきたのだった。
「そうですよ。それよりも大丈夫ですか? 珍しく、あいつがらしくないことをやったから……」
対面のソファーに座りながら、クシャースラは心配そうにアリーシャを見つめる。
菫色の瞳をほんのわずかに下げていたアリーシャだったが、クシャースラの言葉に顔ごと上げる。
「やっぱり、オルキデア様らしくないんですか?」
「そうですね……。あいつとの付き合いは長い方ですが内輪とはいえ、人前であんなことをやっている姿を初めて見ました。出会った頃のあいつはどこか……」
仮初めと聞いているとはいえ、親友の妻に胸の内を打ち明けていいものか、クシャースラは目を伏せるとしばし逡巡する。
やがて決意して顔を上げると、きょとんとした顔のアリーシャを見つめながら、優しく話し出したのだった。
「あいつはどこか……今にも消え入りなところがあったので」
「……大丈夫ですか? アリーシャ嬢」
クシャースラが声を掛けても、未だに衝撃が収まらないのか、アリーシャは額を手で押さえたまま固まっていたのだった。
(よっぽど、刺激が強かったんだな)
アリーシャの気持ちも理解出来なくはないので、クシャースラはそっと提案する。
「とりあえず、座りませんか?」
こくこくと頷くアリーシャをソファーまで誘導しながら、クシャースラも考える。
(まさかあいつが人前でキスをするとはな……)
オルキデアとは十年近い付き合いになるが、親友があんなことをする姿は初めて見た。
一夜を共に過ごした女性や、オルキデアに一目惚れしたという女性を無下に扱っている姿なら何度も見たことがあった。
それでも特定の一人の女性ーーアリーシャに優しくして、まして額に口付ける姿を見たことは無かった。
オルキデアの女遊びと不眠の原因は、噂に聞いたオルキデアの母親にあるとクシャースラは考えている。
オルキデアが自身の過去や母親について教えてくれたのは、実はここ数年前のことーーそれも酒の勢いであった。
これまでのオルキデアは周囲との間に壁を作っていた。
たとえ相手が、クシャースラやセシリアといった知己であったとしても。
出会った頃からオルキデアは周囲との間に壁を作っていたが、父親が亡くなってからはその壁はますます大きくなった気がした。
やはり、母親や母親が原因で起こったラナンキュラス家の借金や父親の死、その後に起こったオルキデア自身にとっての災難は、彼の中で大きな傷となっていたのだろう。
(けれども、あいつは変わった)
目の前にいる可憐な女性ーーアリーシャが来てからは、オルキデアは柔らかくなった。
常に周囲を冷めた目で見ていたオルキデアだったが、アリーシャが来てからは前よりも穏やかな表情になり、笑みも浮かべるようになった。
オルキデアを冷たいと評していた他の兵たちも、以前よりも柔らかくなった、話しかけやすくなった、と口々に噂するようになった。
このまま、アリーシャには親友の側に居て欲しい。
一時的な仮妻ではなく、生涯を伴に過ごす伴侶としてずっとーー。
ソファーに座ってようやく息を吐いたアリーシャに近づくと、その傍らにクシャースラが立つ。
「何か飲み物を貰ってきましょうか?」
「いいえ。万が一、この洋服に溢してしまったら、セシリアさんに申し訳ないので……」
借り物のドレスが座って皺にならないように丁寧に扱う親友の仮妻に、クシャースラは苦笑する。
「そんなことで、妻は怒らないと思いますよ」
それにもしアリーシャの言う通り、ドレスが汚れてしまっても、クシャースラが新しいドレスを買えばいいだけだ。何もアリーシャが気にする必要はない。
そういう意味で言ったつもりだったが、「そうですか?」とアリーシャはややぎこちなく尋ねてきたのだった。
「そうですよ。それよりも大丈夫ですか? 珍しく、あいつがらしくないことをやったから……」
対面のソファーに座りながら、クシャースラは心配そうにアリーシャを見つめる。
菫色の瞳をほんのわずかに下げていたアリーシャだったが、クシャースラの言葉に顔ごと上げる。
「やっぱり、オルキデア様らしくないんですか?」
「そうですね……。あいつとの付き合いは長い方ですが内輪とはいえ、人前であんなことをやっている姿を初めて見ました。出会った頃のあいつはどこか……」
仮初めと聞いているとはいえ、親友の妻に胸の内を打ち明けていいものか、クシャースラは目を伏せるとしばし逡巡する。
やがて決意して顔を上げると、きょとんとした顔のアリーシャを見つめながら、優しく話し出したのだった。
「あいつはどこか……今にも消え入りなところがあったので」
2
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる