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移送作戦【終了】・3
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セシリアはアリーシャの両手を取ると、そっと握りしめる。
「あの後、クシャ様からアリーシャさんの特徴を聞いて、ようやく似合う服を見つけられたんです。……いつかお渡ししようと思っていました」
「セシリアさん。ありがとうございます。最初にご用意して頂いたお洋服も、お部屋のお洋服や靴も」
「クローゼットとベッドの下をご覧になりました?」と、セシリアに聞かれたアリーシャは「はい」と答える。
「誰かに、こうしてプレゼントを頂いたことは無かったので、とても嬉しいです。ありがとうございました」
セシリアは一瞬目を見張ったが、すぐに「そうですか」と元の笑みを浮かべた顔に戻る。
「お礼なら私ではなく、オーキッド様に言って下さい。どれも用意をするように言ったのは、オーキッド様なのです」
セシリアに言われて、アリーシャはオルキデアを見上げる。
「ありがとうございます。オルキデア様! 私、私……嬉しいです!」
光り輝く菫色の瞳で見つめられたオルキデアは目を逸らし、緩みそうになる表情を隠すように手で顔を押さえながら、「大したことではない」と返す。
「アリーシャさん」
名前を呼ばれて、アリーシャはセシリアの方を向く。
「これからこの屋敷でオーキッド様の奥様として暮らしていく中で、様々なことが起こるかもしれません。その時は出来る限り、オーキッド様の力になってあげて下さい」
「セシリアさん……」
「その際には、差し上げたドレスで身を飾って、オーキッド様に相応しい女性でいて下さい。胸を張って、堂々とするだけでいいんです。……オーキッド様が一人にならないように、隣に居て下さい」
セシリアは握ったアリーシャの手を上下に軽く振る。
「それから時間のある時はぜひ私たちの家に遊びに来て下さい。この屋敷の近くなんです」
セシリアとクシャースラの自宅はこの屋敷の通りを左にずっと行き、二つ目の角を左に曲がってすぐ手前にある。
アリーシャの足でも、十五分もあれば辿り着くだろう。
「朝は弟たちと一緒に、父が経営する新聞工場の新聞配達を手伝って、それから昼までは下町のお花屋さんで働いています。でもそれ以外は自宅に居るので、よければ遊びに来て下さい」
「えっ、いいんですか……?」
セシリアは「ええ」と困り顔をする。
「近所に同年代が居ないのと、クシャ様は仕事で自宅を不在にしがちなので、時間を持て余すことが多いんです」
オルキデアが物言いたげな目で親友を見ると、わざとらしく明後日の方向を向いていた。
アリーシャは小さく笑うと、「わかりました」と返事をしたのだった。
「遊びに行きます。……行かせて下さい」
「ええ! お待ちしています」
そうしてセシリアはアリーシャの手を離すと、クシャースラの隣に並ぶ。話が落ち着いたのを見て、オルキデアが口を開く。
「そうだ。クシャースラ、今日の報酬だが……」
「おれもいらないよ。なあ、セシリア?」
「そうですね。私も必要ありません」
「だが、二人には危険を犯してもらったんだ。これくらいはさせてくれ……」
夫婦は顔を見合わせるが、どちらともなく首を振る。
「おれたちは報酬目当てでやったんじゃない。大切な親友夫婦のためにやったんだ。……それは受け取れない」
「だが……」
「そのお金は私たちじゃなくて、アリーシャさんに使って下さい。これから何かと入り用ですよね?」
セシリアは白手袋を脱いで自らの左手を示すと、次いで夫の左手を取って手を握る。それだけでオルキデアはセシリアが何を言いたいのか理解した。
オウェングス夫婦の左手の薬指が、屋敷の明かりで鈍く銀色に光っていたからだった。
「あの後、クシャ様からアリーシャさんの特徴を聞いて、ようやく似合う服を見つけられたんです。……いつかお渡ししようと思っていました」
「セシリアさん。ありがとうございます。最初にご用意して頂いたお洋服も、お部屋のお洋服や靴も」
「クローゼットとベッドの下をご覧になりました?」と、セシリアに聞かれたアリーシャは「はい」と答える。
「誰かに、こうしてプレゼントを頂いたことは無かったので、とても嬉しいです。ありがとうございました」
セシリアは一瞬目を見張ったが、すぐに「そうですか」と元の笑みを浮かべた顔に戻る。
「お礼なら私ではなく、オーキッド様に言って下さい。どれも用意をするように言ったのは、オーキッド様なのです」
セシリアに言われて、アリーシャはオルキデアを見上げる。
「ありがとうございます。オルキデア様! 私、私……嬉しいです!」
光り輝く菫色の瞳で見つめられたオルキデアは目を逸らし、緩みそうになる表情を隠すように手で顔を押さえながら、「大したことではない」と返す。
「アリーシャさん」
名前を呼ばれて、アリーシャはセシリアの方を向く。
「これからこの屋敷でオーキッド様の奥様として暮らしていく中で、様々なことが起こるかもしれません。その時は出来る限り、オーキッド様の力になってあげて下さい」
「セシリアさん……」
「その際には、差し上げたドレスで身を飾って、オーキッド様に相応しい女性でいて下さい。胸を張って、堂々とするだけでいいんです。……オーキッド様が一人にならないように、隣に居て下さい」
セシリアは握ったアリーシャの手を上下に軽く振る。
「それから時間のある時はぜひ私たちの家に遊びに来て下さい。この屋敷の近くなんです」
セシリアとクシャースラの自宅はこの屋敷の通りを左にずっと行き、二つ目の角を左に曲がってすぐ手前にある。
アリーシャの足でも、十五分もあれば辿り着くだろう。
「朝は弟たちと一緒に、父が経営する新聞工場の新聞配達を手伝って、それから昼までは下町のお花屋さんで働いています。でもそれ以外は自宅に居るので、よければ遊びに来て下さい」
「えっ、いいんですか……?」
セシリアは「ええ」と困り顔をする。
「近所に同年代が居ないのと、クシャ様は仕事で自宅を不在にしがちなので、時間を持て余すことが多いんです」
オルキデアが物言いたげな目で親友を見ると、わざとらしく明後日の方向を向いていた。
アリーシャは小さく笑うと、「わかりました」と返事をしたのだった。
「遊びに行きます。……行かせて下さい」
「ええ! お待ちしています」
そうしてセシリアはアリーシャの手を離すと、クシャースラの隣に並ぶ。話が落ち着いたのを見て、オルキデアが口を開く。
「そうだ。クシャースラ、今日の報酬だが……」
「おれもいらないよ。なあ、セシリア?」
「そうですね。私も必要ありません」
「だが、二人には危険を犯してもらったんだ。これくらいはさせてくれ……」
夫婦は顔を見合わせるが、どちらともなく首を振る。
「おれたちは報酬目当てでやったんじゃない。大切な親友夫婦のためにやったんだ。……それは受け取れない」
「だが……」
「そのお金は私たちじゃなくて、アリーシャさんに使って下さい。これから何かと入り用ですよね?」
セシリアは白手袋を脱いで自らの左手を示すと、次いで夫の左手を取って手を握る。それだけでオルキデアはセシリアが何を言いたいのか理解した。
オウェングス夫婦の左手の薬指が、屋敷の明かりで鈍く銀色に光っていたからだった。
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