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不安と寂しさと・7
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あの頃のオルキデアは三年前に父のエラフを失った悲しみから、仕事以外何も考えられなくなっていた。
飢えと寒さの中、雪を踏み締め、白銀の道なき道を歩き、倒れそうになる自分を叱咤しながら基地を目指している時でさえも、自分の身よりも与えられた任務を遂行することだけを考えていた。
状況さえ誰かに伝えられたのなら、自分はどうなってもいいとさえ思った。報告が遅れた罪で罰せられても、餓死や凍死したとしても。
その時のオルキデアには、「生きたい」という望みを持っていなかった。ただ機械的に生きて、朽ち果てる時を待つだけの存在となっていた。
物事を考える気力さえ失っていたのだった。
そんな暗中を彷徨っていたあの頃のオルキデアを照らすかのように、アリーシャが振り向く。
「それは、きっとクシャースラ様やセシリアさんたち……オルキデア様を大切に思っている人たちが、生きていて欲しいと、強く願ったからだと思います」
「そんな奴、いるのか?」
「いますよ! クシャースラ様やセシリアさんだけじゃありません。マルテさんやメイソンさん、それに私だって……」
「私だって?」
言いかけたアリーシャを促すようにオルキデアが言葉を返すと、白い頬を染めながら答えてくれる。
「私だって、そう思います……。そうじゃなきゃ、私たちは今こうして……一緒に寝ていないので」
目を逸らしながら話すアリーシャがいじらしく思える。
凄惨な過去がありながら、オルキデアに合わせて背伸びしようと必死な姿ばかり見ていたからだろうか。
今のアリーシャはどんな美女よりも美しく、魅力的でさえある。
可憐で頼りなげな一人の少女ではなく、頼りがいのある麗しい一人の女性としてオルキデアの目に映ったのであった。
今夜の自分は寒さと北部での記憶でどうかしているのだろうか。
今まで、アリーシャをそう思ったことは無かったのだがーー。
「そうだな」
オルキデアは穏やかな表情を浮かべると、アリーシャに近づく。
不思議そうな顔をするアリーシャに腕を伸ばすと、その華奢な身体を抱きしめたのだった。
「オルキデア様?」
「やはり温かいな、君は。身も、心も」
アリーシャの背中に手を回すと、自らの腕の中へと引き寄せる。
最初こそアリーシャは身を強張らせていたが、やがて肩の力を抜くとオルキデアに身を委ねてくる。
「オルキデア様も温かいですよ……。温かくて、なんだか眠くなってきました」
「俺もだ。そろそろ寝るか。さすがにこれ以上は明日に響く」
明日はアリーシャと出掛けるつもりだった。
本当の夫婦らしく見えるように、必要なものを揃えに。
「そうですね。寝ましょうか」
さっきよりも距離が近いからか、アリーシャの甘い香りが間近に感じられる。心地の良い香りに包まれているからか、オルキデアも身を任せて微睡んでしまう。
「おやすみ。アリーシャ」
「おやすみなさい。オルキデア様」
オルキデアは目を閉じながら考える。
嫌がらないということは、このまま寝てもいいという意味なのだろう。ーー睡魔からアリーシャの頭が回っていないという可能性もあるが。
僅かに目を開けて腕の中に視線を向けると、アリーシャは菫色の瞳を閉じていた。
こうして見ると、やはり彼女はあどけない少女の様だと思う。
ほっそりした身体も、柔らかな頬も、絹のようにさらりとした髪も、柔和な笑みさえも、まるで穢れを知らない無垢な子供のようであった。
手を伸ばして、頬に掛かる藤色の髪に触れようとしたところで思い止まる。
自分とアリーシャはあくまで契約結婚の関係。ここから先をやっていいのは、本当の恋人だけ。
仮初めの関係である自分にはそれをやる資格がない。
腕の中のアリーシャを感じながら、オルキデアは再び目を閉じる。すぐに意識は深い眠りの中に落ちていったのだった。
飢えと寒さの中、雪を踏み締め、白銀の道なき道を歩き、倒れそうになる自分を叱咤しながら基地を目指している時でさえも、自分の身よりも与えられた任務を遂行することだけを考えていた。
状況さえ誰かに伝えられたのなら、自分はどうなってもいいとさえ思った。報告が遅れた罪で罰せられても、餓死や凍死したとしても。
その時のオルキデアには、「生きたい」という望みを持っていなかった。ただ機械的に生きて、朽ち果てる時を待つだけの存在となっていた。
物事を考える気力さえ失っていたのだった。
そんな暗中を彷徨っていたあの頃のオルキデアを照らすかのように、アリーシャが振り向く。
「それは、きっとクシャースラ様やセシリアさんたち……オルキデア様を大切に思っている人たちが、生きていて欲しいと、強く願ったからだと思います」
「そんな奴、いるのか?」
「いますよ! クシャースラ様やセシリアさんだけじゃありません。マルテさんやメイソンさん、それに私だって……」
「私だって?」
言いかけたアリーシャを促すようにオルキデアが言葉を返すと、白い頬を染めながら答えてくれる。
「私だって、そう思います……。そうじゃなきゃ、私たちは今こうして……一緒に寝ていないので」
目を逸らしながら話すアリーシャがいじらしく思える。
凄惨な過去がありながら、オルキデアに合わせて背伸びしようと必死な姿ばかり見ていたからだろうか。
今のアリーシャはどんな美女よりも美しく、魅力的でさえある。
可憐で頼りなげな一人の少女ではなく、頼りがいのある麗しい一人の女性としてオルキデアの目に映ったのであった。
今夜の自分は寒さと北部での記憶でどうかしているのだろうか。
今まで、アリーシャをそう思ったことは無かったのだがーー。
「そうだな」
オルキデアは穏やかな表情を浮かべると、アリーシャに近づく。
不思議そうな顔をするアリーシャに腕を伸ばすと、その華奢な身体を抱きしめたのだった。
「オルキデア様?」
「やはり温かいな、君は。身も、心も」
アリーシャの背中に手を回すと、自らの腕の中へと引き寄せる。
最初こそアリーシャは身を強張らせていたが、やがて肩の力を抜くとオルキデアに身を委ねてくる。
「オルキデア様も温かいですよ……。温かくて、なんだか眠くなってきました」
「俺もだ。そろそろ寝るか。さすがにこれ以上は明日に響く」
明日はアリーシャと出掛けるつもりだった。
本当の夫婦らしく見えるように、必要なものを揃えに。
「そうですね。寝ましょうか」
さっきよりも距離が近いからか、アリーシャの甘い香りが間近に感じられる。心地の良い香りに包まれているからか、オルキデアも身を任せて微睡んでしまう。
「おやすみ。アリーシャ」
「おやすみなさい。オルキデア様」
オルキデアは目を閉じながら考える。
嫌がらないということは、このまま寝てもいいという意味なのだろう。ーー睡魔からアリーシャの頭が回っていないという可能性もあるが。
僅かに目を開けて腕の中に視線を向けると、アリーシャは菫色の瞳を閉じていた。
こうして見ると、やはり彼女はあどけない少女の様だと思う。
ほっそりした身体も、柔らかな頬も、絹のようにさらりとした髪も、柔和な笑みさえも、まるで穢れを知らない無垢な子供のようであった。
手を伸ばして、頬に掛かる藤色の髪に触れようとしたところで思い止まる。
自分とアリーシャはあくまで契約結婚の関係。ここから先をやっていいのは、本当の恋人だけ。
仮初めの関係である自分にはそれをやる資格がない。
腕の中のアリーシャを感じながら、オルキデアは再び目を閉じる。すぐに意識は深い眠りの中に落ちていったのだった。
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