アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
153 / 357

夫婦らしく【中】・5

しおりを挟む
「屋敷で食べてもいいし、どこかで食べて帰ってもいい。夕食が不要なくらい腹がいっぱいなら食べなくてもいい。好きなのを選べ」
「オルキデア様はどうしますか?」
「君に合わせるから、気にしなくていい。夜半に腹が減ったら、適当に屋敷の食料をつまみ食いするさ」
「つまみ食いって……。やっている姿が、全く想像出来ないです」

オルキデアがつまみ食いする姿を想像したのか、フフフと笑うアリーシャに、自然と笑みが浮かんでくる。

(こんな穏やかな時間も、たまにはいいものだな)

アリーシャと出会うまでは、休暇中も戦場や仕事のことばかり考えていた。時々、両親のことを思い出しては胸が辛くなり、また仕事のことを考えるようにした。
けれども、今は全てを忘れて、アリーシャと過ごすこの時間を心から楽しめそうだった。

「俺だって、食べ盛りの頃は、よくつまみ食いをしていたさ。それより、早く食べないとアイスが溶けるぞ」
「そ、そうですね……! 早く食べないと」

既にパフェグラスに残っていたアイスは溶け始めて、グラスの底に沈んでいた。
アイスと共にパフェの上部にあったフルーツはほとんど食べていたようで、残っているのはグラスの底に沈むコーンフレークやコーヒーゼリーであった。
ただ底の深いパフェグラスだからか、溶けたアイスでスプーンが滑ってしまうのか、なかなか掬えず、アリーシャは苦戦しているようだった。
そんなアリーシャを微笑ましく思いながら、オルキデアは残っていたコーヒーに口をつけたのだった。

「夕食ですが、もし、オススメのお店があれば連れて行って下さい。そこに行ってみたいです」
「オススメの店って、君が期待するようなお店には、あまり行かないからな……。
ああ、そうだ。アルフェラッツが家族で出掛けて美味かったと話していた店があったな。屋敷までの帰り道だ。そこに行ってみるか?」
「はい……あの、アルフェラッツさんが、ご家族で出掛けられたんですか? 
家庭よりも仕事を大切にしている人だと思っていたので、なんだか意外で……」
「そうか? 家族向けの店を探していたら、見つけたと話していたぞ。奥方と子供を連れて行ったとか」

何気なく付け足した言葉に、ティーカップに伸ばしていたアリーシャの手が止まった。

「……アルフェラッツさんって、結婚されていたんですか?」
「それを言ったら、ラカイユも結婚しているぞ。二人共、士官学校の卒業と同時に結婚したからな。
先程、俺たちが指輪を買った店で、二人も結婚指輪を買ったと話していたな」

意外にも、オルキデアの周りには、クシャースラとセシリアを始めとして、アルフェラッツやラカイユなど既婚者が多い。
上官のプロキオンもまた既婚者であり、士官学校時代の同期も大半が結婚していたのだった。

「アルフェラッツの夫婦は、何年か前に戦争孤児となった子供を引き取ってな。
休暇が明ける度に、休暇中は奥方と子供とどこに遊びに行ったかという話を聞かされるんだ」
「戦争孤児ですか……」
「戦争孤児の問題は、シュタルクヘルトそっちだけじゃないんだ。ペルフェクトうちも抱えている」

戦争が長引けば長引いた分だけ、両国には孤児が溢れる。
両親又は片親が戦死した軍人の子供。
現地の戦争に巻き込まれ、両親を亡くすか、避難途中に両親とはぐれた子供。
または、戦争の貧困から両親を捨てられた子供などだ。

国が主体となって、孤児院や乳児院を作っているが、戦争が続いている以上、効果は焼け石に水であった。

そんな中、軍部の支援として、子供がいない軍人家庭や、収入が多く金銭的に余裕がある軍人家庭への養子縁組を行っていた。
軍人家庭以外でも希望すれば養子縁組が出来るとあり、特に人手が必要な農村部や農家からは好評らしい。

「そういえば、クシャースラとセシリアも引き取るか検討していたな。上官から散々勧められるとか」
「クシャースラ様とセシリアさんなら、きっと良い両親になれると思います」

結婚四年目にして未だ子供がいない親友夫婦は、軍部の格好の獲物だそうだ。
度々、養子縁組を勧められて困っていると、クシャースラが愚痴を溢していた。

ただ、クシャースラが仕事で王都を留守にしがちなので、そこまで執拗に勧められている訳ではないらしい。
引き取るように言われても、せいぜい不在にしがちな夫に代わり、セシリア一人でも面倒が見れる年頃の子供だとも話していた。

「そうだな。アイツらなら、きっといい父母になれるだろう」
「そうですね……」

俺とは違って。という言葉も出かかったが、それは言わずに留めておく。
おそらく、自分と同じことを考えたのであろう。
向かいの席で、悲しげに微笑む仮初めの妻を前にして、とても言えそうになかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...