アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
205 / 357

契約結婚を解消して欲しい・3

しおりを挟む
肩を震わせて、アリーシャが俯くと、怒っていると思ったのか、オルキデアは早口になる。

「返事を待たせたことで、不安な気持ちにさせてしまってすまない。
俺は女性と普通の付き合いをしたことが無ければ、軍人として忙しく、長期間、戦場に行くことも多々あるだろう」

太陽が沈み、だんだんと部屋の中が暗くなっていく。
俯くアリーシャの視線の先にも、静かな夜が迫っていた。

「君には度々迷惑をかけるかもしれないが、それ以外は出来る限り、傍に居ると誓おう。
こんな俺で良ければ結婚して欲しい。
必ず、君を幸せにすると約束する」

目を伏せたまま、なかなか返事をしないからだろう。
とうとう、オルキデアは膝を折ると、顔を覗き込んできたのだった。 

「だから、アリーシャ、俺と……」
「オルキデアさま……」

ようやく、アリーシャが顔を上げると、幾つもの涙が溢れ落ちていった。

「人って、嬉しい時も、泣くものなんですね……初めて知りました……」

一瞬、虚をつかれたオルキデアだったが、空いた手でアリーシャを抱きしめる。

「ああ、そうだ。人は嬉しい時も泣くんだ」

その言葉に、アリーシャはますます泣き出した。
嬉しくて泣いたのは、これが初めてだった。
知らなかった。人は悲しい時や苦しい時以外でも泣くのだと。

「オルキデア様……私、オルキデア様のことが好きです……」
「俺も好きだ。アリーシャ」
「こんな私で良ければ、結婚して下さい……」
「『こんな私』って言うな。他でもなく君がいいんだ」

藤色の頭を撫でられながら、お互いに「好き」と言い合う。
それはアリーシャの涙が止まるまで、続いたのだった。

アリーシャが落ち着くと、腕の上にはオレンジ色のカーネーションの花束があった。

「お花、綺麗です……。これを買いに出掛けていたんですね」
「それもあるが、他にも行くところがあってな。これからの夫婦生活に必要な物も手配してきた」

オルキデアの部屋のソファーで寄り添って座る二人はそっと話し出す。

「これからの夫婦生活ですか?」
「まさか今までと一緒という訳にもいかんだろう。これからはもっと君を……いや、お前を愛する為にもな」

顎に手をかけられると、上を向かされる。深い紫色と目が合い、胸の鼓動が早くなる。

「もう、手加減はしない。本当はずっと我慢していたんだ」
「我慢ですか?」
「ああ……これもな」

そう告げて、オルキデアはアリーシャの唇に口付ける。
最初こそ驚いたアリーシャだったが、目を閉じると身を委ねたのだった。
ゆっくりと唇が離れると、何故か物足りなさを感じて、縋り付きそうになってしまう。

「これからは、ずっと一緒に居てくれるか」

真剣な眼差しに、「はい」と頷く。

「俺は弱い人間だ。お前を傷つけることだってあるだろう。泣かせることや怒らせることも……。こんな俺だが、傍に居て欲しい」
「私も同じです。弱くて、子供みたいに泣いてばかりで、寂しがり屋で……。こんな私ですが、これからも傍に居たいです」
「ああ、ありがとう。アリーシャ……」

二人は顔を見合わせると、再び口づけを交わしたのだった。

それから、「思い出に残る夜を過ごしたいから」と言って、オルキデアは王都のレストランに連れて行ってくれた。
昼間に予約したというレストランは、値段も良いが、味も質も最高品質の料理に、アリーシャも喜びを隠せなかった。

初めて飲んだシャンパンというお酒も、同じ炭酸でも、炭酸水とはまた違った不思議な味がした。
そんなシャンパンが注がれたグラスを合わせた時、「結婚記念に予約をしたいと言ったら、特別に格安で良いシャンパンを開けてくれたんだ。普段は高価でなかなか飲めない、貴重なブランドだ」とオルキデアが小声で教えてくれたので、つい笑ってしまった。

そんなアリーシャを見て喜ぶオルキデアの姿も、また忘れられない夜となったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...