230 / 357
お祭り・6
しおりを挟む
「アリーシャ」
「はい」
輝くような菫色の瞳に見つめられて、オルキデアは微笑を浮かべる。
柔肌の両頬をそっと撫でると、親指と人差し指でそれぞれ引っ張ったのだった。
「……あにょ」
「なんだ?」
頬を引っ張られているからか上手く呂律が回っていなかったが、それでもアリーシャは話し続けた。
「なにちているんでつか?」
「触り心地がいいから引っ張っている」
指で軽く揉んでから指を離すと、アリーシャは「もう!」と口を尖らせたのだった。
「オルキデア様ばっかりズルイです!」
「じゃあ、お前はどうしたい?」
「どうしたいと、急に言われても……」
うーんと悩んでいたアリーシャだったが、やがて何かを閃いたのか、菫色の瞳を見開いて顔を輝かせた。
「あの、両手をお借りしてもいいですか?」
「それくらい構わないが……」
オルキデアが両手を差し出すと、アリーシャは先程と同じ様に、手袋をつけた両手で挟む。
そうして顔に近づけると、「ハァ~ッ」と息を吐いたのだった。
「何をしているんだ」
「オルキデア様の手を温めているんです。いっつも触れられる度に、冷たいと思っていたので」
「そこまで冷たかったか……?」
「……多少は。で、でも、手が冷たいというのは反対に、心が温かい証拠だって、聞いたことがあるので!」
アリーシャが話す度に、吐息が手にかかってむず痒い。
「構わない」と言った以上、安易に手を引っ込める訳にもいかず、オルキデアはただただ耐えるしかなかった。
「心が温かいか……。部下たちから『情がない』、『冷たい』、『冷酷』って言われて怖がられているんだぞ。俺は」
オルキデア自身は何を言われても全く気にしていないが、部下たちが影でそう話しているのを聞いたことがある。
厳しく叱責したことや辛い仕事を頼んだこともあったので、そう思われても仕方がないだろう。
「そんなの見た目だけじゃないですか。すっごく良い人ですよ!」
「そうなのか?」
「そうですよ。私は気づいていました。一見冷たそうに見えても、優しくて、面倒見が良くて、細やかな気遣いが出来て、甘えても許してくれて……」
アリーシャは頬を赤く染めると、「そんな貴方だからこそ……」と小さく呟いた。
「そんな貴方だからこそ、私は好きになったんです。他の誰でもない、貴方を……オルキデア様を……」
「アリーシャ……」
雪深い地に陽光が差し込んだ様に、胸の中が温かくなっていく。
天にも昇る心地とは、このような気持ちを指すのだろうか。
アリーシャの華奢な身体を抱き寄せて、顔を近づけた時、下からピーッと笛の音が聞こえてきたのだった。
「なんでしょう? この笛は……」
「パレードの合図だ」
下を見ると、通りの人垣が二つに割れていた。
先程まで、中央の道路まではみ出ていた人々は、警察や警備を担当する軍の指示で、車が通れるように道路を開けた。
パレードの見物客たちは押し合いになりながら、ずらりと沿道に並んだのだった。
「あんなに人がいっぱいいたら、後ろの人はパレードが見れないですよね」
「その為のこの場所だ」
アリーシャの言う通り、沿道の後ろに立った人たちは背伸びをするか、近くの階段に上って少しでもパレードを見ようとしていた。遠くからは「どけよ!」や「痛い!」という声や、迷子になった子供がいるのか「お母さ~ん」と泣き出す子供の声が聞こえてきた。
あんな人混みの中にアリーシャといたら、それこそ離れ離れになって迷子になっていただろう。
やはり、屋上に登って正解だった。
「はい」
輝くような菫色の瞳に見つめられて、オルキデアは微笑を浮かべる。
柔肌の両頬をそっと撫でると、親指と人差し指でそれぞれ引っ張ったのだった。
「……あにょ」
「なんだ?」
頬を引っ張られているからか上手く呂律が回っていなかったが、それでもアリーシャは話し続けた。
「なにちているんでつか?」
「触り心地がいいから引っ張っている」
指で軽く揉んでから指を離すと、アリーシャは「もう!」と口を尖らせたのだった。
「オルキデア様ばっかりズルイです!」
「じゃあ、お前はどうしたい?」
「どうしたいと、急に言われても……」
うーんと悩んでいたアリーシャだったが、やがて何かを閃いたのか、菫色の瞳を見開いて顔を輝かせた。
「あの、両手をお借りしてもいいですか?」
「それくらい構わないが……」
オルキデアが両手を差し出すと、アリーシャは先程と同じ様に、手袋をつけた両手で挟む。
そうして顔に近づけると、「ハァ~ッ」と息を吐いたのだった。
「何をしているんだ」
「オルキデア様の手を温めているんです。いっつも触れられる度に、冷たいと思っていたので」
「そこまで冷たかったか……?」
「……多少は。で、でも、手が冷たいというのは反対に、心が温かい証拠だって、聞いたことがあるので!」
アリーシャが話す度に、吐息が手にかかってむず痒い。
「構わない」と言った以上、安易に手を引っ込める訳にもいかず、オルキデアはただただ耐えるしかなかった。
「心が温かいか……。部下たちから『情がない』、『冷たい』、『冷酷』って言われて怖がられているんだぞ。俺は」
オルキデア自身は何を言われても全く気にしていないが、部下たちが影でそう話しているのを聞いたことがある。
厳しく叱責したことや辛い仕事を頼んだこともあったので、そう思われても仕方がないだろう。
「そんなの見た目だけじゃないですか。すっごく良い人ですよ!」
「そうなのか?」
「そうですよ。私は気づいていました。一見冷たそうに見えても、優しくて、面倒見が良くて、細やかな気遣いが出来て、甘えても許してくれて……」
アリーシャは頬を赤く染めると、「そんな貴方だからこそ……」と小さく呟いた。
「そんな貴方だからこそ、私は好きになったんです。他の誰でもない、貴方を……オルキデア様を……」
「アリーシャ……」
雪深い地に陽光が差し込んだ様に、胸の中が温かくなっていく。
天にも昇る心地とは、このような気持ちを指すのだろうか。
アリーシャの華奢な身体を抱き寄せて、顔を近づけた時、下からピーッと笛の音が聞こえてきたのだった。
「なんでしょう? この笛は……」
「パレードの合図だ」
下を見ると、通りの人垣が二つに割れていた。
先程まで、中央の道路まではみ出ていた人々は、警察や警備を担当する軍の指示で、車が通れるように道路を開けた。
パレードの見物客たちは押し合いになりながら、ずらりと沿道に並んだのだった。
「あんなに人がいっぱいいたら、後ろの人はパレードが見れないですよね」
「その為のこの場所だ」
アリーシャの言う通り、沿道の後ろに立った人たちは背伸びをするか、近くの階段に上って少しでもパレードを見ようとしていた。遠くからは「どけよ!」や「痛い!」という声や、迷子になった子供がいるのか「お母さ~ん」と泣き出す子供の声が聞こえてきた。
あんな人混みの中にアリーシャといたら、それこそ離れ離れになって迷子になっていただろう。
やはり、屋上に登って正解だった。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
俺様御曹司に飼われました
馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!?
「俺に飼われてみる?」
自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。
しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる