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母上・3
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「そうなのか!?」
クシャースラの言葉に、オルキデアでさえ驚愕して椅子から立ち上がってしまった。
壁際に控える兵から睨まれて、オルキデアは座り直したのだった。
「なんだか、二人の会話を聞いているとさ。お前さんのお母さんーーティシュトリアさんだったな。もしかして、ずっと寂しかったんじゃないか」
瞬きを繰り返しながら、クシャースラの言葉に聞き入る。
「だって、知らない人間だらけのラナンキュラス家に嫁いできたんだろう。
唯一、頼れそうな旦那さんは多忙な日々を過ごしてて……。気を許せる話し相手が欲しかったんじゃないかって。お前さんを気にするのも、相手して欲しいからじゃないか?」
「そうなんですか? 母上……」
受話器に耳を済ましていたオルキデアがティシュトリアに視線を向けるが、受話器を握りしめたまま俯いており、顔を窺い知ることは出来なかった。
「生まれたばかりのオルキデアを置いてったのは関心しませんが、出産の直後というのは、心が不安定になると聞いたことがあります。安心出来る場所を求めていたんじゃないですか?」
じっと、ティシュトリアを見つめていると、やがて母は「私は……」と、ゆっくり話し出したのだった。
「誰かに私の存在を認めてもらいたかった。どこに行っても、私は蚊帳の外。実家でも、結婚しても、一人ぼっちで、何も変わりはなかったの……」
「母上……」
「あの人は仕事でなかなか帰って来なくて、ようやく帰ってきても歳が離れているから何を話したらいいかわからないし、屋敷の使用人とも上手くいかなくて、近くに話し相手もいなくて、ずっと寂しくて……。そうしたら、あの人の知り合いを語る人が優しくしてくれて、それで……」
こうして、母から自身の話を聞くのは始めてだった。
オルキデアが知ってる母親像というのは子供の頃、僅かにいた使用人から聞いた話がほとんどだった。
父のエラフはあまり語ってくれず、オルキデアからねだって教えてもらったこともあるが、父は悲しい顔をするだけであった。
それもあって、いつしか母の話は親子の間でタブーとなり、ほとんど話さないまま父は息を引き取ったのだった。
クシャースラから受話器を受け取ると、一つ息を吸ってから「だから」とオルキデアは話し出す。
「母上は他の男の元に行ったのですか?」
「最初は、貴方が生まれたら止めるつもりだったのよ。それなのに、相手がなかなか離してくれなくて……。いつしか止められなくなったのよ……」
依存するように、自分を愛する人を求め、必要としてくれる人を探したティシュトリア。
知らなかった母の一面を知って、胸の中が苦しくなる。
だからといって、ティシュトリアがやった事実が変わる訳ではない。
「大きくなったオーキッドは全く相手をしてくれなくて、私を愛してくれるのはあの人たちばかり。その人たちも、用が無くなると、私を捨てていったわ……」
「俺は相手をしなかったのではなく、母上が俺と父上を相手してくれなかったのでしょう」
「そんなはずないわ。だって、いつ訪ねても、屋敷に帰って来なかったじゃない!」
「仕事が忙しかったから、軍部に泊まり込んでいたんです。母上が屋敷を訪ねてきたという話は、最近聞きました」
「これまでは誰とも会わなかったもの。いつ屋敷を尋ねてもいなかったわ」
クシャースラの言葉に、オルキデアでさえ驚愕して椅子から立ち上がってしまった。
壁際に控える兵から睨まれて、オルキデアは座り直したのだった。
「なんだか、二人の会話を聞いているとさ。お前さんのお母さんーーティシュトリアさんだったな。もしかして、ずっと寂しかったんじゃないか」
瞬きを繰り返しながら、クシャースラの言葉に聞き入る。
「だって、知らない人間だらけのラナンキュラス家に嫁いできたんだろう。
唯一、頼れそうな旦那さんは多忙な日々を過ごしてて……。気を許せる話し相手が欲しかったんじゃないかって。お前さんを気にするのも、相手して欲しいからじゃないか?」
「そうなんですか? 母上……」
受話器に耳を済ましていたオルキデアがティシュトリアに視線を向けるが、受話器を握りしめたまま俯いており、顔を窺い知ることは出来なかった。
「生まれたばかりのオルキデアを置いてったのは関心しませんが、出産の直後というのは、心が不安定になると聞いたことがあります。安心出来る場所を求めていたんじゃないですか?」
じっと、ティシュトリアを見つめていると、やがて母は「私は……」と、ゆっくり話し出したのだった。
「誰かに私の存在を認めてもらいたかった。どこに行っても、私は蚊帳の外。実家でも、結婚しても、一人ぼっちで、何も変わりはなかったの……」
「母上……」
「あの人は仕事でなかなか帰って来なくて、ようやく帰ってきても歳が離れているから何を話したらいいかわからないし、屋敷の使用人とも上手くいかなくて、近くに話し相手もいなくて、ずっと寂しくて……。そうしたら、あの人の知り合いを語る人が優しくしてくれて、それで……」
こうして、母から自身の話を聞くのは始めてだった。
オルキデアが知ってる母親像というのは子供の頃、僅かにいた使用人から聞いた話がほとんどだった。
父のエラフはあまり語ってくれず、オルキデアからねだって教えてもらったこともあるが、父は悲しい顔をするだけであった。
それもあって、いつしか母の話は親子の間でタブーとなり、ほとんど話さないまま父は息を引き取ったのだった。
クシャースラから受話器を受け取ると、一つ息を吸ってから「だから」とオルキデアは話し出す。
「母上は他の男の元に行ったのですか?」
「最初は、貴方が生まれたら止めるつもりだったのよ。それなのに、相手がなかなか離してくれなくて……。いつしか止められなくなったのよ……」
依存するように、自分を愛する人を求め、必要としてくれる人を探したティシュトリア。
知らなかった母の一面を知って、胸の中が苦しくなる。
だからといって、ティシュトリアがやった事実が変わる訳ではない。
「大きくなったオーキッドは全く相手をしてくれなくて、私を愛してくれるのはあの人たちばかり。その人たちも、用が無くなると、私を捨てていったわ……」
「俺は相手をしなかったのではなく、母上が俺と父上を相手してくれなかったのでしょう」
「そんなはずないわ。だって、いつ訪ねても、屋敷に帰って来なかったじゃない!」
「仕事が忙しかったから、軍部に泊まり込んでいたんです。母上が屋敷を訪ねてきたという話は、最近聞きました」
「これまでは誰とも会わなかったもの。いつ屋敷を尋ねてもいなかったわ」
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