アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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海とオーキッド色のお礼・3

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「爪に何か塗っているのか?」
「マニキュアです。セシリアさんからお借りしたメイク雑誌の夏号に載っていたんです。
夏場に裸足になる時、爪を綺麗に見せる方法って紹介で。発祥はハルモニアらしいです」
「夏か……ということは、薄着や裸足になることを想定しているのか」
「この国でも、夏場は薄着や裸足になるんですか?」
「貴族でも、公式の場以外では薄着になるし、裸足にもなる。そうしなければ、暑さで倒れてしまうからな」

幾ら身分社会の国と言われているペルフェクトといえども、夏の暑さに辟易し、冬の寒さに凍えるのに身分は関係ない。
たまに誤解されるのが、貴族は四六時中、フォーマルな格好をしていると考えられていることだが、来客がない日や自宅で寛ぐ際にはシュタルクヘルトほどラフにはならないが、それなりに寛いだ格好をする。
そうしなければ、真夏は屋敷内に居るにも関わらず、熱中症になりかねない。

「薄着と言っても、シャツ一枚とかですよね……」
「そうだな。シュタルクヘルトあっちでは、下着の様な格好もするらしいな」
「水着のことですか? 夏になると、みんなそれを着て、海や川で水遊びをするらしいです。
夏が近づくと、色んなデザイン、種類の水着が店頭に並んで、お店の中が賑やかになります」
「お前も着たのか……? その、水着を……」
「私ですか? いいえ。水着を持っていなかったので……。与えられなかったと言えばいいのでしょうか……」

「そもそも、水遊びに誘われもしなかったので」と、はっきり否定されてホッとする。

ペルフェクトのーー特に貴族の中では、家族や恋人以外の前で素肌を晒す行為は、はしたないと考えられている。
男女共に常に慎みを持って、人前ではなるべく素肌を見せない様に気をつける。
それもあって、季節や場所に限らず、男は長ズボン、女は足首まで隠れるロングスカートを履いて、シャツも公式の場では丈の長い物を着るのが常であった。

「そうか。安心した」
「安心したって……?」
「お前の素肌を見た奴がいなくて。危うく殴るところだった」

アリーシャの水着姿を見た奴がいたのなら、嫉妬に駆られて殴り付けてしまうところだった。
最愛の妻の素肌を晒した姿ーー下着姿や裸もだが。は、自分だけのものにしたい。
たとえ知り合いと言えども、誰にも見せたくなかった。

「素肌を見せても何も減りませんよ」
「いや。俺が我慢出来ない。もしかしたら、相手をどうにかしてしまうかもしれん」
「どうにかって……。もう……」
「こう見えて、今だって我慢しているんだ」

膝の上の白い両足首を引っ張ると、「うわぁ!」と声を上げて、アリーシャがシートの上に倒れる。

「いきなり何するんですか!?」

抗議の声が聞こえるが、自制が効かなかった。
広いシートの上に両肘をついて起き上がろうとする身体に、すかさず上から覆い被さる。

「あの……」
「そういえば、まだ聞いていなかったな。どうしてリゾート地や漁港ではなく、こんな近くの知る人ぞ知る浜辺を選んだんだ?」
「それは……。他の人がいたら、海に入れないじゃないですか……」
「それだけか?」

力を入れたら折れてしまいそうな程、細っそりした白い足。
拭いたばかりの足を下からそっと撫でていく。

「きゃ!」
「早く話さないと、もっと中に入れるぞ」

アリーシャの短い悲鳴を聞きながら、オルキデアはどんどんスカートの内側に手を入れていく。
太腿まで手を入れたところで、「は、話します……!」と顔を赤くして話し出す。

「他の人がいたら、二人きりになれないじゃないですか……。移動時間が長くても、その分、二人きりの時間が減ってしまうので……」

最初にオルキデアが提案したリゾート地も漁港も、王都から南部に行くには、車を使って半日以上、飛行機でも数時間は、移動に時間を費やすことになる。
移動時間が長ければ遊ぶ時間や二人きりの時間が減ってしまう。
また、リゾート地にも漁港にも、多くの人が集まる。
二人きりになるのはなかなか難しいだろう。
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