アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
282 / 357

海とオーキッド色のお礼・4

しおりを挟む
「そうだな」
 
アリーシャと少しでも二人きりの時間を過ごしたいと思っていたが、それは相手も同じ気持ちだったようだ。
気持ちが通じ合っていたと知り、胸の中が温かくなっていく。
自然とオルキデアは笑みを浮かべたのだった。

「せっかくのお休みなんです。お仕事の日は一緒に居られる時間が限られているので、休日は少しでも大切な人を独り占めしたいんです……。あの、おかしいですか?」
「おかしくないさ。俺も同じだ」

スカートの中に入れた手を更に奥に入れる。
肘まで中に入れて、もう少しで最奥に触れるというところで、後ろから甲高い声が聞こえてきたのだった。

「ママ、はやくはやく!」

二人の後ろから駆けてきたのは、四、五歳くらいの藤色の髪の男児だった。
その小さな姿を視界の隅に捉えると、オルキデアはスカートから手を抜いて、咄嗟に身を引く。
肘と手をついて、起き上がろうとするアリーシャに手を貸すと、彼女のすぐ後ろを男児が通って行った。

「あまり早く行かないの!」

小さな背を追いかけるようにして、母親と思しき若い女性が走って行ったのだった。

「うみ~! さかな!」
「ダメ! 風邪を引くでしょう?」

女性は男児と同じ色のセミロングの髪を乱しながら海に入ろうとする男児を捕まえると、手を繋いで戻って来る。

「今日はママとお散歩しに来たんでしょう。海には入りません」
「は~い……」

肩を落とす男児と手を繋いで戻って来た女性は、オルキデアたちに気づくと「あら」と声を上げて立ち止まる。

「珍しい。ここで北部の人に出会えるなんて」
「えっ……?」

どうやら、女性は親子と同じ髪色をしたアリーシャが気になったらしい。

「お二人は北部からいらしたんですか?」
「い、いいえ。王都から……」
「そうですか……。すみません、変なことを聞いてしまって。この辺りではなかなか北部の方に出会えないので、てっきり北部からいらしたのかと」
「そんなことは……。あの、おふたりは北部からいらしたんですか?」
「わたしはそうです。両親と北部に住んでいましたが戦争が激化したことで、この辺りに避難しました。その避難先で知り合った人と結婚して産まれたのがこの子で」

母親に頭を撫でられて、男児は嬉しそうに笑う。

「そうでしたか……」
「最近では、北部地域での戦争がだんだん北東部地域に流れているそうで……不安ですよね」

女性は会釈をすると、男児と一緒に離れていった。
何度か振り返った男児が、オルキデアたちに向かって手を振ってくれたのだった。

「私の髪の色って、北部地域に住む人と同じなんですか?」

男児に手を振り返すアリーシャに尋ねられて、「ああ」と肯定する。

「昔から北部地域に住む住民は、色素の薄い者が多いらしいな。その中にお前と同じ髪色の者もいたはずだ」

藤色に限らず、北部地域には雪の様に白に近い髪色の者や、親友夫婦よりも薄い金色の髪色、白い肌色、薄い瞳の色の者が多い。
元々、ペルフェクト人は色素の薄い人種であり、長い年月を得て周辺諸国の人間と混ざったことで、今の様に多色な人種になったとされている。

「俺の様に、濃い色素の人間は少なからず他国の人間の血が混ざっているらしい。王都に住む者の大半はそうだな」
「そういえば、王都はオルキデア様と同じような髪色の方が多い気がします」
「ああ。代わりに地方に行くとお前と同じ様に、色素の薄い者の方が多い。
南部基地や北部基地に所属する者の大半は、お前と同じだな」
「そうなんですね……」

アリーシャは膝を抱えると、何かを我慢する様に切なげな顔をする。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...