アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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海とオーキッド色のお礼・4

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「そうだな」
 
アリーシャと少しでも二人きりの時間を過ごしたいと思っていたが、それは相手も同じ気持ちだったようだ。
気持ちが通じ合っていたと知り、胸の中が温かくなっていく。
自然とオルキデアは笑みを浮かべたのだった。

「せっかくのお休みなんです。お仕事の日は一緒に居られる時間が限られているので、休日は少しでも大切な人を独り占めしたいんです……。あの、おかしいですか?」
「おかしくないさ。俺も同じだ」

スカートの中に入れた手を更に奥に入れる。
肘まで中に入れて、もう少しで最奥に触れるというところで、後ろから甲高い声が聞こえてきたのだった。

「ママ、はやくはやく!」

二人の後ろから駆けてきたのは、四、五歳くらいの藤色の髪の男児だった。
その小さな姿を視界の隅に捉えると、オルキデアはスカートから手を抜いて、咄嗟に身を引く。
肘と手をついて、起き上がろうとするアリーシャに手を貸すと、彼女のすぐ後ろを男児が通って行った。

「あまり早く行かないの!」

小さな背を追いかけるようにして、母親と思しき若い女性が走って行ったのだった。

「うみ~! さかな!」
「ダメ! 風邪を引くでしょう?」

女性は男児と同じ色のセミロングの髪を乱しながら海に入ろうとする男児を捕まえると、手を繋いで戻って来る。

「今日はママとお散歩しに来たんでしょう。海には入りません」
「は~い……」

肩を落とす男児と手を繋いで戻って来た女性は、オルキデアたちに気づくと「あら」と声を上げて立ち止まる。

「珍しい。ここで北部の人に出会えるなんて」
「えっ……?」

どうやら、女性は親子と同じ髪色をしたアリーシャが気になったらしい。

「お二人は北部からいらしたんですか?」
「い、いいえ。王都から……」
「そうですか……。すみません、変なことを聞いてしまって。この辺りではなかなか北部の方に出会えないので、てっきり北部からいらしたのかと」
「そんなことは……。あの、おふたりは北部からいらしたんですか?」
「わたしはそうです。両親と北部に住んでいましたが戦争が激化したことで、この辺りに避難しました。その避難先で知り合った人と結婚して産まれたのがこの子で」

母親に頭を撫でられて、男児は嬉しそうに笑う。

「そうでしたか……」
「最近では、北部地域での戦争がだんだん北東部地域に流れているそうで……不安ですよね」

女性は会釈をすると、男児と一緒に離れていった。
何度か振り返った男児が、オルキデアたちに向かって手を振ってくれたのだった。

「私の髪の色って、北部地域に住む人と同じなんですか?」

男児に手を振り返すアリーシャに尋ねられて、「ああ」と肯定する。

「昔から北部地域に住む住民は、色素の薄い者が多いらしいな。その中にお前と同じ髪色の者もいたはずだ」

藤色に限らず、北部地域には雪の様に白に近い髪色の者や、親友夫婦よりも薄い金色の髪色、白い肌色、薄い瞳の色の者が多い。
元々、ペルフェクト人は色素の薄い人種であり、長い年月を得て周辺諸国の人間と混ざったことで、今の様に多色な人種になったとされている。

「俺の様に、濃い色素の人間は少なからず他国の人間の血が混ざっているらしい。王都に住む者の大半はそうだな」
「そういえば、王都はオルキデア様と同じような髪色の方が多い気がします」
「ああ。代わりに地方に行くとお前と同じ様に、色素の薄い者の方が多い。
南部基地や北部基地に所属する者の大半は、お前と同じだな」
「そうなんですね……」

アリーシャは膝を抱えると、何かを我慢する様に切なげな顔をする。
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