アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

文字の大きさ
285 / 357

海とオーキッド色のお礼・7

しおりを挟む
「ここなら滅多に波が来ないだろう。
城を作るなら、もっと波打ち際に近いところの水分を多く含んでいる土を選べ」

ズボンや手が泥だらけになるのも気にせずに、オルキデアは土の山を作る。ついで、形を整えて、城の輪郭を作っていく。

「この山は……?」
「この山をベースに城の形を整える。今は城の土台を整えているところだ」

土台が出来てくると、土を握って固めたものを山の上に乗せていき、更に城の上部に当たる土台を作っていく。
アリーシャも見様見真似で土を握って固めると、同じ様に土台を作っていった。

「結構、砂のお城作りって大変なんですね」

何度整えても崩れてしまう砂の山に、アリーシャがため息をつく。

「やはり、道具がないと難しいな」
「夏に来る時は、お城作りの道具を持って来ますね」

掌だけではなく、桜貝の様な爪の間にも砂が入っていた。
膝をついていたスカートも、泥を踏んでいたブーツも泥だらけになっていたが、それも気にすることなく、アリーシャは柔和な笑みを浮かべる。

「そうだな……」

その時、一際大きな波が、二人の元までやってきた。
アリーシャに手を貸して立ち上がると、二人の足首まで波がやってきて、今まで作っていた城もどきを壊していったのだった。

「あ……」

愛妻の呟きが消えると、二人はお互いに泥だらけの手を握り合ったまま、顔を見合わせると肩を震わせて笑い合う。

「まあ、これも浜辺での城作りの醍醐味だな」
「これが本で読んだ、砂のお城が波に攫われる。ということなんですね。
一から作り直すなんて嫌だなって思っていましたが、でもこれもお城作りならではの楽しみなんですね!」

二人は海水で手を洗うと、シートまで戻って来る。
先程貰ったオーキッド色の花のハンカチを汚す訳にはいかず、別に持ってきたハンカチで手を拭いていると、膝や手だけではなく、靴やズボン、コートの裾までもが泥で汚れていた。
それはアリーシャも同じようで、スカートやコートが汚れていたのだった。

「俺たち新婚旅行に来て、何をやっているんだろうな」
「二人揃って泥だらけですね。でも、こういうのが、私たちらしくないですか?」
「そうだな。いっそのこと、洗濯代わりに海で泳ぐか?」

アリーシャは「えっ!?」と菫色の目を見開くと、顔を赤面させる。
その顔がおかしくて、ついオルキデアは噴き出してしまう。

「冗談だ。間に受けるな」
「冗談なんですか!? 私は泳げないので、どうしようかと思いました……」
「その時は俺が手を引っ張る。安心しろ」
「海に入らないのに泳げるんですか?」
「士官学校で習った。海上戦で水中に身を投げることになった時に備えて、一通り泳ぎを教わったな」
「すごいです!」

目を輝かせて見つめてくる愛妻に、誇らしい気持ちになるが、すぐに現状を直視する。

「だが、これで借り物の車に乗るのもな……」

まさか泥だらけになるとは思わなかったので、アリーシャだけではなくオルキデアも着替えを持って来なかった。
いつもの借りた車に、二人揃って今の泥だらけの状態で乗ったら、メイソンも激昂するに違いない。

「それなら、近くの洋品店で替えの洋服を買いませんか?」
「そうだな……。探してみるか」

それを合図に、二人でシートや荷物を片付け始める。

「オルキデア様」

不意に名前を呼ばれて、畳みかけのシートを手に振り返る。

「また、夏に来ませんか?」
「ああ。今度こそ砂の城を完成させるぞ」
「はい!」

冷たい潮風が吹きつけてくる中、真夏の太陽の様な笑みが、そこに広がっていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...