アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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風邪・1

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ピピピピッ……と、アリーシャの部屋に電子音が響き渡る。

「風邪だな」

ベッドに横たわるアリーシャから電子体温計を受け取ると、微熱が表示された数字を見て断言する。

「す、すみません……。私が海に行きたいと言ったばかりに……」
「いや、俺ももっと早く切り上げるべきだった。お前だけが悪いわけじゃない」

赤々と頬を染めて、毛布に顔を半分隠しながら、アリーシャは沈んだ顔をした。

新婚旅行で海に行った日から数日後、アリーシャは体調を崩して寝込んでしまった。
海から帰って来た時に、しっかり身体を温めなかったのが原因だろう。
今朝起きた時に、いつも以上に頬が紅潮していたので、自室で寝かせて体温を測らせたところ、微熱があったのだった。

「オルキデア様が悪いわけではありません……。私の体調管理が不十分だったからで……」
「そんなことを言うんじゃない。それを言うなら、お前の体調を気遣えなかった俺の落ち度だ。もう少し、お前を見ていれば気づけただろう」

海で泥だらけになった二人だったが、たまたま近くの洋品店で着替えを購入してーー店主には何事かと驚かれたが。屋敷に戻ってきた。
帰ってきてから自室に備えつけのシャワーを浴びて、泥を落とし、身体を温めたが、それでも不十分だったのだろう。
こんなことになるのなら、もっと早く海を切り上げて帰るべきだった。

「今日は安静にして一日寝てろ。屋敷の事は俺がやっておく」
「すみません……。父に引き取られてからは、体調を崩した事なんて一度もなかったんです……。健康だけが取り柄だったのに……」
「健康以外にも、お前にはまだまだ魅力的なところがある。だから、そんな顔をするな」

泣きそうな顔をするアリーシャの頭を撫でると、そっと離れる。

「氷枕を持ってくる。何かあれば呼んでくれ」

先日、アリーシャの部屋にも電話線を引き、他の部屋にあったが滅多に使っていなかった電話機を移動させた。
ベッド脇のサイドテーブルに設置した電話機を使う様に言うと、毛布の影から小さく頷いたのだった。

部屋を出て一階の厨房に行くと、製氷機に向かう。
扉を開けて中から氷を取り出すと、慣れない手つきで袋に入れていく。

オルキデア自身も久しく体調を崩していないので、この作り方で合っているかわからない。
最後に熱を出したのは、士官学校に入る前。
まだまだ子供という年頃であり、父が存命だった頃。

その日は朝から熱を出して寝込んでいたオルキデアだったが、唯一の家族である父は、「仕事が溜まっていて、今日はどうしても仕事に行かなければならない」と悲痛な顔をしていた。
その頃には子供のオルキデアでも、父の仕事が大変な事くらい知っていた。
そんな父に心配をかけないように、ただ「大丈夫」とだけ答えたのだった。

そんなオルキデアを父は心配しつつも、「なるべく早く帰ってくる」と言って、仕事に出掛けて行った。
そんな父の代わりに来てくれたのが、幼いセシリアを連れたマルテだった。
当時はまだ屋敷には数人の使用人がいたが、マルテは幾つもの仕事を兼任している使用人の誰よりも、オルキデアに尽くしてくれた。

マルテは屋敷にやって来るなり、氷枕を用意して、消化に良い滋養のあるスープを作ってくれた。
汗をかいて着替えるオルキデアの手伝いや、身体を拭くところまで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
いつもなら騒がしい幼いセシリアも、その日だけはベッド脇の椅子に座って、「だいじょうぶ?」と、心配そうに静かに付き添ってくれたのだった。
マルテは夕方まで付き添ってくれたが、メイソンが仕事から帰ってくるからと、セシリアを連れて心配そうに帰宅してしまうと、オルキデアは眠ったのだった。
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