アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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不審な手紙と不穏な影・3

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無邪気に笑顔を見せているが、本当は怖かったに違いない。
その証拠に、帰宅してからずっとオルキデアに身を寄せたままであった。

「そんなことになっていたとは知らず、怖い思いをさせてすまない。だが、屋敷で帰りを待っていてくれて嬉しい」
「約束しましたからね。今は側で待つって」

アリーシャの手を借りつつ私服に着替えると、ようやく屋敷に帰って来れたのだとひと心地つけた。

「お前の顔を見たら安心して、腹が減ってきたな」

思えば、この五日間はまともな食事を与えられていなかった。
餓死されては困るからと、最低限の食事は与えられていたが、戦闘中に支給される栄養バーや栄養ドリンク、飲料水といった味気ないものであった。
愛妻の手料理に想いを馳せつつ、栄養しか考えられていないそれらを食していたのだった。

「それなら、昨晩の夕食の余りがありますよ! いつ帰宅されてもいいように多めに作っていたんです! すぐ食べますか?」
「ああ。この五日間、まともに食べていなかったからな。用意してくれるか?」
「はい! すぐに用意します!食堂で食べますか?」
「ああ。室内を確認したら、すぐに行こう」

厨房に向かったアリーシャを見送ると、そっと自室の机に近づく。
久しぶりに電子メールを立ち上げて、急ぎの要件がないか確認すると、次いで机の上に置かれた郵便物を見ていく。
執務室に一緒に住んでいた頃から、愛妻は郵便物を種類や宛先、受取日ごとに仕分けてくれていた。
それは仮初めの夫婦関係から、正式な夫婦関係になっても変わらず、この五日間分の郵便物も、日付と種類ごとに分けて机の上に置いてくれていたようだった。

手始めに、五日前の郵便物に手を伸ばす。
ほとんどは、ダイレクトメールや請求書だったが、その中に一通、送り主が書かれていない封筒があったのだった。
不審に思いながら開封したところ、新聞の切り抜きで作ったらしい手紙が入っていたのだった。

『去レ。裏切リモノ。国ノ恥サラシ』

「馬鹿馬鹿しい」

それを破り捨てると、四日前に届いた郵便物を確認する。
その中にも、また同じ手紙が混ざっていたのだった。

『女房に危害を加えられたくなければ罪を白状しろ』

眉を顰めると、三日前に到着した郵便物を確認する。

『明日、最初の危害を加える。それが嫌なら罪を明かせ』

「明日……」

口に出して、先程のアリーシャの話を思い出す。
昨日、外から石を投げ込まれたと言われなかったか。
あれが、この手紙が指す危害なのか、それともーー。

嫌な予感がして胸が騒ついた。
それ以降に到着した郵便物には、不審な手紙は混ざっていなかった。
もう一度、電子メールも確認したが、似たような文面のメールは届いていなかった。
それでも、ひとまず、手紙の件を親友と部下に知らせて、犯人探しを手伝ってもらおうと、電子メールを打ち始めたのだったーー。

少し時間を掛けすぎたかと思いながら、食堂に向かう。
テーブルにはやや冷めた料理が並べられていたが、用意してくれた愛妻の姿はなかった。

(忙しいのか……?)

食事をしながら、一人で留守番していた五日間に何をしていたのか聞きたかったが、忙しそうなら仕方がない。
久しぶりの愛妻の食事に舌鼓を打っていると、数発の発砲音に次いで、庭で何かが割れる音が聞こえてきたかと思うと、遠くでアリーシャの悲鳴が聞こえてきたのであった。
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