アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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決意・1

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警察の現場検証の結果、犯人は近くの建物から発砲したことが判明した。
なぜ判明したかというと、たまたま近所に住む住民が不審な動きをする荒くれ者のような男を見かけていたからであった。
その後住民は外出してしまい、発砲の瞬間は見ていないらしいが、外出から帰宅した際にオルキデアの屋敷で銃撃があったと他の住民から話を聞いて、警察に話しに来てくれた。
その荒くれ者の特徴も話してくれたが、王都の貧民街によくいる様な、特に特徴のない者であった。オルキデアたちが住んでいるのは、他の地域に比べて中流家庭か軍人家庭が多い地域なので、貧民街にいる様な貧相な身なりの者がこの辺りに居るのが珍しかったとのことであった。
その住民の話があっても、他に個人を特定出来る情報もなく、また逮捕に繋がる様な情報もなかった。
大方、手紙を出してきた治安部隊か、罪をなすりつけたい元高級士官の仲間の仕業だろう。
自分たちの身元を特定されないように、金で人を雇って危害を加えるという話は、仕事柄よく聞いて知っていた。

それなら荒くれ者を見つけ出し、雇い主より金を積んで、雇い主の名前を吐かせればいいだけの話だった。
芋づる式に窓ガラスを割った犯人や、ゴミを投げ入れる犯人も判明するかもしれない。
荒くれ者の特定と逮捕については後で考えるとして、今は立て続けに怖い思いをして、さぞかし不安がっているであろう愛妻が心配であった。

何か気晴らしになる様な物を用意した方が良いかもしれない。
そんなことを考えている間に警察が現場の調査を終えたので、オルキデアは警察を見送ると、自室で休んでいるというアリーシャの元を尋ねたのだった。

「アリーシャ、入っていいか?」

扉の奥から「どうぞ」と聞こえてきて、扉を開ける。
なかなか姿を見つけられず、辺りを探していると、靴を脱いでソファーに寝そべる愛妻の姿を見つけたのだった。

「大丈夫か?」
「大丈夫です……。なんだか、疲れてしまって……」

だるそうに半身を起こしたアリーシャの前に膝をつくと、細身の肩を支える。

「とりあえず、警察は帰った。犯人はこれから特定するそうだ」
「そうですか……」
「疲れたならもう休め。あとは俺がやるから」
「でも、オルキデア様も疲れて……」
「俺は平気だ。それより、お前の方が具合が悪そうだ。こんなところで寝てないでベッドで寝た方がいい」
「はい……」

手を貸してベッドまで連れて行くと、横になったアリーシャに毛布を掛ける。

「すみません……ご面倒をおかけして……」

いつになく弱った姿を見せるアリーシャに胸が辛くなる。

「気にするな。俺も心配をかけていたからな」

嘘でもなんでもいいから、元高級士官の共犯だと言ってしまえばいい。
そうすれば、アリーシャを狙った嫌がらせもなくなるはずだ。
アリーシャが無事なら、降格処分になろうが、投獄されようが、死罪になろうが、別に構わない。愛する人さえ無事ならばーー。

(ただ、それで本当にいいのだろうか)

自分が嘘の自供をしたとして、本当に嫌がらせは治まるのだろうか。
「裏切り者」と罵られ、嫌がらせは過激にならないだろうか。
それが原因でますますアリーシャに心労を掛けることにならないだろうか。
そんな考えばかりが、胸中に渦巻いていたのだった。 
 
「今はゆっくり休め。何か必要なものはないか。後ほど、持って来るがーー」

アリーシャは小さく首を振った。

「大丈夫です。最近食欲もないので、何も食べる気もしませんし、身体が怠くて読書をする気力もありません」
「そんなに酷いのか。それなら病院にーー」
「平気です。いつものように、少し寝ていれば落ち着くと思うのでーー」
「そうなのか……?」
「あっ! でも少しだけ手を握ってもいいですか?」
「それだけでいいのか?」

オルキデアが手を差し出すと、アリーシャはその手に指を絡めて握りしめる。

「こうすると、気持ちが落ち着くんです」

頬を赤く染めながらはにかむアリーシャに、オルキデアもつい小さく笑みを浮かべてしまう。

「そうか」

それ以上は何も話さず、ただアリーシャは小さく頷く。
少ししてどちらともなく手を離すと、アリーシャを休ませる為に、オルキデアはすぐに部屋を出る。
帰宅した時はまだ明るかった外は、いつの間にか夕闇へと姿を変えていたのだった。
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