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別れと断髪・4
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クシャースラが去り、しばらく呆然としていたオルキデアだったが、ふと窓を見ると、今にも雪が降りそうな灰色の重い雲が広がっていた。
心なしか、部屋の室温が低くくなったような気さえした。
オルキデアは椅子から立ち上がると、部屋に備え付けの暖炉に近づいていった。
薪は秋の内に既に運び込んでいたので、後は火をつけるだけの状態となっていた。
机の引き出しからマッチを取り出すと、火を点けて暖炉の中に放り込む。火種はすぐに薪に燃え移り、薪の爆ぜる音が聞こえてきたのだった。
しばらく音を立てて燃える薪を眺めていたオルキデアだったが、マッチを戻しに行った際に郵便物が床に散らばったままだったことに気づく。
床に屈んで郵便物を拾っていると、不意に部屋の扉が開いたような音が聞こえてきたのだった。
「そこに居ても寒いだろう。早く入って来い。アリーシャ……」
話しながら顔を上げたオルキデアだったが、わずかに開いた扉の前には誰もいなかった。建付けに問題は無かったので、恐らくクシャースラが完全に扉を閉めずに出て行ったのだろう。隙間風が吹いて開いてしまったに違いない。
(国に返したアリーシャがいる訳がないのに、何を期待したんだか……)
自分自身に呆れつつも扉を閉めに行った時、どこからか声が聞こえてきたような気がして、その場で立ち止まってしまう。
ーーオルキデア様!
鼓膜を打つ柔らかな声に、オルキデアは廊下に飛び出す。
「アリーシャ……」
アリーシャがいる訳がない。それなのに耳の奥ではアリーシャの柔らかな声がずっと響いていた。
「アリーシャ……!」
知らず、オルキデアは廊下を駆け出していた。
書斎、アリーシャの部屋、厨房、応接間、庭、倉庫とあちこちに向かうが、アリーシャの姿はどこにもなかった。
ーーオルキデア様。寒くないですか? 何か温かいものをお持ちしますか?
それにも関わらず、耳の奥ではオルキデアの名を呼ぶアリーシャの鈴の様な声が響いていた。
裏庭まで行った時に、ようやくオルキデアは我に返る。
「そうだ……アリーシャの声が聞こえる訳がない。彼女は帰したんだ」
力なく笑った後、オルキデアは来た道を戻って行く。階段を上りながら独り言ちる。
「俺も腑抜けになったな。すっかり、好きな女無くしては生きられない男になって……」
アリーシャと出会うまで、オルキデアは一人で生きてきた。
たまたま戦場で記憶喪失だったアリーシャを拾い、折よく持ち込まれたティシュトリアからの縁談を断る理由としてアリーシャを利用しただけだった。
本当ならそこで終わるはずだった。
ティシュトリアの件が解決したら、アリーシャとは別れて、また一人に戻るはずだった。
それがアリーシャを愛して、アリーシャに愛されたことで、期間が長くなっただけだった。
ようやく本来の形に戻ったのだ。今更何を戸惑っているのだろう。
部屋に戻り、まだ拾い途中だった郵便物を集めると机の上に置く。
その時、ふと窓ガラスに映った自分の姿が目に入った。
監禁されている間に頬はややこけたようで、伸ばしっぱなしにしていたダーグブラウンの髪と隈の出来た目元も相まって、どことなく不気味な雰囲気を醸し出していた。
何気なく今にも肩につきそうな髪に触れた時、また耳の奥でアリーシャの声が響いた。
ーーオルキデア様の髪は柔らかくて、さらさらで綺麗です。
オルキデアは目を伏せると、机の引き出しを開ける。
中から鋏を取り出すと、適当に掴んだひと房のダークブラウンを断ち切ったのだったーー。
心なしか、部屋の室温が低くくなったような気さえした。
オルキデアは椅子から立ち上がると、部屋に備え付けの暖炉に近づいていった。
薪は秋の内に既に運び込んでいたので、後は火をつけるだけの状態となっていた。
机の引き出しからマッチを取り出すと、火を点けて暖炉の中に放り込む。火種はすぐに薪に燃え移り、薪の爆ぜる音が聞こえてきたのだった。
しばらく音を立てて燃える薪を眺めていたオルキデアだったが、マッチを戻しに行った際に郵便物が床に散らばったままだったことに気づく。
床に屈んで郵便物を拾っていると、不意に部屋の扉が開いたような音が聞こえてきたのだった。
「そこに居ても寒いだろう。早く入って来い。アリーシャ……」
話しながら顔を上げたオルキデアだったが、わずかに開いた扉の前には誰もいなかった。建付けに問題は無かったので、恐らくクシャースラが完全に扉を閉めずに出て行ったのだろう。隙間風が吹いて開いてしまったに違いない。
(国に返したアリーシャがいる訳がないのに、何を期待したんだか……)
自分自身に呆れつつも扉を閉めに行った時、どこからか声が聞こえてきたような気がして、その場で立ち止まってしまう。
ーーオルキデア様!
鼓膜を打つ柔らかな声に、オルキデアは廊下に飛び出す。
「アリーシャ……」
アリーシャがいる訳がない。それなのに耳の奥ではアリーシャの柔らかな声がずっと響いていた。
「アリーシャ……!」
知らず、オルキデアは廊下を駆け出していた。
書斎、アリーシャの部屋、厨房、応接間、庭、倉庫とあちこちに向かうが、アリーシャの姿はどこにもなかった。
ーーオルキデア様。寒くないですか? 何か温かいものをお持ちしますか?
それにも関わらず、耳の奥ではオルキデアの名を呼ぶアリーシャの鈴の様な声が響いていた。
裏庭まで行った時に、ようやくオルキデアは我に返る。
「そうだ……アリーシャの声が聞こえる訳がない。彼女は帰したんだ」
力なく笑った後、オルキデアは来た道を戻って行く。階段を上りながら独り言ちる。
「俺も腑抜けになったな。すっかり、好きな女無くしては生きられない男になって……」
アリーシャと出会うまで、オルキデアは一人で生きてきた。
たまたま戦場で記憶喪失だったアリーシャを拾い、折よく持ち込まれたティシュトリアからの縁談を断る理由としてアリーシャを利用しただけだった。
本当ならそこで終わるはずだった。
ティシュトリアの件が解決したら、アリーシャとは別れて、また一人に戻るはずだった。
それがアリーシャを愛して、アリーシャに愛されたことで、期間が長くなっただけだった。
ようやく本来の形に戻ったのだ。今更何を戸惑っているのだろう。
部屋に戻り、まだ拾い途中だった郵便物を集めると机の上に置く。
その時、ふと窓ガラスに映った自分の姿が目に入った。
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何気なく今にも肩につきそうな髪に触れた時、また耳の奥でアリーシャの声が響いた。
ーーオルキデア様の髪は柔らかくて、さらさらで綺麗です。
オルキデアは目を伏せると、机の引き出しを開ける。
中から鋏を取り出すと、適当に掴んだひと房のダークブラウンを断ち切ったのだったーー。
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