アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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目が覚めると……・1

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頬に当たる風が冷たい。
身体中が重く、胃がムカムカとする。

(気持ち悪い……)

ここ数日間で特に酷い気持ち悪さだった。
具合が悪いにも関わらず、更には乗り物酔いをした時のような、そんな感じーー。

「えっ……」

アリーシャが目を開けると、そこは見知らぬ車の中だった。

「目が覚めたのかい?」

運転席から声を掛けてきたのは、白髪に白髭を蓄えた老爺だった。

「よく眠っていたね。もうじき到着するよ」
「あの、ここは……?」
「ここはハルモニアとシュタルクヘルトの境目だね。丁度、シュタルクヘルトに入ったところさ」
「シュタルクヘルト? だって、私は、ペルフェクトに居たんじゃ……」

どうして、とアリーシャは自問する。
眠るまで自分はペルフェクト王国の王都に居たはず。
オルキデアの屋敷のベッドで眠っていたはずなのに……。

左手を見るが、そこにオルキデアとの夫婦の証である銀色の結婚指輪は存在していなかった。
慌てて首元を探れば、そこにはプレゼントされたばかりのコーラルピンクと薄紫のネックレスがあった。
今までの出来事が夢じゃなかったと安堵した反面、今度は別の疑問が浮かんでくる。

「あの……」

運転席に顔を覗かせながら、そこまで言いかた時、アリーシャは「うっ!」と口を押さえた。

「どうしたんだね?」

老爺からは煙草と油彩の混ざった様な不快な臭いがしてきた。
いつもなら平気だった。でも、今のーーここ数日のアリーシャには無理だった。

「ぎもぢわるい……」
「はっ……?」
「は、吐ぎそう……」

そうして、老爺が近くの公園らしき場所に車を停めるなり、アリーシャは公園に併設する手洗いに駆け込んだ。薄暗い個室に入るなり、アリーシャは胃の中のものを吐き出したのであった。

「ごほっ……! げほっ……! ごほっ……」

しばらくして胃の中のものを全て吐き出して空っぽにしてしまうと、まだ胃はムカムカするが、多少吐き気は落ち着いた。

(一体、どうしたんだろう……私……)

個室から出て、水道で手を洗いながら、アリーシャは嘆息する。
ここ最近、ずっと体調が悪かった。最初は海に行った際に引いた風邪が長引いているのかと思ったが、いくら休んでも治る様子はなかった。

(変な病気に罹ったのかな……)

ここ最近の自分は変だ。健康しか取り柄がなかったのに体調を崩してばかりで。
手洗いから出ると、目の前には先程の老爺が煙草を吸っていた。
ヤニの臭いにまた胃がムカムカして、吐き気が込み上げてきたので、適度に距離を取りながらアリーシャは近づく。

「あの……」
「ああ。体調はもう大丈夫かい?」
「はい。すみません。ご迷惑をおかけして……」
「いいんだよ。さぁ、行こうか。お迎えも来ているそうじゃないか」

老爺は煙草を地面に落とすと、踏みつけて火を消す。
そのまま車に戻ろうとしたので、アリーシャは慌てて声を掛ける。
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