アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

夜霞

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目が覚めると……・2

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「待って下さい。私はシュタルクヘルトには戻りません。ペルフェクトに戻ります」
「どうしてだい?」
「あの国には、愛する人がいるからです。車を戻して下さい。私、ペルフェクトに……」
「無駄じゃよ」

老爺の言葉に、アリーシャは固まる。

「どうして……」
「戦局が悪化してね。ハルモニアからペルフェクトに続く道は封鎖されたんじゃ。シュタルクヘルトも。この道が唯一残された道でね」
「そんな……」
「この道も間もなく軍に封鎖されるだろう。その前にお嬢さんをシュタルクヘルトに送り届けなければならない。そういう依頼なんじゃよ」
「誰の依頼なんですか?」
「それは言えない。そういう契約でね。さぁ、行こうか。お嬢さんの迎えが来ているそうだからね」

老爺に促されてアリーシャは車に乗り込む。
アリーシャが気持ち悪いと言ったからだろうか。今度は車の窓を全開にしてくれた。案外、悪い人では無いのだろう。
車はゆっくりと動き出すと、公園を後にした。

(どうして、急にシュタルクヘルトに帰されるんだろう。私、何かやったのかな……?)

安定した道なのか、車はほとんど揺れることなく走り続けていた。外の景色を眺めながら、アリーシャはじっと考え続ける。

(誰の依頼かは言えないって言っていたけど、私が知ってる人からの依頼とか……? まさか、オルキデア様……?)

アリーシャはそっと首を振る。

(そんなことない! だって、あんなにも愛してくれて、何度も好きだって言ってくれて……!)

一緒にペルフェクトのお祭りに行った日、「愛してる」と言ったアリーシャに、オルキデアも「愛してる」と返してくれた。
「ずっと一緒にいる」と約束して、小指も絡めた。

(あれは全部嘘だったの……? 今までの時間は、言葉は、全て嘘で……)

その時、頭の中に最後に見たオルキデアの顔が思い浮かぶ。

ーーこんな俺を愛してくれてありがとう……幸せにな。

最後に見た時のオルキデアは、まるで別れを知っているかの様な表情だった。
アリーシャと、二度と会えなくなるのを知っているかのようにーー。

(まさか、そんなはずないよね……? 嘘だと言ってよ。ねぇ……)

膝の上で両手を握りしめる。
それでもアリーシャの両目からは涙が溢れそうになって俯くが、それでも握りしめた両手の上に落ちてしまう。

(嘘だと言って……言って下さい。オルキデア様……!)

これが夢なら早く覚めて欲しい。
目が覚めたら、隣にはオルキデアが居て、「珍しく寝坊か」と悪戯な笑みを浮かべている。
そんなオルキデアに、アリーシャは言うのだ。
「悪い夢を見ていました。誰も愛してくれる人がいない、愛する者がいない寂しい国に、一人で帰る夢をーー」と。

けれども頬を流れる涙も、濡れた頬に当たる風も、何もかもが、これが現実だと訴えてくる。

(オルキデア様……)

アリーシャの様子に気づいていないのか、運転席からは老爺が歌う調子外れの鼻歌が聞こえてくる。
そんな鼻歌に紛れるように、アリーシャは涙を零し続けたのだった。
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