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第一部
婚姻届【2】
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「さて」
マキウスは先程までニコラが寝ていた場所に座った。
マキウスの端整な横顔に、モニカの胸は大きく高鳴ったのだった。
「貴方とは、いくつかお話したいことがあります」
「はい、私もマキウス様に聞きたいことがあります」
「そうでしょうね。その前に、先にこれをお願いしてもいいですか?」
そう言ってマキウスは、先程アマンテに手渡された白い羊皮紙を渡してきたのだった。
「マキウス様、これは?」
「婚姻届です」
「これが、婚姻届……」
「そうです。文字は読めますか?」
マキウスに心配そうに訊ねられて、モニカは受け取った羊皮紙をざっと読む。
この世界に来たばかりの、まだ「御國」だった頃は、文字の読み書きは全く出来なかった。
けれども、「モニカ」と混ざり合ってからは、一通りの読み書きが、出来るようになっていた。
文字を見れば頭の中で日本語に変換され、文字を書こうとペンを持てば手が勝手に動いてこの世界の文字として記せた。
この羊皮紙も目を通したら、頭の中で日本語に変換されたのだった。
「はい。読めます」
「それなら、良かったです。この婚姻届に名前を書いて欲しいんです。
これでようやく、私たちは夫婦になれます」
以前、マキウスは、モニカとはまだ婚約関係だと言っていた。
その辺りの記憶は「モニカ」から引き継いでいないのでわからないが、どうやら「モニカ」はマキウスが用意した婚姻届を頑なに拒否していたらしい。
「子供がいるのに、夫婦じゃないというのは体裁が悪いですからね。私は先に名前を書いています。後は貴方の名前を書いて、騎士団に提出するだけとなります」
もう一度、羊皮紙を読むと、既にマキウスの名前が書いてあった。
モニカはインク壺とペンを取り出すと、机代わりに使っている鏡台に置いた。
その様子を見たマキウスは「今度、書き物机を用意しますね」と苦笑したのだった。
「ここに名前を書けばいいんですね?」
「そうです」
モニカが指差した箇所を見たマキウスは頷いた。
けれども、モニカがペンを握ったまま固まってしまったので、マキウスは眉を顰めたのだった。
「どうしましたか? もしかして、文字が書けませんか……?」
マキウスが心配そうに問いかけてきたが、モニカは首を振ったのだった。
「いいえ。そうじゃないんです。なんだか、緊張してしまって」
婚姻届に名前を書いて、マキウスの妻になる。
それ自体は何も心配はない。不安も。
「まだ、自分がモニカになったという自覚が無いんです。だから、間違えずに名前を書けるか緊張してしまって」
今でも気を抜くと、元の世界での名前である「御國」と書いてしまいそうだった。
「モニカ」として、これからこの世界で生きると決めた以上、しっかりしなければならないのに。
すると、マキウスは側にやってくると、そっとモニカの肩に触れた。
そうして、安心させるように微笑んだのだった。
「何回、書き間違えても大丈夫ですよ。婚姻届はいくらでももらってこられますからね……仕事先から」
「そうなんですね」
「貴女が早くこの世界と、ここでの生活に慣れるように、私も力を尽くします。その為なら、婚姻届をもらってくるだけの些細な労力など、全く苦になりません」
モニカは安心すると、婚姻届に名前を書いた。
生年月日の欄はわからなくて悩みかけたが、これは「モニカ」から受け継いだ記憶の中にあった。
これまでの「モニカ」が蓄積してきた思い出や知識を、今のモニカは「モニカ備忘録」と称している。
自分と混ざり合ったことで、「モニカ」も自分の一部となった。
それによって、この世界の文字の読み書きが出来るようになった。
けれども、思い出だけは、どこか客観的に見ているような、テレビを見ているように見ていた。
実際は体験していないのに、実体験をしているような気分になる。
その時に「モニカ」がどう感じたのか、どう考えたのかはわかるのに、今のモニカは実際に体験していないから、ただそれを眺めているだけ。
一人になった時、たまに「モニカ備忘録」を見ているが、まさに映画を観ているか、小説を読んでいるような気分になるのだった。
「はい。書けました」
モニカが渡した婚姻届をマキウスは眺めると、満足そうに頷いたのだった。
「ありがとうございます。それでは、明日、騎士団に提出しておきます」
「ところで、どうして騎士団に婚姻届出すんですか? お役所……。戸籍を管理しているのは、文官とか、役人とか、とにかく別の場所だと思っていました」
「ああ。それは、騎士団の一部が担っているからですよ」
「騎士団が……?」
マキウスは先程までニコラが寝ていた場所に座った。
マキウスの端整な横顔に、モニカの胸は大きく高鳴ったのだった。
「貴方とは、いくつかお話したいことがあります」
「はい、私もマキウス様に聞きたいことがあります」
「そうでしょうね。その前に、先にこれをお願いしてもいいですか?」
そう言ってマキウスは、先程アマンテに手渡された白い羊皮紙を渡してきたのだった。
「マキウス様、これは?」
「婚姻届です」
「これが、婚姻届……」
「そうです。文字は読めますか?」
マキウスに心配そうに訊ねられて、モニカは受け取った羊皮紙をざっと読む。
この世界に来たばかりの、まだ「御國」だった頃は、文字の読み書きは全く出来なかった。
けれども、「モニカ」と混ざり合ってからは、一通りの読み書きが、出来るようになっていた。
文字を見れば頭の中で日本語に変換され、文字を書こうとペンを持てば手が勝手に動いてこの世界の文字として記せた。
この羊皮紙も目を通したら、頭の中で日本語に変換されたのだった。
「はい。読めます」
「それなら、良かったです。この婚姻届に名前を書いて欲しいんです。
これでようやく、私たちは夫婦になれます」
以前、マキウスは、モニカとはまだ婚約関係だと言っていた。
その辺りの記憶は「モニカ」から引き継いでいないのでわからないが、どうやら「モニカ」はマキウスが用意した婚姻届を頑なに拒否していたらしい。
「子供がいるのに、夫婦じゃないというのは体裁が悪いですからね。私は先に名前を書いています。後は貴方の名前を書いて、騎士団に提出するだけとなります」
もう一度、羊皮紙を読むと、既にマキウスの名前が書いてあった。
モニカはインク壺とペンを取り出すと、机代わりに使っている鏡台に置いた。
その様子を見たマキウスは「今度、書き物机を用意しますね」と苦笑したのだった。
「ここに名前を書けばいいんですね?」
「そうです」
モニカが指差した箇所を見たマキウスは頷いた。
けれども、モニカがペンを握ったまま固まってしまったので、マキウスは眉を顰めたのだった。
「どうしましたか? もしかして、文字が書けませんか……?」
マキウスが心配そうに問いかけてきたが、モニカは首を振ったのだった。
「いいえ。そうじゃないんです。なんだか、緊張してしまって」
婚姻届に名前を書いて、マキウスの妻になる。
それ自体は何も心配はない。不安も。
「まだ、自分がモニカになったという自覚が無いんです。だから、間違えずに名前を書けるか緊張してしまって」
今でも気を抜くと、元の世界での名前である「御國」と書いてしまいそうだった。
「モニカ」として、これからこの世界で生きると決めた以上、しっかりしなければならないのに。
すると、マキウスは側にやってくると、そっとモニカの肩に触れた。
そうして、安心させるように微笑んだのだった。
「何回、書き間違えても大丈夫ですよ。婚姻届はいくらでももらってこられますからね……仕事先から」
「そうなんですね」
「貴女が早くこの世界と、ここでの生活に慣れるように、私も力を尽くします。その為なら、婚姻届をもらってくるだけの些細な労力など、全く苦になりません」
モニカは安心すると、婚姻届に名前を書いた。
生年月日の欄はわからなくて悩みかけたが、これは「モニカ」から受け継いだ記憶の中にあった。
これまでの「モニカ」が蓄積してきた思い出や知識を、今のモニカは「モニカ備忘録」と称している。
自分と混ざり合ったことで、「モニカ」も自分の一部となった。
それによって、この世界の文字の読み書きが出来るようになった。
けれども、思い出だけは、どこか客観的に見ているような、テレビを見ているように見ていた。
実際は体験していないのに、実体験をしているような気分になる。
その時に「モニカ」がどう感じたのか、どう考えたのかはわかるのに、今のモニカは実際に体験していないから、ただそれを眺めているだけ。
一人になった時、たまに「モニカ備忘録」を見ているが、まさに映画を観ているか、小説を読んでいるような気分になるのだった。
「はい。書けました」
モニカが渡した婚姻届をマキウスは眺めると、満足そうに頷いたのだった。
「ありがとうございます。それでは、明日、騎士団に提出しておきます」
「ところで、どうして騎士団に婚姻届出すんですか? お役所……。戸籍を管理しているのは、文官とか、役人とか、とにかく別の場所だと思っていました」
「ああ。それは、騎士団の一部が担っているからですよ」
「騎士団が……?」
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