76 / 247
第一部
夫の優しさ【2】
しおりを挟む
モニカは湯浴みを済ませると、髪を梳かしながら部屋で待っていた。
どうもモニカの髪質はサラサラした軽い髪質のようで、手で触れると絹のようにサラリと手から落ちるくらいであった。
それが連日ティカたちメイドの手で丁寧に手入れされているからか、ますますサラリとした髪質になっていた。
御國だった頃は髪質をキープするのが大変で、定期的に美容室に通わなければならなかった。モニカの髪質が羨ましいくらいであった。
そんなモニカの髪質が羨ましくて、ついつい手持ち無沙汰になると髪を触ってしまう。
本来の貴族なら自分でやらず、メイドにしてもらう様な髪を梳かすことさえ、自分でやる様になっていた。
(でも、髪が長いと手入れが大変だよね……。マキウス様かペルラさんに聞いて、少し切れないか聞いてみようかな)
御國だった頃は、腰近くまで髪を伸ばしたことはなかった。
仕事中に邪魔になるからという理由で、ある程度伸びたらすぐに切るようにしていた。
それは今も同じで、ニコラの相手をしている時はどうしても髪が邪魔になるのだった。
どうもこの世界では、既婚の女性は髪を後ろで一つにまとめるのが当たり前のようで、モニカも毎朝髪をまとめてもらっていた。
ただ、軽い髪質だからかすぐにほどけてしまうようで、日に何度もまとめ直す必要があった。
それが面倒でうんざりしていたのだった。
長めの金髪を梳かしていると、控えめなノックの音が聞こえてきた。
最近は扉を叩く音だけでなんとなく誰が部屋に来たのかわかるようになってきたので、この時も櫛を置くとすぐに答えたのだった。
「お待ちしていました。どうぞ、マキウス様」
「モニカ、入りますよ」
部屋に入って来たのはやはりマキウスだった。
モニカと同じように湯浴みをしてきたのか、灰色の髪はサラリと背中に流れていたのだった。
「すみません。私から約束を取り付けながら遅くなりました」
「いえ。私も湯浴みを済ませたばかりでしたので」
「それで、髪を梳かしていたのですか?」
鏡台に置いていた櫛を見つけたのだろう。
モニカが頷くと、鏡台に近いてきたマキウスは櫛を手に取ったのだった。
「マキウス様?」
「私も梳かしていいですか?」
「は、はい。それは構いませんが……」
すると、マキウスは鏡台の方を向くように言うと、後ろに立ってモニカの金の髪を梳かしだしたのだった。
「梳かすって、自分の髪ではなく、私の髪を梳かすんですか?」
「ええ。姉上から話を聞いて、貴女の髪をじっくり触れてみたかったんです。
触り心地の良い髪だったと聞いたので」
ヴィオーラから聞いたというのは、おそらく庭の木に引っかかった洗濯物を取ってもらった時の話だろう。
ヴィオーラが髪に触れてきたのは、その時だけであった。
「でも、髪に触りたいだけなら、何も櫛で梳かす必要もないと思います。普通に触ればいいだけで……」
「せっかく貴女の髪に触らせてもらうんです。ただ触るだけにはいきません。
それに、こう見えて子供の頃は、姉上に髪を梳かすように強要されたこともあるんです。無論、姉上の髪をですが」
「そ、そうですか……」
髪を梳かされながら、きっとマキウスはいつものように魔力の補給に来たのだろうと、この時のモニカは思っていた。
そのついでに髪を梳かしてくれるのだと。
だから、油断していた。
鏡越しにマキウスの手が止まったのが見えたかと思うと、不意に背中から抱きしめられたのだった。
「マキウス様……?」
「そのまま、前を向いていて下さい」
モニカが振り向こうとすると、マキウスはそれを制して、ますます強く抱きしめてきた。
「何を我慢しているのですか?」
「が、我慢だなんて、そんな……!」
赤面しながら、マキウスの力強い腕を解こうする。
けれども腕は解けるどころか、マキウスはモニカの肩に顔を埋めてきたのだった。
どうもモニカの髪質はサラサラした軽い髪質のようで、手で触れると絹のようにサラリと手から落ちるくらいであった。
それが連日ティカたちメイドの手で丁寧に手入れされているからか、ますますサラリとした髪質になっていた。
御國だった頃は髪質をキープするのが大変で、定期的に美容室に通わなければならなかった。モニカの髪質が羨ましいくらいであった。
そんなモニカの髪質が羨ましくて、ついつい手持ち無沙汰になると髪を触ってしまう。
本来の貴族なら自分でやらず、メイドにしてもらう様な髪を梳かすことさえ、自分でやる様になっていた。
(でも、髪が長いと手入れが大変だよね……。マキウス様かペルラさんに聞いて、少し切れないか聞いてみようかな)
御國だった頃は、腰近くまで髪を伸ばしたことはなかった。
仕事中に邪魔になるからという理由で、ある程度伸びたらすぐに切るようにしていた。
それは今も同じで、ニコラの相手をしている時はどうしても髪が邪魔になるのだった。
どうもこの世界では、既婚の女性は髪を後ろで一つにまとめるのが当たり前のようで、モニカも毎朝髪をまとめてもらっていた。
ただ、軽い髪質だからかすぐにほどけてしまうようで、日に何度もまとめ直す必要があった。
それが面倒でうんざりしていたのだった。
長めの金髪を梳かしていると、控えめなノックの音が聞こえてきた。
最近は扉を叩く音だけでなんとなく誰が部屋に来たのかわかるようになってきたので、この時も櫛を置くとすぐに答えたのだった。
「お待ちしていました。どうぞ、マキウス様」
「モニカ、入りますよ」
部屋に入って来たのはやはりマキウスだった。
モニカと同じように湯浴みをしてきたのか、灰色の髪はサラリと背中に流れていたのだった。
「すみません。私から約束を取り付けながら遅くなりました」
「いえ。私も湯浴みを済ませたばかりでしたので」
「それで、髪を梳かしていたのですか?」
鏡台に置いていた櫛を見つけたのだろう。
モニカが頷くと、鏡台に近いてきたマキウスは櫛を手に取ったのだった。
「マキウス様?」
「私も梳かしていいですか?」
「は、はい。それは構いませんが……」
すると、マキウスは鏡台の方を向くように言うと、後ろに立ってモニカの金の髪を梳かしだしたのだった。
「梳かすって、自分の髪ではなく、私の髪を梳かすんですか?」
「ええ。姉上から話を聞いて、貴女の髪をじっくり触れてみたかったんです。
触り心地の良い髪だったと聞いたので」
ヴィオーラから聞いたというのは、おそらく庭の木に引っかかった洗濯物を取ってもらった時の話だろう。
ヴィオーラが髪に触れてきたのは、その時だけであった。
「でも、髪に触りたいだけなら、何も櫛で梳かす必要もないと思います。普通に触ればいいだけで……」
「せっかく貴女の髪に触らせてもらうんです。ただ触るだけにはいきません。
それに、こう見えて子供の頃は、姉上に髪を梳かすように強要されたこともあるんです。無論、姉上の髪をですが」
「そ、そうですか……」
髪を梳かされながら、きっとマキウスはいつものように魔力の補給に来たのだろうと、この時のモニカは思っていた。
そのついでに髪を梳かしてくれるのだと。
だから、油断していた。
鏡越しにマキウスの手が止まったのが見えたかと思うと、不意に背中から抱きしめられたのだった。
「マキウス様……?」
「そのまま、前を向いていて下さい」
モニカが振り向こうとすると、マキウスはそれを制して、ますます強く抱きしめてきた。
「何を我慢しているのですか?」
「が、我慢だなんて、そんな……!」
赤面しながら、マキウスの力強い腕を解こうする。
けれども腕は解けるどころか、マキウスはモニカの肩に顔を埋めてきたのだった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる