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第一部

夫の優しさ【3】

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「アマンテから聞きました。ここのところ、ずっとぼうっとしていて様子がおかしいと。何か悩みごとでも?」
「悩みごとなんて、そんな……」
「私に話してくれませんか?」
「それは……」

 マキウスの身体が温かく、つい甘えてしまいそうになる。
 ほのかに身体から漂ってくる香りも、モニカを包み込む大きな身体も、弱っていた心に深く沁み入った。

 (夢の話をしちゃおうかな……。でもマキウス様に心配を掛ける訳にもいかないし……)

 モニカが迷っていると、肩から顔を離したマキウスはそっと息をついた。

「……私では頼りになりませんか?」
「そんなことはありません!」

 マキウスの言葉に、モニカは即答した。
 項垂れているようなマキウスに対して、モニカは膝の上で握りしめた手に視線を落とすと口を開く。

「これは、こればかりは私が乗り越えなければならないんです。マキウス様のことは頼りにしていないわけではないんです。でも、こればかりは……」
「……そうですか」

 先程からマキウスの吐息が耳にかかってくすぐったかった。
 俯いていると、ようやくマキウスは腕を緩めてくれた。

「何かあれば、いつでも相談して下さい。これはそれを忘れない為の印です」

 そうして、マキウスはモニカのうなじに軽く口づけてきたのだった。

「あっ……」

 マキウスは顔を離すと、モニカからそっと離れた。

「約束ですよ。わかりましたね」
「はい……」

 それ以上は何も聞かず、ただ黙って椅子を片付ける灰色の背中を見ていると、その優しさにモニカの涙腺は緩みそうになる。
 マキウスは戻ってくると、鏡台に座るモニカの前に片膝をついたのだった。

「さあ、魔力を補給します。指輪を貸して下さい」

 モニカが指輪を身につけた手を差し出すと、マキウスは自分の手を重ねてくる。
 すると、マキウスの魔力に反応して、魔法石が鈍く青い光を放ったのだった。
 
 魔法石の魔力は、持ち主が指輪に触れて、持ち主が念じるだけで魔力を補給できるらしい。
 持ち主が指輪に触れている時間が長ければ長い程、魔力を多く補給出来る。
 魔法石は魔力が溜まる程、魔法石の輝きが増し、反対に魔法石の魔力が少ないと輝きが鈍くなるとのことだった。

 実際に、モニカの魔法石は屋敷内で使っただけでも、かなり魔力を消費しているようで、魔法石の青色の輝きは鈍っていた。
 毎晩、マキウスに補給をしてもらうことで、海を思い浮かべるような青色の輝きが魔法石に戻っていたのだった。
 
「終わりました。私は部屋に戻ります」

 マキウスはモニカの手を離した。
 いつもマキウスの手が離れる度に、名残惜しい気持ちになってしまう。
 行かないで欲しいと、モニカは手を掴んでしまいそうになるのだった。

「ありがとうございました。マキウス様」
「モニカ」

 そんな気持ちを制して、いつもの様に笑みを浮かべる。
 すると、いつもとは違い、マキウスは柔らかな口調で話し出したのだった。
 
「いつでも私のことを頼って下さい。
 貴女が私の力になってくれるように、私も貴女の力になりたいです」
 
 そうして、マキウスは「おやすみなさい」と言って部屋を出て行った。

「マキウス様……」

 モニカの胸はジーンと温かくなったのだった。
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